世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)西ジャワ地域の専門家として

インドネシア教育大学
三上京子

バンドンの大学に派遣されて

国際交流基金は、インドネシア各地に日本語教育の専門家を送っていますが、私は、2013年に西ジャワ州のバンドンに派遣されました。バンドンは、首都ジャカルタから列車か車で約3時間の高原にある学園都市です。市内には国立・私立を合わせて20以上の大学があり、日本語や日本文学を専攻できる大学が8つもあります。私が派遣されているのは、インドネシアで唯一、日本語教育学修士号が取得できるインドネシア教育大学大学院です。

大学院では、修士号をとって将来インドネシアの大学で日本語を教えたいという院生たちに、日本語教育の専門科目を教えたり、研究や修士論文執筆の相談に乗ったりしています。

西ジャワ地域の専門家として

西ジャワ州は、インドネシアの中で最も日本語学習者数の多い地域です。そこでは、専門家は派遣先の大学だけでなく、地域全体の日本語教育を支援することが求められます。例えば、インドネシア日本語教育学会が主催するセミナーで講演したり、大学合同の文化祭や高校の文化祭で審査員をしたりします。また、日本語専攻のある他の大学を訪問、授業見学をして先生方にアドバイスをしたり、授業や研究に役立ちそうな図書の紹介をしたりすることもあります。

さらに、大学で開催される研究会や高校教師会などでも、様々なテーマで講演したり、教え方のワークショップを開いたりします。これまでに扱ったテーマは、「助詞の使い分けと教え方」、「日本人も間違える?敬語の話」、「日本語教育における多読授業の実践」、「楽しみながら学習できる~アクティビティとゲーム~」、「日本のお祭りと年中行事―高校の授業で日本文化を教えるー」、「読解授業の教え方」、「作文授業の教え方」、「日本語オノマトペ―楽しいオノマトペの世界とその効果的な教え方―」などです。自分の専門以外のテーマで講演依頼が来ることもありますから、日本語教育の専門家として、幅広い知識と豊富な実践経験が求められると言えます。セミナーやワークショップのための準備はなかなか大変ですが、終わったあとに参加者から、「とても面白かったです」「大変勉強になりました」と声をかけられることも多いです。そんな時、専門家は本当にやりがいのある仕事だと感じることができます。

パートナーズが来た!

日本語パートナーズの活躍の画像
日本語パートナーズの活躍

西ジャワ州には、中等教育、高等教育を合わせて1,000人以上の日本語教員がいますが、ネィティブである日本人教師の数は10名前後、まだとても少ないと言えます。そんな中、2015年9月に待望の日本語パートナーズ13名がバンドンに来ました。13名のパートナーズは、バンドン市内と郊外の14の高校で、インドネシア人教員のアシスタントとして日本語の授業に入ったり、文化祭や日本語クラブの活動に協力したりしています。

写真は、西ジャワ高校文化祭で、パートナーズの皆さんがお茶のお点前を披露しているところです。地域の専門家として、パートナーズの派遣先高校を訪問、インドネシア人教師とティームティーチングで教える授業を見学したり、色々な相談に乗ったりするのも大切な業務になっています。

他地域での活動

インドネシアでは、毎年6月に「インドネシア全国日本語弁論大会」が開かれます。その全国大会に出場できる14名を選抜するために、各地で地方予選が行われますが、専門家は公平性の観点から、派遣先の機関がある地域で審査員となることができません。そのため、お互いに他の地方に審査員として呼ばれることがあります。私も2014年、2015年には中部ジャワ州スマランでの弁論大会、そして今年は東ジャワ州スラバヤの大会で審査員を務めました。

弁論大会の審査を終えた様子の画像
弁論大会の審査を終えて

写真は、弁論大会終了後に優勝と3位に選ばれた学生と撮ったものです。審査のあと、結果発表の前にスピーチ全般について講評もしました。講評では、スピーチの主張・テーマが最も大切であること、インターネットで調べれば分かるようなことだけでなく、自身の経験に基づいた話もしてほしいこと、声量やアクセントの点で注意したいこと、などを話しました。

派遣専門家として、任期3年の間にできたことは少ないかもしれませんが、西ジャワ地域やインドネシア国内外の日本語教育関係者との間に作ることのできたネットワーク、様々な業務にあたった経験を、次に来る専門家にしっかりと引き継ぎたいと思います。そして、後任の専門家が西ジャワ地域の日本語教育の発展のためにさらに尽力できるよう、応援したいと思います。

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