世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)目の前にいる「生徒」のために
国際交流基金バンコク日本文化センター (タイ北部中等教育機関)
大谷つかさ
タイ北部中等教育機関で日本語を学ぶ生徒
バンコクから700キロ以上も離れたタイ北部(以下、北部)チェンマイに、私がオフィスを置くユパラート・ウィッタヤライ校(以下、ユパラート校)はあります。タイというと「暑い」イメージだと思いますが、ここ北部は乾季になれば最低気温が15度を下回り、山には霜が降り、イチゴが食べられるようなところです。クーラーをつけずに一日過ごせる乾季が私は大好きなのですが、生徒たちはダウンを着、手袋をはめて、寒さに耐えながら授業を受けています。
そんな北部で生徒が日本語を勉強する理由。最も多いのは、「日本のアニメ・漫画から興味を持って」という理由です。タイの中等教育機関では、第二外国語としてフランス語、中国語、日本語が開講されている学校が大半です。そんな中、日本のアニメなどから興味を持って日本語を選んでくれる生徒たち。その生徒たちが日本語、そして日本を好きでいてくれるためにはどんな授業が有効なのか、どんな授業をすべきなのか、どうすればモチベーションを保てるのか、ということが、現地で教える多くの先生方の悩みとなっています。そんな先生方と試行錯誤しながら、北部の日本語教育を一緒によりよくしていくのが私の仕事です。
体験すること・見ることの重要性
教師研修で真剣に発表を聞く先生方
そんな先生方への活動や授業の提案は、タイ北部教師研修や日本語キャンプ、学校訪問などの中で行っています。教師研修では、それぞれの学校で実践できるよう、深く理解してもらえるよう、理論を説明しますが、「つまりそれはどういうことか」というのを具体的な活動で示し、学習者として体験してもらっています。タイの先生方の素晴らしいところ、それはどんな活動も全力でやるところだと思います。もちろん紹介する活動や授業方法は対象となる高校生向けなのですが、毎回先生方は本気で取り組んでくださいます。だからこそ、研修内容をよく理解し、何かを得て帰れているのではないかと思います。教師研修後、紹介したアイスブレーキングや活動が自分の学校の生徒に有効だったという話を聞いたり、ユパラート校の先生がさっそく授業で取り入れているのを見たりすると、学習者体験がいかに大切かを実感します。
学校訪問での活動紹介の様子
実際に体験したり見たりすることを大切にし、教師研修だけではなく、学校訪問で授業を任された時には先生方にも体験してもらうようにしています。また、生徒向けのイベントである日本語キャンプの活動の中にも取り入れるようにしています。日本語キャンプは教師研修とは違い、設計し運営するのはタイ人の先生方なので、企画段階でより実践的に日本語が使えるような活動内容を提案するとともに、任された活動は必ず授業でも取り入れられる活動にしています。例えば、昨年度の日本語キャンプでは、インタビュー方法を学習した後、チェンマイにいるロングステイヤーの方に協力していただき、実際にインタビューを行いました。インタビュー内容は簡単なものでしたが、生徒たちは勉強した日本語を「実際に使えた」というのが自信につながったようです。そんな生徒たちの様子を見て、「実際に日本語を使う機会を作ることが大切だ」と思った先生、「インタビュー方法の教え方が甘かった」と自分自身の授業を見直した先生などがいました。
どうやって実際の場面と結び付けていくか
日本語キャンプを利用して、実際の使用に結び付けようとしたのには理由があります。海外の日本語教育の現場で多くあるように、タイ北部もまた、日本語使用場面が極めて限定的であるからです。そのため、先生方には、上記のような環境を利用した使用場面作りとともに、日本人がいなくても教師の工夫で可能となる教室での使用場面作りを提案したり、既に実践していらっしゃる先生方にはそのアイディアを紹介してもらったりしています。
北部の先生方との試行錯誤の日々は非常に楽しいです。これは、先生方が「目の前にいる生徒のために」自分自身の授業をよりよくしようと、いつも真摯に授業と向き合っており、その気持ちがまっすぐに伝わってくるためです。これからも「少しの工夫で」日本語使用場面は多く作れることを伝えるとともに、現場にあった日本語教育とは何かを追求していきたいと思います。
派遣先機関名称 | 国際交流基金バンコク日本文化センター (タイ北部中等教育機関) |
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The Japan Foundation, Bangkok | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
派遣先機関の位置付け 及び業務内容 |
日本語専門家の業務の拠点であるユパラート・ウィッタヤライ校はチェンマイ県の伝統ある有名校で、タイ北部において、中等日本語教育のリーダー的役割を担うセンター校である。日本語コースは今年度で12年目を迎え、日本語専門家(旧ジュニア専門家)派遣も12年目となる。日本語専門家はタイ人日本語教員のための教師研修会の運営や学校訪問、巡回指導、教員間のネットワーク形成支援といった地域全体に対する支援と、派遣機関に対する日本語教育全般における支援を行う。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
所在地 | 238 Praplokkloa Rd,. T. Sripoon, A. Muang, Chiangmai 50200 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
国際交流基金からの派遣者数 | 専門家:1名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
日本語講座の所属学部、 学科名称 |
第二外国語グループ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
日本語講座の概要 |
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