世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)マニラ日本文化センターの日本語教育支援

国際交流基金マニラ日本文化センター
EPA研修チーム: 早川直子・池津丈司・石川晶子・國頭あさひ・宮﨑さとみ
中等教育・教師養成チーム:森田衛・桑野幸子・新谷知佳
講座・教師養成チーム:武井康次郎・石田英明

「もうすぐ日本で働きますから」
EPA看護師・介護福祉士候補者のための日本語研修-

フィリピンでは2011年から日比EPA(経済連携協定)に基づいた看護師・介護福祉士候補者に対する日本語予備教育を実施しています。第9期となる今回は、看護師候補者35名、介護福祉士候補者280名、計315名を対象に、2016年11月から6か月間マニラ首都圏内の研修施設で日本語研修を実施しました。

来日後の研修、就労を効果的に行うための準備として、本研修は3本柱を掲げています。「日本語」のほかに、「自律学習」と「社会文化理解」を取り入れているのが特徴です。「社会文化理解」では、日本事情について学ぶ講義形式の授業以外に「日本語運用と文化理解」という授業で、これまで学習した日本語を実際に使う機会もありました。

その中の一つ「調べ学習:日比比較」は研修終盤の4月に行われました。候補者が選んだ「おばけ」「結婚式」「仕事」などのテーマについて、フィリピンと日本の違いをまとめて発表や質疑応答までをするという、日本語の4技能を存分に発揮するまたとないチャンスとなりました。研修当初ほとんど話せなかった候補者が日本語で生き生きとコミュニケーションする姿に目を見張ると共に、6月に日本での生活を開始する彼らの夢が日本でかなえられることを願ってやみません。

ポスター発表する候補者たちの画像
ポスター発表する候補者たち

あこがれの会社を訪問

当センターでは、高校教師を対象とした日本語教師研修をフィリピン教育省と連携して実施しています。研修に参加している教師は、これまで英語、社会、フィリピン語など専門の科目を教えてきた現職教師であり、生徒を引き付けながら授業を組み立てていく技術をすでに持っていることから、研修では基礎的な日本語力や日本語教授法の習熟に焦点を当てています。専門の科目を担当しながら、新たにゼロから日本語を習得して日本語教師となる道は容易ではありませんが、持ち前の明るさを武器に頑張っています。

フィリピンでは若者を中心に日本のアニメが親しまれています。当センターでフィリピンの高校生向けに制作した日本語教材『enTree -Halina! Be a NIHONGOJIN!!-』でもアニメをテーマにした課を設けていますが、生徒や教師から好評を得ています。実は30年以上前から日本の大手アニメ制作会社がマニラに進出し、日本でもおなじみのアニメの多くがそのスタジオで作られていますが、この度、制作会社のご厚意で研修中に会社訪問が実現しました。スタジオは工程別に部屋が分かれていて、その中で多くのアニメーターが細かい作業に集中していました。後日の振り返りでは、「子どもの頃から日本のアニメを見てきたが、ひとつのアニメを作るのにこれほど手間がかかっているとは思わなかった」という驚きの声や、「今度は生徒を連れて訪問したい」(ともに原文は英語)という教師の視点も強調されていました。これからもさまざまな機会を通じて、日本語教師や生徒たちが外の世界とつながるお手伝いをしていきたいと考えています。

アニメ制作スタジオを見学の画像
アニメ制作スタジオを見学

日本語教師の魅力を伝える

国際交流基金マニラ日本文化センターでは、2ヶ月に一度、金曜日の夜に「先生の輪」という勉強会を行っています。発表者は我々日本語専門家やフィリピン人日本語教師など様々です。

内容も初級から中級、文法や発音など多岐にわたります。参加者は基本的にフィリピン人教師ですが、教師志望者あるいは日本人教師も参加可能で、よい情報交換の場となっています。参加するには事前登録が必要ですが、当日参加も受け付けていて、尚且つ無料です。しかし、無料ということがかえってあだとなり、人数が少ない場合もあり、反対に事前登録より多い場合もあります。

先日も事前登録は約20名でしたが、ふたを開けると5人だけでした。原因は当日雨が降ったため、マニラ名物の大渋滞が一層ひどくなり、足を運んでくれなかったようです。しかし、参加してくれた5名は楽しんでくれていたのが何よりでした。

フィリピンでは急激に増える学習に対し、教師の需要が追い付いていません。よって、教授法はもちろん、日本語能力の低い教師も教壇に立っています。また、日本語力が向上すると、教師を辞め、企業で働く人も少なくありません。教え方はもちろんですが、勉強会やセミナーなどで日本語教師という仕事の魅力を教えることも大切だと感じる今日この頃です。

課題について考える参加者の画像
課題について考える参加者

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Manila
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
日本語専門家は、3チームに分かれ業務を行っている。まず、講座・教師養成チームでは、教師研修や日本語教師フォーラム(年2回)、一般向け日本語講座、全国スピーチコンテストなどを実施している。次に、中等教育チームでは、フィリピン教育省と連携し、他教科現職教師を対象とした日本語教師養成講座、巡回指導、進行中の教育改革K to 12にあわせた教材の追加作成や改訂を担当している。また、2014年からは日本語パートナーズや同カウンターパート教師への支援も行っている。最後にEPAチームは、EPAに基づくフィリピン人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業に取り組んでいる。ニューズレター『みりえんだ』発行。
所在地 The Japan Foundation, Manila
23rd Floor, Pacific Star Bldg, Sen.Gil J.Puyat Ave. cor Makati Ave.
Makati City, 1226 Philippines
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:4名、専門家:6名、指導助手:1名(うち専門家1名はセブ島に派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2000年
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