世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)歴史を紡ぎ未来を拓くジャカルタ発の日本語教育支援

ジャカルタ日本文化センター
長田佳奈子、大田美紀、大脇元、岩崎透、吉川景子、佐藤公美、古閑紘子、片桐準二

ジャカルタ日本文化センター(以下、JFJA)では、主に日本語教師支援、JF日本語講座(以下、JF講座)、経済連携協定(以下、EPA)に基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育(訪日前研修)、日本語パートナーズ(以下、NP)活動支援などの事業を行っています。

EPA候補者の未来に目を向けると(担当:岩崎、大田、大脇、長田)

自律学習支援の様子
自律学習支援の様子(EPA

EPAに基づく看護・介護人材の受入れ制度は2008年から始まり、11年で約2500人の看護師候補者、介護福祉士候補者(以下、候補者)をインドネシアから送り出してきました。そんな中、2018年から「介護技能実習生」の受入れがはじまり、2019年4月には在留資格「特定技能」もできました。これから更に多くの介護人材がインドネシアから日本へ来ることになるでしょう。では、EPA受入れ制度と新たな制度との違いは何でしょうか。それは、EPAの候補者には看護師国家試験、介護福祉士国家試験の合格が求められることです。

日本へ行くことが決まり、国家試験合格期限までの約4年半、候補者が日本語学習に集中できるのは最初の1年だけです。訪日後研修が終わってから、病院や施設に赴くときの日本語能力は日本語能力試験N3程度で、仕事をするのに十分なレベルではありません。そして、仕事をしながら3年間、日本語学習、国家試験準備を続けます。異国の地で不安になりながらも一生懸命働き、どんなに疲れていても寝る間を惜しんで勉強している候補者の話を聞きます。しかしながら、これまでのインドネシア人候補者の国家試験合格率は、看護師が約30%、介護福祉士が約55%です。合格した人は日本で続けて仕事ができますが、そうでない人はインドネシアに帰ります。

2019年6月、ジャカルタでの訪日前研修を終え、新たに約330名の候補者が日本へ旅立ちました。笑顔いっぱい、やる気いっぱいの候補者を見送りながら、EPA受入れ制度を利用して日本で看護・介護の仕事をしようと考える彼らに明るい未来が待っているのか、考えさせられます。日本語専門家が訪日前研修に関わって9年、予備教育は軌道に乗ってきましたが、長い目で見ると課題も多いです。候補者の未来、日本の未来に資するよう、日本語専門家として何ができるか模索しています。

中等教育支援:「にほんご人フォーラムinバリ」開催!(担当:吉川、佐藤)

かめのり財団とJFの共催で2012年から始まった「にほんご人フォーラム」(以下、JSフォーラム)が2018年度はバリで行われました。過去にインドネシアからJSフォーラム教師プログラムに参加したことがある中等教育の先生4名が、今回の生徒プログラムのファシリテーターとして活躍しました!

生徒プログラムでは、インドネシアを含む東南アジア5か国と日本の高校生が参加し、日本語を使って議論し、協働しながら課題を達成していきます。ファシリテーターの先生たちは私たち専門家といっしょにプログラムを考えるところから始めました。普段は別々の地域で教えている先生たちですから、対面で打ち合わせをすることは難しく、SNSのグループを作って話し合いながら作業を進め、Web会議ツールzoomを使って打ち合わせや練習を重ねました。教師として授業を行うことと、このようなイベントの内容を考え、ファシリテーターとなることは役割が異なり、試行錯誤の毎日だったと思いますが、無事に本番を終えることができました。今後、彼らがそれぞれの地域で中心となり、このようなイベントを実施していくことを期待し、そのために私たちもサポートを続けたいと思います。

NP活動支援:学びあい、振り返りの場としてのワークショップ(担当:古閑)

インドネシアでのNPの派遣プログラムは2014年度から始まりました。5年目に入った2018年度は前年度と同様に、全国13州に149名のNPが派遣されました。

インドネシアでは着任時、中間時、帰国1ヶ月半前にNPと派遣先校のカウンターパート教師(以下、CP)を対象にしたワークショップを各地域で行っています。中でも、中間時ワークショップは各CPNPの現場での活動を互いに知り、学びあうことができる、非常に有意義な時間です。このワークショップでは、中間時までにCPNPで協力して行った授業実践について、授業のテーマ、目標、流れ、CPNPの役割、よかった点、課題をまとめてパワーポイントやポスターで発表します。発表後には発表を聞いた人から質問する時間や、1人ずつ発表者に感想やコメントを書いて渡す決まりがあるので、発表者は様々なフィードバックをもらうことができます。発表は日本語で行うことになっているため、準備段階から苦戦するCPNPも少なくありませんが、自分たちの授業を客観的に振り返ることができる点、他の発表からアイディアや刺激が得られる点で、貴重な機会になっています。CPNP、生徒の交流はもちろんですが、CPNP同士の横のつながりも一層深めていけるよう、今後もよりよいワークショップを企画していきたいと思っています。

JF講座:「中級」コース継続受講生修了!(担当:片桐)

中級6受講生による寸劇発表の写真
中級6受講生による寸劇発表

JFJAでは2017年度に『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)の『中級1(B1)』、2018年度に『中級2(B1)』を使っての社会人向け講座を開講しました。『まるごと』の中級は9トピックで構成されているので、年度を3学期に分けて1学期に3トピックずつ進めるようにコースを設定しました。毎学期1クラス25名の受講生を募集し、2年間同じ人が続けてレベルアップしながら受講できるように開講しました。途中で受講生の入れ替わりがありましたが、2年間6学期を続けて受講した人が9名。この9名のうち2016年度の初中級コースから3年間続けた人が5名、さらに2012年度にJFJAで『まるごと』を使ったコースを初めて開講した時に入門コースを受講し、それから6年半かけて中級コースまで学んだ人が2名いました。この2名はそれぞれ初級、初中級の段階でJF日本語学習者訪日研修にも参加していただいた方でした。それにしても、こんなにも長く平日の仕事帰りに毎週毎週通うほど、モチベーションが高く維持されたことに驚きました。今年の4月には修了式が行われ、中級コースではこの2名を含めた10名が修了。式では恒例となっている受講生による寸劇も披露され、『まるごと』で学んだトピックをアレンジして、戦国時代と現代を行き来する映画製作現場のシーンをみんなで楽しみました。修了生の中から『まるごと』を使った日本語・日本文化教室を開こうというグループも生まれ、JF講座での学びが引き継がれていくのを感じました。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金ジャカルタ日本文化センターは、インドネシア派遣の日本語上級専門家・日本語専門家、インドネシアの各機関・団体と連携をとりながら、日本語教育支援を行っている。中等教育では各地域や全国レベルの教師会と、高等教育では主にインドネシア日本語教育学会とその各地域の支部と連携し、勉強会やセミナーなどに協力している。加えて、民間の日本語教育機関対象のセミナーやコンサルティング、一般成人向けのJFスタンダード準拠日本語講座、JF e-learningサイト「みなと」でのオンライン講座、日本語パートナーズ支援、EPAに基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業も実施している。
所在地 Summitmas Ⅱ Lt. 1-2, Jl. Jenderal Sudirman, Kav. 61-62 Jakarta 12190, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:3名、専門家:5名
国際交流基金からの派遣開始年 1980年
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