世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) クアラルンプール日本文化センターの専門家業務

国際交流基金クアラルンプール日本文化センター
藤長 かおる・池田 聖子・中尾 有岐

クアラルンプール日本文化センター(以下JFKL)派遣の専門家業務は、<1>中等教育の日本語教育支援 <2>情報交流 <3>日本語講座の実施 の3つが大きな柱となっています。加えて、近年は中等教育段階の学習者の増加、JF日本語教育スタンダード(http://jfstandard.jp/ 以下、JFスタンダード)の導入などにより、専門家の仕事も益々多岐にわたってきています。新しいことに挑戦できる機会を多く与えられ、やりがいと共に責任を感じています。

中等教育支援:シラバスの教育現場への適用

1984年に全寮制中等学校で始まった日本語教育は、マレーシア政府の国際語教育政策の下、2013年5月現在130校で行われるまでに発展しました。専門家の仕事は、新規日本語教師養成(2008年度「世界の日本語教育の現場から」報告参照)への協力、セミナーの開催、シラバスや教科書開発・試験作成への協力、生徒が日本語を使う機会(弁論大会、文化祭など)の提供などです。業務を遂行する上では、中等学校の2008年シラバスの理念を理解し、教育現場への適応について、教育省の担当者や中等学校の先生方と共に考えていくことが重要です。

2013年4月のワークショップの写真
2013年4月のワークショップ

最近のワークショップ*(2013年4月)では「プロジェクト型学習」を紹介し、先生方にも生徒たちと同じように「野菜を1つ選び、みんなが食べたくなるように紹介する」というタスクを課し、調査・発表に参加してもらいました。活動のあとでの振り返りでは、自分の授業にどう取り入れればよいかを話し合ってもらいましたが、実際に学習者として体験したこと、生徒の反応を見たことにより、自分の授業と関連付けて考えやすかったようです。2008年シラバスでは、言語を使って交流し、さまざまな分野についての知識を広げていくことが大切にされていますが、そのためのいろいろな方法をこれからも紹介していきたいと思っています。

*2013年9月に日本で行われるJSフォーラム(Japanese-Speakers Forum)に参加する生徒を選抜するために実施したもの。JSフォーラムとは、日本とASEAN各国とのつながりを深めることを目的とした中等教育対象のフォーラムである。

情報交流:教師研修、研究会、セミナー…

2012年度マレーシア日本語教育セミナーの写真
2012年度マレーシア日本語教育セミナー

中等学校、大学、予備教育機関、民間の日本語学校など、さまざまな地域・機関で教える先生方に日本語教育に関する情報を提供し、相互のネットワークを構築していくことも大切な仕事です。「教師研修コース(JFKLの1年コース)」や「地域セミナー」では、JFスタンダードの課題遂行と異文化理解を柱とした日本語教育の考え方について理解してもらい、教育現場にどう取り入れられるかを考えることが目下の課題です。教師一人一人の課題意識に対応するため、修了後の参加者とメールでコンサルティングを続けることもあります。

また、「マレーシア日本語教育研究発表会」と「マレーシア日本語教育セミナー」という全国レベルの催しを毎年開催しています。2013年3月に実施した「マレーシア日本語教育セミナー」では、テーマを「『できる』ことを目指した授業デザイン‐JF日本語教育スタンダードから実践へ‐」とし、日本、タイ、オーストラリア、フィリピンからもスピーカーを招きました。JFスタンダードが広まっていけば、海外の日本語教育間の情報交流の意義が益々大きくなっていくでしょう。研究会やセミナーは企画から実施までに6か月くらいかかり、プロデューサー役とも言える専門家の責任は大きいですが、アンケートの結果に悲喜こもごもとしながら、次の企画を練る日々です。

日本語講座:「相互理解のための日本語」をめざして

中上級コースの様子の写真
中上級コースの様子

JFKLの日本語講座はこの数年で大きく変わってきました。それは、JFスタンダード準拠の教科書『まるごと日本のことばと文化』(http://jfstandard.jp/language/ja/render.do)を使用した入門講座開始(2011年10月)に伴い、相互理解を目指した日本語講座へと講座全体を改編する必要があったからです。

そのために、従来の中級以上の講座をJFスタンダードのレベル記述に基づいて見直し、「入門」から「上級2」までの9レベルのクラス(夜間および土曜日に実施)をJFスタンダードのA1からB2までの間で設定しました。そして、「社交会話」「ロールプレイ」「インタビュー」「スピーチ・プレゼンテーション」「経験談」「ディスカッション」などのアクティビティを中心にして、最終課題(Performance task)を決め、各コースのデザインをしました。また、学習者の自律的学習能力や学習の動機づけを高めるために、ポートフォリオ評価を導入しました。さらに、日本に関心をもってもらうために、「和室体験」「書道」「浴衣」「折り紙」などの文化日本語講座も定期的に実施しています。

中上級コースの講座を改編してから1年になりますが、最近受講生のコミュニケーション力の伸びを実感しています。受講生はいろいろな視点から考えたことを互いに伝え合い、議論を深められるようになってきました。「相互理解のための日本語」というJF日本語教育スタンダードの理念を実現するべく、コース内容を見直し、日本語がより学びやすくなるよう努めています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Kuala Lumpur
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点のひとつ。教師支援としては、教師対象の各種セミナー、教師研修コースの実施、情報提供・情報交流を目的とした「マレーシア日本語教育セミナー」「日本語教育研究会・浦和研修報告会」の開催など。中等教育支援においては、教育省の要請を受けて教師研修会、教師養成コース(他教科現職教師を対象とした特別コース)などに協力。学習者支援としては、JFKL日本語講座として、JF日本語教育スタンダードに準じA1~B2レベルの総合コース、会話コースの他、特別コースとして「JFKL体験」「ビジネス日本語」コースを実施。その他、スピーチコンテスト、ニュースレター「ブンガラヤ」原稿執筆など。
所在地 18th Floor, Northpoint, Block B, Mid-Valley City, No.1, Medan Syed Putra, 59200 Kuala Lumpur, Malaysia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年 1995年
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