世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)はばたけ!新人教師たち

国際交流基金バンコク日本文化センター
佐藤五郎、阿部洋子、中尾有岐

タイの日本語教育と、その課題

みなさんは、いま世界でどれだけの人が日本語を学んでいるか知っていますか。国際交流基金の2012年度日本語教育機関調査によると、その数およそ400万人。1979年度の調査開始以来、右肩上がりで増え続けています。

タイに目を転じてみると、学習者数は世界第7位の約13万人。そして、その7割近く(およそ8.8万人)を占めるのが、中等教育機関(日本の中学・高校に相当)で学ぶ子どもたちです。タイの高校では、第1外国語である英語の他に、第2外国語を選択し履修するのですが、日本語は、その中でも依然として高い人気を誇っています。ただ、問題もあります。それは、学習者数の増加に教師の数が追いついていないことです。中等教育機関の日本語教師を養成することが、数年来の課題なのです。

新たな教師養成プロジェクト開始

教師不足は、日本語に限らず他の外国語(中韓仏伊など)にとっても深刻な問題です。そこで、タイ教育省基礎教育局(OBECthe Office of Basic Education Commission)が打ち出したのが、2013年から6年かけて600名の外国語教員(公務員)を養成するプロジェクトです。養成する教員数は言語によって異なりますが、日本語教員は最多の200名。2013年から2016年の間に、毎年50名ずつ養成する計画です。国際交流基金バンコク日本文化センター(以下、JFBKK)は、このプロジェクトに協力し、日本語と日本語教授法に関する研修を担当することになりました。およそ4か月にわたる「タイ中等教育公務員日本語教員養成研修」(通称「OBEC研修」)です。

この研修は、まずJFBKKで、続いて国際交流基金日本語国際センター(埼玉県さいたま市)で、それぞれ2か月間の研修を行います。日本から戻ってきた後、再びJFBKKで3日間の研修を行い、全課程を修了します。

若さいっぱいの研修生たち

2014年2月、OBEC研修1期生50名がJFBKKでの研修をスタートさせました。平均年齢は25歳。研修担当講師陣を圧倒する若さとエネルギーです。その勢いは研修最終日まで衰えることがなく、休み時間には教室や廊下から絶えずにぎやかな笑い声が響いていました。また、出身地も出身大学もバラバラでしたが、さすがタイ人。初日からすでに打ち解け、共に学ぶ仲間の輪ができ上がっていました。

JFBKKで行った研修の内容は、大きく分けて2つ。日本語運用力を高める「日本語授業」、日本語を教える上での基礎知識を学ぶ「教授法授業」です。そして、研修の山場は、グループによる模擬授業。20分という限られた時間で、柔軟な発想と創意工夫を盛り込んだ授業を展開してくれました。それまでは学ぶ側に回り、どこか学生っぽさも漂わせていた研修生たちが、この時ばかりは皆「先生の顔」になり、非常に頼もしく見えました。また、誰もが「教えることが好き!楽しい!」という思いに溢れており、「この人たちに教わる生徒たちは、きっと日本語が好きになるだろうなあ」と思わされました。

中等教育機関では、学習者が増加する一方で、「1クラスの人数が多く、クラスコントロールが難しい」、「やる気のある生徒ばかりではない」といった問題も指摘されています。しかし、そんな状況だからこそ、教師が生徒の意欲や感情に与える影響は大きいのではないでしょうか。日本語好きな教師が教えた生徒は、きっと日本好き・日本語好きになるでしょう。そんな風に、日本ファンの子どもたちを一人でも多く育ててくれたら、こんなに嬉しいことはありません。教師という仕事は、決して楽しいことばかりではありませんが、教える喜びを胸に、新人教師たちが羽ばたいていってくれることを願います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Bangkok
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
タイ国全土の日本語教師・学習者支援のためのさまざまな事業を行っている。教師支援では、中等教育の教師養成・現職教師対象の各種研修、学習者支援では、JFスタンダード講座を始めとする一般講座の開講。また、コンサルタント業務、紀要やニューズレターの発行等を通して情報センターとしての機能を果たしている。
所在地 10th Fl. Serm-Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21Rd., Bangkok 10110 Thailand
Tel:66(2)260-8560~64 Fax:66(2)260-8565
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年

[お問い合わせ]

国際交流基金(ジャパンファウンデーション)
文化事業部 欧州・中東・アフリカチーム 担当:中島、永田
電話:03-5369-6063
Eメールアドレス:Q_europe_mideast_africa@jpf.go.jp
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