世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)インドネシア笑顔百景

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター(西スマトラ州地域 中等教育機関)
三本智哉

2015年の国際交流基金の調査によると、インドネシアの中等教育で勉強する生徒の数は約70万人で、2012年に続いて世界第1位でした。当然ジャワ島だけでなく、スマトラ島やスラウェシ島など広い地域で日本語が学ばれています。日本語教育専門家(以下、専門家)として4年目となる私は、担当する西スマトラ州を中心にしつつも、今年度はより広域での支援活動が経験出来たと感じています。

インドネシアの地図の画像
国内時差が2時間ある広大なインドネシア

中部スマトラに吹いた一陣の風

例えば、2018年の1月に西スマトラ州で文化祭があったのですが、その中で日本語スピーチ大会も行われました。この地方大会で優勝すると首都ジャカルタで開かれる全国大会に出場することが出来ます。この地方大会に今年から隣のリアウ州の生徒も参加できるようになりました。きっかけは2014年に他州の教師会長から「私たちの州からも地方大会に出場したいです!」という要望が出たことで、中部スマトラ3州の教師会会長と専門家で相談と調整を重ねて、3年以上かかって遂に実現することができました。

初出場ながら、今回リアウ州からの代表は地方大会を勝ち抜け、さらに進んだ全国大会でも王座を勝ち取ることが出来ました! リアウ州等で勉強する学習者にとっての新しいモチベーションになるのは勿論ですが、西スマトラ州でスピーチを指導するベテラン教師も新しいライバルの出現に「負けられない・私たちももっと出来る」という想いを強く持った様子でした。州の壁を取り払うことで吹いた一陣の風のような出来事でしたが、このことは地域の更なる活性化につながるだろうと確信しています。より広い枠組みの中でもヴィジョンを失わずに切磋琢磨していくことを期待しています。

5つの街で「笑」一「笑」

それから、今年度も色々な街で日本語パートナーズ(以下、NP)事業に関するワークショップを行いました。スマトラ島のメダン市やパダン市だけでなく、ジャワ島のスラバヤ市、スラウェシ島のマカッサル市やマナド市を担当しました。初訪問のマナド市は西スマトラ州とは信仰する宗教や言語・習慣がずいぶん違っていてとても新鮮に感じられました。街が違っていてもワークショップの内容はほぼ同じです。しかし日本語の教え方以外にもポイントがあります。日本から来たNPNPを受け入れるインドネシア人日本語教師は文化背景や経験が異なります。お互いに期待や希望を持って長い期間一緒に仕事をしますが、そこに言語的・文化的な行き違いがあると、どうしても様々な葛藤が生じがちです。そこを乗り越えあうために心と心を丸くするような異文化に対する理解促進もこのワークショップにおける大切なポイントになっています。「笑顔と笑顔でコミュニケーションできる関係」がずっと続くように、良い繋がりがより強い絆になるように、そう心がけて5つの街を訪れました。NP事業に関わるのは3年目ですが、ときどき日本から元NPが赴任地に遊びに来ています。当時は大変なこともあったと思いますが、先生方と笑い合っているのを見るとこちらも嬉しくなります。

続いてく、『キラキラ』ヒストリー

ワークショップの記念写真
パプア州での『キラキラ』ワークショップ

2018年は日本とインドネシアの国交樹立60周年ということもあり、インドネシア各地で関連するイベントや事業が行われています。そのこともあり今年3月にインドネシア最東のパプア州(その最大の街ジャヤプラ市)に出張する機会がありました。ジャカルタからのフライトは過去最長の7時間で、到着の朝はフラフラでしたが、高校の生徒や先生が最高の笑顔で迎えてくれて元気が出ました。2日間の教師向けワークショップでは、新しい教科書『にほんご☆キラキラ』で教える体験をしてもらいました。この教科書には次代を担う生徒にとって必要となる「いわゆる21世紀型スキル」を第2外国語学習を通じて育むというコンセプトが盛り込まれています。自分自身が経験したことのない方法で何かを教えるのは難しいため、初日はまず専門家が教師となり、インドネシア人教師は学習者として習う体験をしました。そして、2日目は担当セクションの準備とリハーサルをし、生徒16人に対して、本当に授業を行いました。2つの体験をふり返り、気付いたことをディスカッションすることで、新しい教科書に対する理解が深まったと思います。今回パプア州を実際に訪れて『キラキラ』の種を蒔くことが出来きました。今後はオンライン研修などを計画できればと思っています。長い時間がかかるかもしれませんがインドネシアの多くの地域で『キラキラ』が楽しく使われていくことを願っています。

最後に、4年間過ごしたインドネシアは、本当に広くて多様で興味深い国でした。私は日本に戻った後、また新しい青空へと向かいますが、これからも応援していきたいです。この国や国の日本語教育の発展を楽しみにしています。Terima kasih banyak! Mari bertemu lagi!

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Padang city, The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
担当地域である西スマトラ州(および周辺地域)における中等教育機関において
  1. 1)地域教師会支援(教師会・勉強会・研修・文化祭に対する支援・サポート)
  2. 2)全国高校日本語教師研修(インドネシア文化教育省主催)への出講
  3. 3)地域内の高校を訪問し、授業見学・教授法指導
  4. 4)現地の日本語教育に関する情報収集
  5. 5)高校校長に対する日本語プロモーション
  6. 6)教職課程を教える高等教育機関での情報収集・勉強会開催
  7. 7)新カリキュラムに対応した教科書の開発と普及
  8. 8)日本語パートナーズ支援
所在地 SummitmasI Lt.2/3 Jl.Jend.Sudirman, Kav 61-62 Jakarta, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2013年
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