世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)マニラ日本文化センターの日本語教育支援

国際交流基金マニラ日本文化センター
講座・教師養成チーム:中込達哉・石田英明
EPA研修チーム: 青沼国夫・森美紀・早川直子
中等教育・教師養成チーム:松本剛次・桑野幸子・高須こずえ

フィリピンでは、3つのチーム(講座・教師養成、EPA研修、中等教育・教師養成)に分かれて業務を行っています。それぞれのチームから最新情報をお伝えします。

2015年からJLPTが年二回に!

2014年マニラJLPT試験会場の様子
2014年マニラJLPT試験会場

マニラ日本文化センター(以下、JFM)では、国際交流基金の教科書『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)を使った学習者のためのコースも実施されています。『まるごと』コースは、入門コース・初級1コース、初級2コースなど教科書に合わせたレベル別になっています。教科書『まるごと』は、入門から初級2までは、「りかい」編と「かつどう」編の二分冊構成になっていますが、JFMでは、限られた時間の中で会話力養成に力を入れるため等の理由で、「かつどう」編のみを使用しています。「りかい」編を使用していないと言うと、「文法の力が弱いのでは?」と思われるかもしれませんが、2014年12月の日本語能力試験では、初級2の修了生たちが大変良い成績で合格しました。(N4は3名受験中2名合格、N5は6名受験中6名合格)

フィリピンでは、学習者の増加に伴って、日本語能力試験(以下、JLPT)受験者も増えています。そのため、2015年からは、7月と12月の二回、マニラ・セブ・ダバオの三か所の会場で実施されることになりました。

アニメやコスプレが好きで日本語の学習を始めた人たち、大学で日本語を学ぶ学生たち、これから日本へ行く技能実習生や介護士・看護師の方たち、日本企業や日系企業で日本語を使って働く社会人、そして日本語を教える先生たち、様々な人々がJLPTを「目標」として日本語を勉強しています。

今年も、「合格しました!」の嬉しいニュースがフィリピン人が大好きなフェースブックに飛び交うのが楽しみです。

看護師・介護福祉士候補者のための日本語研修 -渡日に向け、交流を通して学ぶ日本語-

2011年から日比EPA(経済連携協定)に基づいた看護師・介護福祉士候補者に対する日本語予備教育を実施しています。今回は5回目で、看護師候補者55名、介護福祉士候補者148名、計203名を対象に、2014年11月から6か月間マニラ首都圏内の研修施設で実施しました。

本研修では来日後の研修、就労を効果的に行うための準備として、語学学習だけでなく、「自律学習」と「社会文化理解」を取り入れているのが特徴です。「社会文化理解」の中には、これまで学習したことを使ってみる「日本語運用と異文化理解」という時間があり、朗読発表、調べ学習、日本語コンテストを実施しました。

発表の様子
「日比比較」で発表

調べ学習では通常のクラスを超えて編成したチームで、「地理」「日比比較」というテーマについて調べ、発表しました。「地理」では自分たちが働く病院や施設のある県について調べ、「日比比較」ではフィリピンと日本の文化について調べて比較し、ポスターを作って口頭発表を行いました。口頭発表では全員が発表を分担し、質疑応答も日本語で行いました。普段あまり話す機会のない他のクラスの候補者や教師、日本人ビジターとのやりとりを通して、これまで学んだことがどれだけ身についたか実感したようです。現地研修は5月で終わり、6月にはいよいよ日本へ旅立ちます。皆次のステップに向けて新たな気持ちで頑張っています。

よりよい社会の実現のために‐中等日本語教育でできること

現在フィリピンの中等教育ではいわゆる「21世紀型スキル」と呼ばれる、これからの変化し続ける社会を生きていくための力を身に付けることが重視されています。もちろん外国語としての「日本語」もその例外ではありません。

カレンダー画像
生徒たちのポスターから作られたカレンダーの一部

例えば21世紀型スキルの中には「個人として、社会人として、市民としての責任能力」というものがあります。このような責任能力を自覚し、今の自分に何ができるか考え、行動すべく、「にほんご人フォーラムフィリピン2015」というイベントが行われました。「NotもしもButいつも」というテーマの下、台風の多いフィリピンでは深刻な問題である「水害」を取り上げ、実際の水害被災地を訪ね、被災者にインタビューし、どう備えるべきか、被害を少なくするにはどうしたらいいか、などを日本語を勉強しているほかの学校の生徒と考え、それをグループで一枚のポスターにまとめる、という活動が行われました。「チーム能力、協働能力、対人能力、インターアクティブなコミュニケーション能力」というのも21世紀型スキルにおける大切な要素ですが、この活動を通してそれらも高めることができたと言えます。さらにはこのようにして作られたポスターからカレンダーも作成され、学校や地域のコミュニティセンターに配られました。それが貼られ見られることによって、そこからまた新しい活動へとつながっていくことも期待できます。考え、行動するだけでなくそれを次の展開につなげていくこと。考えたこと、勉強したことに何の意味がありそれが今の自分のいる場所ではどう使えるかを考える/考えてもらうこと。「Think globally but act locally」という言葉をこの活動に参加した高校の先生が言っていました。フィリピンの中等教育で日本語という外国語を勉強すること/教えることは、グローバルな視点で物事を考える力を養うと同時に、それが今の自分にとってどんな意味があるのか、どう役に立つのかを考える/考えてもらうという点で、まさにこのような考え方や能力を養うものだと言えるでしょう。そしてそれはよりよい社会の実現へとつながっていくことでしょう。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Manila
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
フィリピンでは日本語教育分野の人材育成が求められている。日本語専門家は、マニラ日本文化センター付アドバイザーとして、センター主催の教師研修や日本語教師フォーラム(年2回)、一般向けの日本語学習講座、全国スピーチコンテストなどの企画・開催、現地団体の主催する日本語関係のプログラムへの協力などを行っている。また、本年度の最重要課題である中等教育における日本語教育導入・展開プロジェクトの下、現役高校教師対象教師養成講座や教材作成、巡回指導などを行っているほか、EPAに基づくフィリピン人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業にも取り組んでいる。ニューズレター『みりえんだ』発行。
所在地 The Japan Foundation, Manila
23rd Floor, Pacific Star Bldg, Sen.Gil J.Puyat Ave. cor Makati Ave.
Makati City, 1226 Philippines
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:5名、専門家:3名、指導助手:1名(うち専門家1名はセブ島に派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2000年
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