世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)セブの人々が支え広げる、セブの日本語教育

国際交流基金マニラ日本文化センター(セブ)
新谷 知佳

卒業式を迎えることができました。

2019年3月、セブで中等教育日本語教師の教師研修が行われるようになって、はじめての卒業生を送り出しました。この研修では、フィリピンの中等教育向け教材である『enTree‐Halina! Be a NIHONGOJIN!!‐』を教えられるようになるための教材分析や模擬授業を中心に3年間の研修が行われました。今回卒業した4期生はフィリピンの中等日本語教師研修ではじめて『まるごと 日本のことばと文化』が教材として使用された期でもあります。これまでの研修の反省を生かし、日本語力強化に重点を置いて、特に3年目の研修では演習の時間を多く取りました。その結果、enTreeのコンセプトをしっかりと理解して授業を行いながら、追加の語彙を入れたり、教案ではローマ字になっている語彙であっても積極的にひらがなの使用を促したりと、アレンジを加えられるようになりました。教師にとっても、生徒にとっても飽きのこない常にチャレンジングな授業となり、日本語の授業がこれまで以上に生き生きとしています。また、2019年4月より開始した5期生の研修において、卒業生の約半数がインストラクターとして活躍しています。先輩教師から後輩教師へ、知識だけではなく、先輩だから伝えられる経験も踏まえた授業を展開し、セブを中心としたヴィサヤ地域の中等教育教師ネットワークが強まりつつあります。

セブで行われた卒業式の写真
セブで行われた卒業式の様子

行動中心アプローチでサバイバル日本語を教えよう!

ANT-V(Association of Nihongo Teachers in Visayas; ヴィサヤ地域日本語教師会)主催の「2018日本語教授法研修:行動中心アプローチでサバイバル日本語を教えよう!」が2日間にわたって、セブ市内で行われました。1日目は行動中心アプローチについて学んだあと、日常生活において遭遇するであるトラブルを場面に設定し、それを解決するために必要な語彙・表現について考え、会話を作成し、ポスターセッションの形式で模擬授業を行うワークショップ、2日目は、その授業をどう評価するかを考え、ルーブリックの作成やロールプレイテストの実施方法について考えました。セブだけではなく、マニラやカガヤンデオロ、バコロドなどの遠方からの参加者もおり、それらの地域でも同じようなセミナーを実施してほしいという声も聞かれるくらい、参加者にとって満足度の高いセミナーとなりました。また、他地域で活躍するフィリピン人日本語教師が集まり、貴重な情報交換の場にもなりました。

「にほんご人」セミナー

ヴィサヤ地域で日本語教育を実施している高校では、「会社キャラバン」と呼ばれる、セブの日系企業を訪問するイベントを行っています。しかし、諸事情で学校外に出るイベントを行うことができない学校もあります。そのような学校を対象に、セブで仕事で日本語を使用して活躍している「にほんご人」を講師として招聘し、「にほんご人セミナー」と題したキャリア教育セミナーを企画・実施しました。

セミナーでのアクティビティの様子
セミナー内のアクティビティ

今回は、IT企業でブリッジエンジニアとして活躍するフィリピン人に「IT企業での日本語の活躍」というタイトルでセミナーを行ってもらいました。日本語を勉強している高校生の中には、PCやプログラミングへの興味から日本語から離れてしまったり、将来日本語をどのように使えるのかイメージできないまま学習を続けていたりと、日本語使用のイメージが教室内で留まってしまっている高校生が散見されます。そのような高校生にとって、特技×日本語で得られる仕事の存在や、実際にフィリピンにある企業でどのように日本語が使われているのかを知る貴重な機会になりました。セミナーの最後には活発な質疑応答が行われ、生徒たちの興味をひきつけていたことがうかがえました。生徒の日本語学習へのモチベーション向上にも大きな効果が期待できます。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Manila
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
セブ島を中心としたヴィサヤ地域の日本語教育支援
(1)中等教育における日本語プログラム支援
-新規教師研修の実施
-巡回指導の実施
-現地日本語教師の日本語能力向上についての指導等
(2)ヴィサヤ地域における日本語教育活性化の支援
ANT-V(ヴィサヤ地域日本語教師会)の活動支援
-スピーチコンテスト等のイベントへの参加等
(3)マニラ日本文化センターがヴィサヤ地域で実施する日本語事業の支援
-専門家・講師の実施する教師研修の支援等
(4)基金の日本語事業の実施・協力
-日本語パートナーズ派遣事業等
所在地 23/F Pacific Star Building, Sen. Gil Puyat Avenue corner Makati Avenue, Makati City, 1226 Philippines
国際交流基金からの派遣者数 専門家 1名
国際交流基金からの派遣開始年 2011年
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