日本語専門家 派遣先情報・レポート
マラヤ大学予備教育センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
マラヤ大学予備教育センター日本留学特別コース
Special Preparatory Programme to Japan (RPKJ), Center for Foundation Studies in Science, University of Malaya
派遣先機関の位置付け及び業務内容
本コースは1981年、マハティール首相(当時)によって提唱された東方政策に基づきマラヤ大学内に創設した日本留学特別コースである。学生は全てブミプトラ(マレー系、サバ・サラワクの諸民族)で、当コースで日本語・数学・物理・化学・英語を2年弱学ぶ。日本留学試験もしくは修了試験の結果で日本留学資格を得た後、国費留学生として日本の国立大学理工学部へ進学する。専門家の派遣も40年目となるが、一大学教員として現地教員と協力してコース運営にあたることが求められる。なお理系科目は文部科学省から派遣された高校教員を中心に指導が行われている。
所在地
AAJ, Pusat Asasi Sains, UNIVERSITI MALAYA, 50603, KUALA LUMPUR, MALAYSIA
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:2名、専門家5名、指導助手1名
日本語講座の所属学部、学科名称
マラヤ大学予備教育センター日本留学特別コース
国際交流基金からの派遣開始年
日本語講座の概要

コロナ禍の先に見据える未来

マラヤ大学予備教育センター日本留学特別コース
小林学、宮入英子、龍見雄作

2021年度もマラヤ大学予備教育センター日本留学特別コース(以下、「AAJ」)は新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた1年でした。政府から何度も行動制限令が出された結果、学生は何か月もオンライン授業、教員は在宅勤務を余儀なくされました。また対面授業が許可されてもワクチン接種を条件に出勤・登校・国内移動が制限されたり、学生寮での集団感染や帰省中の感染等も起こったりして、1年のほとんどの期間、ハイブリッド授業を行っていました。オンライン授業やハイブリッド授業は教員・学生ともに慣れてきており、2020年度ほどの戸惑いはないものの、長期間ともなるとさすがにストレスがたまるものです。そんな先の見えない状況の中でも、学生は日本留学という夢を実現させるために日々努力しているので、我々教員も彼ら以上の情熱と専門家の知恵をもって可能な限りの支援をしています。

<1年生>

40期生は新型コロナウイルス感染症の影響で2021年度に続きオンラインでの授業開始となりました。

今期は前年度の反省を踏まえ、オンライン学習で特に課題となる文字指導に力を入れて取り組みました。また、教員のアイディアでオンライン日本語会話サロンを実施し、学生間の交流を図ることができたことも、オンライン期間中の学生の励みになったのではないかと思います。オンライン授業は約2ヶ月間続きましたが、40期生は高校時代にオンライン授業をすでに経験していたこともあり、概ね円滑に授業を進めることができました。

2ヶ月間のオンライン授業の後、対面授業に戻ることができ、オンライン時には少し遅れ気味だった学生も少しずつ力をつけていく様子がうかがえました。一方でセメスター(2)に入ると日本語での教科学習が始まり、学生にとっては一層ハードなスケジュールとなります。そのため、時には学生の間に疲労が見られることもありますが、そうした中にあっても学生は明るくたくましく学んでおり、こちらもそうした姿勢に励まされたり、教わるところが多いです。

AAJでは1年次に書道と俳句の体験授業が一回ずつあります。日頃、勉強で忙しい学生達にとって、日本文化を体験できる貴重な機会です。また教員にとっても、普段の授業では気づかなかった学生の個性を知ったり、学生が普段こんなことを考えていたんだと新たに発見できる、楽しく貴重な機会でもあります。

マレーシアで行なわれた俳句授業の写真
俳句授業風景

俳句の授業は2コマあり、俳句の作り方についての講義の後、学生は俳句を作り始めます。自分の気持ちや伝えたいことを日本語でどう表現したらいいのか、あれこれと悩み言葉を探しながら、それぞれに個性豊かな作品を作っていきます。今回は1月に行われた俳句の授業から、各クラスの優秀作品をご紹介します。ここにご紹介できなかった学生の作品を含め、皆それぞれに自分の思いや願いが込められているのが伝わってきます。

  1. 父のあせ 田に落ちました ぼくのため
  2. 母の手に 増えるしわ見て 「行かないで」
  3. 人生で 間違いをする 成人だ
  4. 愛は何 自分に問えば 君見える

これからも学生達のAAJでの勉強の日々は続きますが、それぞれの願いや希望を叶えるため努力する学生達を応援していきたいと思います。

<2年生>

3月の年度末休暇が明けると、帰省していた学生たちがマラヤ大学の寮に戻ってきます。しかし、楽しみにしていた対面授業はわずか1週間しか実施されませんでした。マレーシアの新型コロナウイルスの感染状況が悪化し、再び授業がオンラインとなったのです。そして、このオンライン授業は9月末まで続くこととなります。中間・期末試験もオンラインでの実施となり、学生は寮の自分の部屋からパソコンで受験することを余儀なくされました。オンライン試験は教師にとっても初の試みであったため、どうすれば学生が試験に集中しやすいか、漢字の試験はどのように行えばよいかなどに頭を悩ませました。その一方で採点や成績処理の速さ、データ分析の正確さ、出題順を学生ごとにシャッフルできることなど、対面では実現し得ない数々の利点を発見できたため、新型コロナ収束後にも有益なものとして残せるよう建設的な姿勢を崩さずに乗り越えてきました。

また、2021年度は、毎年の恒例行事である「先輩の話を聞く会」もオンラインで実施することとなりました。これはAAJを卒業して日本の大学に通っている現役大学生たち十数名に講演者として参加してもらうイベントです。日本の各地域の物価やハラルフードの入手方法、学校案内には載っていない大学の魅力など、遠くマレーシアから日本での生活を思い描くしかないAAJの学生にとって夢を膨らませる大切なひとときとなりました。教科書からではなかなか学べない日本の情報を学生に伝えることができるこのような行事の運営は、AAJで働く教師としてのやりがいの一つとなっています。

マレーシアや日本の社会問題を題材に行なわれた日本語プレゼンテーションの写真
プレゼンをする学生

そして10月に待望の対面授業が再開されると、入学以来多くの時間をオンラインで過ごしてきた39期生は水を得た魚のように学校生活を楽しみ始め、AAJの二大目標である日本留学試験(EJU)と修了試験まで一気に駆け抜けました。さらに修了間近に行われたプロジェクトワークではグループに分かれて、「肥満」「ゴミ」「洪水」「渋滞」といったマレーシアや日本の社会問題を題材に、日本語でプレゼンテーションを行いました。お互いに協力し合う様子に39期生たちの絆の深さが垣間見られ、彼らがAAJでの学生生活を謳歌することができたのかというそれまでの心配は吹き飛びました。元気な姿で日本の大学へと巣立っていくことを願っています。

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