世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)スマトラ島の大地における日本語教育支援

ジャカルタ日本文化センター(西スマトラ州中等教育機関)
杉島 夏子

西スマトラの日本語教育支援

2018年6月に西スマトラ州パダン市に赴任し、早くも1年が経とうとしています。海、川、湖、森という広大な自然に囲まれたこの地では、約4万3千人が日本語を学習しており、そのほとんどを中等教育機関で学ぶ学習者が占めます(国際交流基金2015年度日本語教育機関調査より)。ここでの私の仕事は主に高校や中学で日本語を教える先生たちに対する支援で、授業見学を通してより良い教え方について先生と一緒に考えたり、高校教師会でワークショップの講師を務めたりしています。また、未来の高校日本語教師を育てているパダン国立大学を中心に高等教育の日本語教育支援を行なったり、日本語パートナーズとカウンターパートである現地の日本語の先生が、協働しながらスムーズに活動ができるように支援をしたりと、業務は多岐にわたります。本レポートでは、この1年間で主に行なってきた日本語教育支援業務の中から2つをピックアップして紹介したいと思います。

21世紀スキルについて考える

2013年に新しい教育カリキュラムが発表され、そのカリキュラムに基づいた新教科書『にほんご☆キラキラ』の高校における実際の使用が広がってきています。第2外国語としての日本語を学びながら、いわゆる21世紀型スキルを育むことができるというのがこの教科書の特徴ですが、21世紀スキルを育むといっても、自分が学んできたやり方と違う方法で学習者に教えるというのはなかなか難しいものです。実際、初めてこの教科書を使う先生からは、「そんな教え方では教室がうるさくなってしまう…」とか、「教える文法項目が少なすぎる…」「もっとたくさんの知識を教えてあげないと!」という声もよく聞きます。学習者中心ってどういうこと?教師の役割って?High Order Thinking Skillsって何?どうして大切なの?ということを教師自身がしっかりと理解できていないと、なかなか教室での実践には結びつかないのが現状です。

日本文化学習体験で使った思考ツールの写真
思考ツールを使った日本文化学習体験

そこで教師会では、いきなり教え方を教えるのではなく、一度生徒になってもらって経験してもらうということを大切にしています。「学ぶって楽しい」「考えるって楽しい」「友だちと意見を交換することで新たな気づきが得られた」等、教師たちがまずは学習者体験をしてみて初めて、自分の生徒に学校で身につけてもらいたいスキルは何なのか、どうやったらそれを育成できそうかについて考えることができるのではないかと思います。21世紀スキルの育成については、専門家の私自身も確固たる答えを持っているわけではありません。決まった答えのない中で常に学び続けることが必要なのは、生徒も教師も専門家も同じです。だからこそ、現地の先生たちと一緒にCriticalに考え、議論や試行錯誤を重ねながら21世紀スキルの育成と日本語教育について考えていけたらいいなと思っています。

教師向け日本語勉強会

ここ西スマトラは、ミナンカバウと呼ばれる女系社会で、女性がたくましいことで有名な地域です。私が普段接する高校教師の多くも、小さい子どもを育てているお母さんたち。フルタイムで働きながら、家事や育児をこなし、日本語教師会にも時には子ども連れで参加するというそのパワフルさにいつも感心しています。でも、日本語の勉強となるとなかなか時間がとれず、大学卒業以来日本語を話す機会がなくて日本語を忘れていってしまっている先生たちもちらほら。以前から、日本語がしっかり勉強できる環境がほしいという声を教師たちから聞いていました。そこで現在、対面式とオンラインで日本語を学ぶ場を提供しています。

日本語勉強会の様子
日本語勉強会の様子

パダン市では、定期的に開催される高校日本語教師会とは別に、2週間に一度、日本語勉強会を開催。今年12月にパダンで行われる日本語能力試験合格に向けて勉強を頑張っています。教師たちにとっては、日本語を勉強する時間であると同時に、育児や仕事から解放されて少し自分のためだけに過ごすことができる時間でもあったりします。

また、オンライン会話会では、zoomというアプリケーションを使って、普段なかなか対面で会えないような遠方に住む先生と会話の練習をしています。30分間、日本語だけを使って身近な話題についておしゃべりをし、日本語学習に対するモチベーション維持ができるような場にしています。

高校教師は、教える教科書に載っている基礎的な日本語だけできればいいというわけではありません。日本語の先生であると同時に、日本語学習者として常に学び続ける姿勢は、生徒のいいモデルになるはず。日本語・日本文化について学び続けたいという先生の熱意をこれからもサポートできればいいなと思います。

これからの支援について

西スマトラはジャワ島等他の地域に比べて専門家支援の歴史が浅く、教師の日本語教授レベルの底上げ、教師会におけるノウハウの蓄積、次期リーダー育成、自立化の促進という面でまだまだ発展の余地がある地域だと思います。また、西スマトラ以外の周辺地域も私の業務担当範囲ですが、スマトラ島と一口にいっても、その面積は日本列島より広く、私が専門家として普段関わることができる人はほんの一部の先生だけです。学校訪問も、一度訪問したら、次同じ学校に行けるのは1年後か2年後になるかもしれない。そんな中で、一回一回の先生方との出会いを大切にしつつ、オンライン等も用いた遠隔支援も積極的に取り入れながら、スマトラ島の日本語教育が自立的に発展していけるように、地域ごとの課題にあわせた支援をこれからしていければと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Padang city, The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ジャカルタ日本文化センターの業務方針に従い、主にスマトラ地域における中等教育の日本語教育支援のため以下の業務を行う。
  1. 1)地域教師会支援(教師会・勉強会・研修・文化祭に対する支援・サポート)
  2. 2)地域内の高校を訪問し、授業見学・教授法指導
  3. 3)現地の日本語教育に関する情報収集
  4. 4)高校校長に対する日本語プロモーション
  5. 5)教職課程のある高等教育機関での情報収集・勉強会開催
  6. 6)日本語パートナーズ支援
  7. 7)その他ジャカルタ日本文化センターが実施する日本語事業への協力
所在地 Summitmas Ⅱ Lt. 1-2, Jl. Jenderal Sudirman, Kav. 61-62 Jakarta 12190, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2008年

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