世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)AAJで学ぶ2年間

マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース
篠原典子・西村尚・石松文枝

マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース、通称AAJAmbang Asuhan Jepun)は、マレーシア政府が推進する東方政策の趣意に沿って、ブミプトラ(マレー系、サバ・サラワクの諸民族)を対象に、日本の大学に入学させるための準備教育を行っている教育機関です。学生たちは、日本語、理系教科(数学・物理・化学)、英語を学び、所定の要件を満たせば、修了後日本の国立大学の工学部1年次に入学できます。1982年の創設以来、多くの学生を日本各地の大学に送り出しており、その数はすでに4000名近くにのぼります。そして、現在その多くの卒業生たちが、マレーシアの政府関連機関や大学等の教育機関、また日系企業など、様々な分野で活躍しています。

日本語科では、マレーシア人現地教員10名と国際交流基金派遣の日本語専門家7名(上級専門家2名、専門家5名)が、協力して日本語指導にあたっています。現在、2年生、37期生が51名在籍しており、5月中旬に38期生100名程度が入学する予定です。2年間4学期にわたるこのコースの授業は、毎朝8時10分から午後5時まで、1時間の昼休みを挟んでみっちり行われます。

1年生の授業はひらがなの導入からスタートします。そこから11月までの5~6ヵ月間で初級が終了するのですが、この間、学生達は毎日6~10の漢字と全部でおよそ2,000の語彙を覚え、他にも多くの宿題と予習、復習を課されます。1年次終了までに実施される小テストや復習テストの数はなんと400にものぼります。マレーシア中から集まった優秀な学生といえども、これだけハードなカリキュラムの中では自分の学習スタイルの確立に苦労するようです。

1年生の書道の授業の様子
1年生 書道の授業

こうした学生たちの学習面、生活面のケアを行うために、1年生ではメンター制度を導入しています。学生達のメンターとなったマレー人教員と日本人教員が分担して一人一人の学生と面談を繰り返します。面談では学生がとりまとめたポートフォリオを見ながら自身を振り返ってもらい、教員はその話に耳を傾けます。

同時に学生達のモチベーションの維持を図るため、カリキュラムには多くの学内行事が組み込まれています。7月のスポーツ大会、8月の先輩の話を聞く会、9月のビジターセッション(マレーシアに在住する日本人との交流会)、他にも書道や俳句・川柳コンテスト、スピーチ大会、漢字大王コンテストのほか、各種交流会や日本人会主催の盆踊り大会などにも参加します。

初級が終了する頃、文部科学省から派遣された理系教科教員の日本語による授業が始まります。初級終了程度の日本語しか習得していない学生達ですが、先生方の努力のおかげもあって、それでもなんとか授業を理解していきます。しかし理系科目に使用される語彙は日本語の授業で習う語彙とは大きくかけ離れており、そうした語彙の導入を学生達の負担を少なく進めるにはどうすべきなのか、今後検討していかなければならない課題です。

2年生の授業風景の写真
2年生 授業風景

このようにしてあっという間に1年がすぎ、2年生になると、学生も教員も日本留学試験を強く意識するようになります。2年生が毎年11月に受けるこの試験は、学生にとって日本留学を実現するための大切な試験です。4月から8月までの間はスポーツ大会やスピーチコンテスト、日本人学校との交流会等の行事もありますが、9月に入ると試験対策が一気に本格化します。トピックごとに専門的なことばを覚えたり、難易度の高い長文を読んだり。日本語だけでなく物理、数学、化学の授業も同様にこなさなければならず、学生はそれまでに増して多忙でストレスの多い日々を過ごすことになります。

そのような中で浮き彫りとなるのは、それまでの積み重ねてきた学力の差です。入学してから1年半、しっかり頑張ってきた学生と、そうできなかった学生とではこの時点で学力に大きな差が生じています。1年生のときから、成績不振の学生には面談をしたり課題を与えたり、また昼休みや放課後を利用して個別指導を行ったりとできる限りの支援を行ってきましたが、それでも生じてしまった差をこの段階で埋めることは容易ではありません。このような現実を目の当たりにするとき、私たち教員は日々の指導の重要さを痛感します。その指導とは、授業で扱う日本語の知識やスキルといったものだけではなく、学生が自律的に学習できるよう導く指導です。学生には、目標や目的のもと、自分自身をしっかりみつめ、弱点をどのように克服するかを自ら考え行動できるようになってほしい。それは、日本で留学生活を送るための大きな糧となるものです。そのような力を伸ばすために私たちにできることは何か。それを考え、日々実行していくことがAAJの教員に求められています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース
Special Preparatory Programme to Japan (RPKJ), Center for Foundation Studies in Science, University of Malaya
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
マハティール首相が提唱した東方政策に基づき、マレーシア政府と日本政府が協定を結び、マラヤ大学内に創設した予備教育機関。学生はマレーシア全土から選抜されたブミプトラ(マレー系、サバ・サラワクの諸民族)である。日本語、数学、物理、化学を学び、EJU(日本留学試験)を受験、日本の国立大学工学部への進学を目指す。日本語は、マレーシア人教員と国際交流基金からの派遣専門家が担当、理系科目は文科省から派遣された高校教員を中心に指導が行われている。 専門家は、日本語授業、教材・試験作成、シラバス・カリキュラム作成、出席率・成績の管理、学校行事の運営等を行っている。
所在地 AAJ, PAS, UNIVERSITI MALAYA, 50603, KUALA LUMPUR, MALAYSIA
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:2名、専門家:5名
日本語講座の所属学部、
学科名称
マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 1982年
  国際交流基金からの派遣開始年 1982年
 
コース種別
  日本留学のための予備教育課程
 
現地(日本語)教授スタッフ
  常勤10名(内、邦人0名)、非常勤0名(内、邦人0名)、基金派遣専門家7名
 
学生の履修状況
  履修者の内訳 1年生 現在未定(定員100名)
2年生 51名
  学習の主な動機 日本の国立大学工学部への留学
  卒業後の主な進路 日本の国立大学工学部
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
N2レベル
  日本への留学人数 毎年履修者のほぼ全員

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