世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)スマトラ島での日本語教育支援(2年目)

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター (西スマトラ州地域 中等教育機関)
三本智哉

日本語教育専門家(以下、専門家)としてスマトラ島西スマトラ州に派遣されて2年、日本と行ったり来たりしながら活動する時期もありましたが、今年も各地の研修会や教師会で多くの先生方に会うことができました。また、新しいカリキュラムに沿った普通高校向けの教科書の作成に執筆者の一人として関わることもできました。

「高校教科書がほぼ完成!」

教科書の名前をブレインストーミングしている様子の画像
教科書の名前をブレインストーミング

昨年レポートで私は「インドネシアでは2013年に新しい教育カリキュラムが発表されました。しかし、新カリキュラムに則った教科書はまだ無く、授業の現場ではどのように教えたらいいのか先生方は悩み迷いながら教えている」「先生方からの要望の強い新カリキュラムに則した教科書を制作するプロジェクトの1メンバーとして執筆を行っています」と報告しましたが、今は3学年分の原稿がほぼ完成し、いよいよ新学年度に出版される運びとなっています! まず教科書作成チームで試用版の教科書を作り、試用版教科書を使ってもらえないかとインドネシア人の先生に呼びかけました。その呼びかけに応じてくれた先生のクラスへ授業見学に入り、そこで得られた情報をチームで共有・検討・修正し、更なる会議を何度も重ねました。授業を見せてくれた先生と生徒、写真や資料提供などでご協力くださったインドネシアおよび日本の皆様に厚くお礼申し上げます。

「固定観念を揺らしちゃう」

各地の教師会や研修会に出講する際、この新しいカリキュラムに沿った教え方について、扱うことも多かったです。2013年のカリキュラム変更では、学習者がより意欲的に授業に参加し、見たり聞いたりしたことを個人やグループで考え、課題解決のために情報を処理したり協働する、そのような学びの方法が求められています。研修の目的の一つは教師自身の教え方・学び方に関しての「固定観念を揺らしちゃう」ことです。しかし、それはそれまで教師が行ってきた教え方を一度否定することになるため、一方的に説明しただけではなかなか変化が起こりにくく、ときには頑なに拒絶されたりすることもあります。そこで、私や他の専門家がインドネシア人の先生方に対して行う研修は次のような構成になっています。まず、先生方が生徒役になって、新しい教科書での授業をうけてもらいます。次に、その授業をふり返り、参加者同士で意見を交換し、共有します。そして今度は、教師として模擬授業を行って、その授業をふり返ります。このような構成にするのは、「自分自身の体験を通じた気づき」や「同じ参加者との意見交換」が学びに対する考え方をほぐし、変化を起こしやすくすると考えているからです。授業を体験した先生方の多くからは「たくさん考えて、たくさん話しました」「疲れましたが、楽しかったです」「いろいろな新しいことが分かりました」といった反応がもらえているので、今後も単に語学を習得するだけでなく、日本語の教室が微笑みの空間になるような教え方を一緒に考えて、広げていきたいです。

「リンク&リンク」

2年前に訪問した教師会からの手紙を掲げている画像
2年前に訪問した教師会からの手紙

広げるといえば、この1年で西スマトラ州だけでなく北スマトラ州やリアウ州、そしてジャンビ州でも短い研修を行うことができました。スマトラ島は実は日本よりも面積が広いため隣の州とはいえども簡単に訪問できないのですが、だからこそ先生方はとても意欲的に参加してくれます。また研修が終わっても、そこで終わりではなく。再会の日が来るまではSNSを通じてのやり取りが始まります。インドネシアの生活や文化を教えてもらったり、こちらから日本や日本語教育に関する情報を発信したりしています。仕事や家庭のことで忙しい先生や、遠い場所にいる先生とはもしかしたら3年間で1度しか会えないかもしれません。そういった先生方ともオンラインでの繋がりがあるということは、とても重要な意味を持つと考えています(写真は2年前に1度だけ訪問した南スラウェシ州の教師会からの手紙。訪問後はオンラインのみの繋がり)。また、地域の高等教育機関の教員方との勉強会も続けています。教職課程でのシラバス設計、自律学習、卒論指導の仕方についてなど、それぞれの課題を発表し、教育機関が違っていてもお互いにコメントやアドバイスを伝え合うこのような機会を更に多く持ちたいと考えています。そして、現地の日本語の先生だけでなく昨年度から西スマトラ州に来てくれている「日本語パートナーズ」、他の専門家、国際交流基金の関係者、そして他機関の関係者と積極的に連携を取り、オンライン・オンラインの大小の環が幾重にも繋がる形で、当地の日本語教育ネットワークが形成されることを目指していきます。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
担当地域である西スマトラ州(および周辺地域)における中等教育機関において以下の業務を行う。
  1. 1) 地域教師会支援(教師会・勉強会・研修・文化祭に対する支援・サポート)
  2. 2) 全国高校日本語教師研修(インドネシア教育文化省主催)への出講
  3. 3) 地域内の高校を訪問し、授業見学・教授法指導
  4. 4) 現地の日本語教育に関する情報収集
  5. 5) 高校校長に対する日本語プロモーション
  6. 6) 教職課程を教える高等教育機関での情報収集・勉強会開催
  7. 7) 新カリキュラムに対応した教科書開発
  8. 8) 日本語パートナーズ支援
所在地 SummitmasI Lt.2/3 Jl.Jend.Sudirman, Kav 61-62 Jakarta, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 1名
国際交流基金からの派遣開始年 2013年
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