日本語専門家 派遣先情報・レポート
ヤンゴン日本文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
ヤンゴン日本文化センター
The Japan Foundation,Yangon
派遣先機関の位置付け及び業務内容
2019年に開設された国際交流基金の海外拠点のひとつで、ミャンマー日本語教育界のハブ機関としての機能を担っている。2021年度は専門家全員が国内業務委嘱になっているため、オンラインでの日本語教師を対象としたセミナー、在ミャンマー日本国大使館と協力しての弁論大会、日本文学翻訳コンテストなどを実施している。技能実習生、特定技能ビザなどで訪日する学習者のための支援にも力を入れている。また日本語学習者や日本語学習の入り口となる文化紹介など、学習者への直接支援活動も活発に行っている。
所在地
No.70, Nat Mark Lane 1, Bahan Township, Yangon, Myanmar
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:1名 専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年
2019年

長引く避難一時帰国の中で

ヤンゴン日本文化センター
小西広明、植田一栄、雄谷マユミ

2021年2月1日にミャンマーでクーデターが起きてから1年が過ぎました。派遣専門家に避難一時帰国指示が出て二度目の帰国となったのは2021年4月22日のことでした。それから日本待機となり、7月からは国内業務委嘱の身分でリモートワークを遂行しています。

ミャンマーは恒常的な停電、モバイル通信料の大幅な値上げ、軍によるインターネットの遮断などがあり、オンラインでのリモートワークも日本国内とは違う苦労がたくさんあります。しかしそんな悪条件の中でも日本語の勉強を続けている人たちがたくさんいます。わたしたちはさまざまな工夫を凝らして、日本から彼らを応援、支援しています。

日本語教師育成コース

日本語教師育成コース(以下、本コース)は、急増する日本語学習者のニーズに応えられる質の高い教師育成のため2018年12月より開始しました。しかし、新型コロナウィルス感染拡大の影響により2020年3月で中断、その後もクーデターによる情勢不安のため中断したままとなっていましたが、2021年12月よりオンラインでようやく再開することができました。

第1期と第2期から大きく変更した点としては2点あります。対面授業からオンライン授業になったこと、そして、ミャンマー人大学講師とのティームティーチングではなく日本人講師のみによる授業になったことです。コロナや情勢不安のため仕方のない変更ではありましたが、開始前はこの2点が大きな不安材料となっていました。

ミャンマーでは2021年の11月頃からほぼ毎日4、5時間、実施時間を周知されない計画停電が続いています。週2回(各3時間)のオンライン授業が毎回無事行えるのかは始めてみないと分からない状況でした。また、前期の前半は理解の難しい言語学や外国語教授法などの授業が続きます。これらを32名の受講生全員に、日本語のみで理解してもらうことはかなり難しいのではないかと考えていました。

このように不安を抱えてスタートした本コースですが、授業後に自己評価と感想を書いてもらう「振り返りシート」や中間面談では、受講生全員から参加して本当によかったという感想をもらうことができました。その一番の理由は、グループ活動です。様々な経歴を持つ他の受講生の経験談やアイデア等は非常に参考になる、初めて学ぶ難しい理論などもグループ活動を行うことで理解が深まり、とても楽しい体験となっている、といった意見が多いです。また、授業時間以外の、授業の動画が再生できない、資料を保存し忘れたといったトラブル時も、SNSを使って受講生同士で問題解決に取り組んでいる様子が見られました。このような助け合いの雰囲気はグループ活動中心の授業を行ってきた成果だと考えます。

現在進行中である前期の授業は4月上旬まで続きます。4、5月ごろは雨が降らず、水力発電が主な電力源であるミャンマーでは電力不足になる時期なのだそうです。オンライン授業はさらに不安定な状況になることが予想されますが、受講生の皆さんにはこれまで育んだコミュニケーション能力や仲間と協力して解決する力を発揮し、今後も大小さまざまな困難を乗り切ってほしいと思います。そして、彼らが教える日本語学習者もそれらの能力を身につけられるような授業づくりを意識し、さらに学びを深めていってほしいです。

ミャンマーの先生方のために

2021年12月19日に第13回ミャンマー日本語教師セミナーを開催しました。これは第1回から第11回までは対面形式で行われていたセミナーで、ヤンゴン外国語大学、マンダレー外国語大学を会場として実施されていましたが、コロナ禍の影響で第12回からはオンライン形式で実施されています。オンラインになったことで、ヤンゴン、マンダレーの先生方が一堂に会することができるようになり、より一層活発な議論と交流ができるようになりました。またヤンゴン、マンダレー以外の地域の先生方も参加できるようになりました。

第13回セミナーは、国際交流基金 関西国際センター専門員による「「いろどり日本語オンラインコース」の紹介」と「いろどり生活の日本語」を使用している機関からの実践報告でした。ミャンマー全土から70名以上の先生方が参加しました。

ミャンマーの学習者のために

2021年11月13日に第22回日本語スピーチコンテストを開催しました。全国から49名が予選に参加し、15名が本選に出場しました。それぞれが将来の夢、理想とする社会、日本語を学び続ける理由などを熱く語り、在ミャンマー丸山特命全権大使も全員のスピーチを聞き、「スピーチコンテストは大使館の主催する最も重要な事業である」とおっしゃってくださいました。入選した5名のスピーチは、国際交流基金ヤンゴン日本文化センターのホームページから視聴できます。

ミャンマーはコロナ禍、クーデター下で2020年4月から大学の授業が開かれていませんでしたが、2022年1月から大学院の授業が再開されました。わたしは修士課程1年生の文法の授業を週に3回オンラインで行っています。大学内はインターネット環境が悪く、1回2時間の授業は中断してしまうこともしばしばですが、何とかがんばって続けています。修士予備課程にも新たに5名の新入生が入ったそうです。

一日も早くミャンマーに戻って直接先生方、学習者の皆さんとお会いできる日が来ることを願っていますが、それまでは日本からオンラインでの応援、支援を続けていこうと思っています。

(以上、執筆:小西、植田)

いろどり・JFT-Basic紹介動画の作成

私の業務の中心は、特定技能制度に伴うJFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト)の広報活動と、日本語コースブック『いろどり 生活の日本語』の紹介・指導法の支援です。クーデター後は国民感情に配慮してセミナーやFBへの投稿はしばらく控えるようにしていました。代わりに、力を入れていたものの1つに『いろどり』及びJFT-Basicの紹介動画作成があります。広く一般に紹介するため、それぞれ日本語ver.とミャンマー語ver.を作成し、一部は既にYouTubeにアップロードしています。その後、『いろどり』日本語サイトやJFT-Basicサイトに修正・更新があり、それに合わせて改訂版を作成しました。ナレーションの録音には静かな環境が必要ですが、バイクのクラクションや生活音を避けるため夜間に集中して行うなどミャンマー人スタッフの苦労の甲斐もあって、ようやく完成することができました。順次、公開する予定ですが、少しでも多くの方の目に留まり理解を深めてもらえることを願っています。

いろどりサイトの充実

もう1つは、『いろどり』副教材を作成しホームページ上にある「いろどりサイト」の充実を図ることです。これまでに、「いろどり教え方のポイント」、「会話テストと評価方法」「みんなの日本語&いろどり文型対照表」を掲載してきましたが、ここに新しく「いろどりオンライン練習問題(入門)」が加わりました。コンセプトは、”スマホで手軽に空いた時間にやれる練習“で、問題数を絞って何度も行うことで定着を図ることを目指しています。FBで告知を行ったところ初日に300件ものシェアがあり、リアクションの大きさに驚いています。学習者が使ってくれている場面を想像しながら、初級1・2にも取り組んでいきたいと思います。

オンライン日本語教材の写真
いろどりオンライン練習問題(入門)

いろどりノベルティグッズ制作

念願だった「いろどりノベルティグッズ」の制作が2021年度にようやく実現しました。全スタッフからアイディアを募り、投票制でグッズを絞り込んだ結果、まずは「傘」と「ノート」の2点に決まりました。ミャンマー人スタッフが業者とデザイン・価格の交渉を行ってくれ、今年度中には納品予定です。「いろどり」と書かれたロゴを町で見かける日が待ち遠しいです。

日本語教材「いろどり」のノベルティグッズの写真
いろどりノベルティグッズ

この他にも、『いろどり』教え方セミナーやFB上での日本の生活TIPSの発信など、ミャンマーの日本語教師・学習者との交流、情報共有を絶やさないよう心がけています。セミナー後のアンケートでは、クーデター後も日本語教育の需要は落ちるどころか、将来を見据えて日本での就業を望む若者が増えているといった声も聞かれます。

しかし、日が経つにつれ、再渡航がままならない現状に不安と苛立ちが募りつつあります。また、私達の執務室はヤンゴン外国語大学の中にありますが、1年近く閉ざされたままです。1日も早く執務室の扉が開き、ミャンマー人同僚や大学の先生方と言葉を交わしながら仕事に就ける日が来ることを切に祈るばかりです。

(以上、執筆:雄谷)

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