世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ミャンマーの日本語教育

ヤンゴン外国語大学
佐藤 直樹

1.日本語学科への進学

高等教育機関において正規科目として日本語を学ぶことができるのは私が籍を置くヤンゴン外国語大学とその姉妹校であるマンダレー外国語大学のみとなっています。現在日本語の他、英語、中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語、タイ語、ロシア語が学科・学部レベルで存在していますが、その中で日本語は英語について2番目の人気となっています。

七夕イベントを行う学生たちの写真
YUFLでの七夕イベントを行う学生たち

大学への進学は高校卒業試験(こちらでは10年生試験と呼ぶ)において600点満点中何点を取れたかで(そのほか受験科目、希望、地域等も判断材料となり)進学できる大学と学科が決まってきます。2017年12月入学者の場合、英語学科は524点~477点、日本語学科は506点~466点の範囲の学生が入学してきました。これは非常に高い点数であり、優秀な学生が集まっていることがわかります。

また、この数年で変わったことの一つに「日本語を学びたくて日本語学科に入る」学生が出てきたことです。当たり前に思われるかもしれませんが、以前は英語学科の合格点と日本語学科の合格点が重なることがなかったため(英語学科の最低点が日本語の最高点より上)、得点が高すぎても希望の学科に入れないといった現象が起きていたのです。よって、結果が出てから入れるところに入るというのが以前の形だったため他に行くところがなかったから日本語学科に入ったという学生がほとんどでした。それが、少しずつ変わってきており、本当に日本語が好きな学生やアニメが好きな学生が日本語学科に入ったというケースが出てきています。これは非常に喜ばしいことであり、現場の教師のモチベーションも変わりつつあります。

2.大学院

私は主に大学院での授業を担当しています。

ミャンマーの大学院修士課程(M.A.)は3年制で、2年間の修士の前に1年間の予備課程があります。

現在ヤンゴンでは修士予備課程が1名、修士1年が1名在籍しています。マンダレーでは修士1年が9名、修士2年が1名です。

修士課程に進んだ理由はさまざまですが、キャリアを考えて進んだ学生が多く、親の勧めで修士課程に進んだ学生も少なくありません。修士課程では日本語を深く掘り下げ研究するため必然的に日本語教師として必要な知識を身に着けてゆくこととなり、こちらとしてもより良い教師が生まれれば日本語教育の質も上がり、学習者も増えることに繋がるため期待してしまっています。

しかし、現実的には教師だけでは生活が苦しいこともあり、日系企業への就職を考える者、企業等で通訳や翻訳者として活躍したいと考えているものもいます。今後修士修了者の就職先を考えることが必要になってくるのだろうと思います。

3.日本語教育セミナー

年に2回(春・秋)日本語教師を対象としたセミナーを実施しています。ここには教師志望の現役大学生や大学院生も参加していて、年代や機関を超えた教師の交流の場となっています。2018春セミナーにはヤンゴン97名、マンダレー67名の教師がセミナーに参加し、互いに交流しながら、協力しながら、刺激しあいながら日本語教育について一緒に考えるセッションを行いました。

セミナーで参加者が交流している写真
セミナー風景@マンダレー

日本語の文法や表現をミャンマー語と比較しながら、違いを考えてみることやより良い授業の作り方として新しい教授法を体験してもらうセッションなどを行いました。まだまだ伝統的な教授法が根強く残っているミャンマーですが、実際に新しい教授法等を体験することで新しい何かを感じてもらえたのではないかと思います。参加者の皆さんからは毎回アンケート上でセミナーで扱ってもらいたいテーマを出して頂いています。その一つ一つに多く答えられるよう、一緒に考えていけるような取り組みをしてゆきたいと思っています。

4.日本語教師の輪

ヤンゴンには「ミャンマー日本語教師会」と「ヤンゴン日本語教師会」の2つの教師会があります。前者は主にミャンマー人の教師会であり定期的に勉強会を実施しています。主に現場の先生方が持っている問題をひとつずつ共有しながら解決してゆくというスタンスで私が講師を務めています。

後者のヤンゴン日本語教師会は日本人を中心とした教師会であり、定期的に食事会も行なっているのが特徴です。同じ土地で日本語教育に携わる日本人同士の交流からわかることや発見できることも多くあります。またそのざっくばらんな話の中から見えてきた課題を定例学習会のテーマにするといった取り組みも始まっており、教師の輪が生み出す効果を実感しています。

このような会がもっと広がりを見せることでさらなる日本語教育の発展に繋がると思います。マンダレーにはまだ教師会という形までは至っていませんが、現地の日本語教師が集まる食事会が定例化してきています。マンダレーにいる日本人が多くないこともあり結びつきは強く今後に期待しています。

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