世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ラオスおたくクラブも大好き! JF講座

ラオス日本センター
大田 美紀

ある日、私はいつものように「こんにちは!」とドアを開けて、教室に入って行きました。すると、何だかいつもと違う空気です。みんな何となく笑っているような・・・。特にうれしそうにこちらを見ている3人の男子学生。見ると、金色の線が入った黒い制服のような衣装を着ている学生二人に、白髪白衣の博士が一人。今日はコスプレをして、授業に参加です。

Laos-OTAKU Club

コスプレをして授業を受ける学生の写真
コスプレをして授業を受ける学生

ラオスでは国内のテレビチャンネルで日本の映画やドラマ、アニメが放送されることはほとんどありません。これまでは主にタイのテレビチャンネルを通じて、日本のアニメや映画などの情報を得てきました。でも最近、特に首都のビエンチャンではインターネットや携帯電話の普及が目覚ましく、自分からアクセスすれば、手軽に世界中の情報が得られるようになってきています。日本のアニメ好き、ゲーム好きの若者たちの輪もどんどん広がっていきました。そして、2012年には「Laos-OTAKU Club」のFacebookページができ、また、ラオスで初めてのコスプレイベントも開催されました。

日本のポップカルチャー好きの若者たちの中には、日本語を学習している人もそうでない人もいますが、やはり文化への興味は学習意欲にもつながります。ここ、ラオス日本センターでも、日本のポップカルチャー大好き、という日本語学習者が増えてきています。

『まるごと』講座開設

ラオス日本センターでは、2012年10月にJF講座が開設されました。それに伴い、『まるごと』を主教材とするクラスを開講しました。また、2013年3月にはラオス国立大学から正式に承認され、「JFランゲージセンター」として日本語教育、及び日本文化普及活動を開始しました。

『まるごと』は国際交流基金が開発した、JFスタンダードに準拠した日本語の教科書です。2013年5月現在、初級1(『まるごと』入門A1)、初級2(『まるごと』初級A2-1)の2つのクラスがあります。

『まるごと』の授業では、会話練習や表現、文法理解の他に、異文化理解という面も重視しています。

『まるごと』の授業をするラオス人講師の写真
『まるごと』の授業をするラオス人講師

教科書の写真やイラストからだけでなく、例文にも様々な「異文化発見」があります。 例えば、初級2クラスで出てきた例文、「わたしのしゅみは はたらくことです」には学習者みんな、文字通り「目が点」になっていました。ラオスでは仕事は生活のため、または社会性を保つためのもので、趣味のように楽しむ、ということは想像しにくいようです。また、「今日はいいてんきです」の「いいてんき」の説明にも苦労しました。日本人が思うようなよく晴れた天候は、ラオスでは暑すぎるので、「いいてんき」とは言わず、どちらかと言うと曇った天候を「いいてんき」と思うそうです。

『まるごと』の授業は、日本人講師とラオス人講師がチームティーチングで教えています。初めて使う教科書なので、授業準備のための勉強や教材準備に時間がかかります。でも、学習者が喜んで参加する授業になるように、講師も新しい教科書からの「発見」を楽しんでいます。

前述のコスプレをして授業に来た3人組は、2013年3月に初級1クラスに入学してきました。

ほとんど休まず、授業もはりきって、いつも一番前の席に3人並んで座っています。もうすぐ、またコスプレのイベントがあるので、今日は新しい衣装をクラスメートにお披露目しました。3人とも、かっこよくコスプレができるように、シェイプアップにも励んだそうです。

このようにラオスでは日本のポップカルチャーが好きで、日本語を勉強したいという人も増えてきています。ただ、そういった学習者のほとんどが10代から20代前半の若者たちなので、そろそろ将来を考える時期になると、就職や留学のチャンスの多い他の言語を優先して、日本語学習をやめてしまう人が多いのも現状です。ラオスJFランゲージセンターとしては今後、文化紹介などを通じた学習者の裾野を広げる活動とともに、就職や留学情報提供など、学習者を社会とつなぎ、自己実現を促す活動も行っていきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Laos-Japan Human Resource Development Institute
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ラオス日本センターは日本の政府開発援助により設立され、現在は国際協力機構(JICA)と国際交流基金の協力のもとで、日本とラオス両国によって運営されている。ビジネス経営の知識や日本語を学ぶ場として、市場経済化促進のための人材育成を行うとともに、様々な文化交流事業を実施することにより、日本とラオスの交流・相互理解促進を目指している。2012年10月よりJF講座が開始され、今後、日本語スタンダードに基づいた日本語教育の普及、及び、教師育成や教育機関ネットワーク促進の拠点としての役割が期待されている。
所在地 C/O The National University of Laos P.O.Box 7322, Dongdok, Vientiane, Lao PDR
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名 調整員:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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