世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)コンケン大学での業務

コンケン大学
飯尾幸司

1.コンケン大学教育学部日本語教育専攻(以下、KKU_TJL)の位置付け

タイでは1981年から後期中等教育(日本でいう高校)の第二外国語のひとつとして正式に日本語が加えられたことにより、中等教育段階でも日本語教育が広まり始めました。現在では大学の入試科目ともなっており、国際交流基金が2012年度に行った海外日本語教育機関調査によると、タイの日本語学習者数は129,616名で、そのうちの70%弱を中等教育機関での学習者が占めます。

そのタイ中等教育機関において正規日本語教員(公務員)になるには教員資格が必要ですが、タイの人文社会系学部の日本語専攻では教員資格が取得できない(卒業後、教育学部で単位をそろえるなどの方法はある)ため、以前までは、英語、国語、社会などの他科目の教員が日本語を教えおり、その多くが、国際交流基金バンコク日本文化センターの「中等学校現職教員日本語教師養成講座(新規研修、1年間)」の修了生という状況でした。

そういった中、2004年に新教員養成カリキュラム(5年制)が施行されて、コンケン大学教育学部に「日本語教育課程」が創設されました。その翌年、バンコク近郊のブラパー大学でも日本語教育課程が始まりましたが、2012年度より2014年度までは新入生を募集していません。(2015年に新入生受け入れ再開の見込み。)

タイの少子化の問題や中国語の拡大等、日本語の学習者が今後急速に増えることは考えにくいですが、タイの政府は近年中等教育機関の国際化を推し進めており、その流れで正規外国語教員を特別枠で6年かけて600人採用する(そのうちの200人が日本語教員)といった明るいニュースもあります。また、先述の「中等学校現職教員日本語教師養成講座」の修了者が定年を迎える時期が来ようとしているため、タイの日本語教育界においてKKU_TJLが担う役割はこれまで以上に重要になってきています。

2.KKU_TJLの歩み

KKU_TJLは2004年に開設され、現在までに6期分の卒業生を輩出しましたが、その間の教員たちの試行錯誤とたゆまぬ努力の結果、日本語能力に関しても就職に関しても確実に進歩を遂げてきています。

立ち上げ当初は日本語能力試験N4に合格しないまま卒業する学生も少なくなかったと聞いていますが、今ではそのような学生はほとんどいなく、在学中にN2に合格する学生も複数存在し、N3に合格するのが当たり前になってきました。

また、第1期の卒業生23名のうち正規日本語教員として採用されたのは3名だけであったのに対して、第6期生は26名中13名が正規日本語教員として採用されました。この採用数に関しては先述の特別枠での採用も含まれているため、今後もずっとこのような数字を維持することは難しいと思いますが、日本語教育に関して高い専門性を備えた卒業生を毎年多数輩出しています。

3.日本語専門家の仕事

私たち日本語専門家の一番の仕事は、タイの日本語教育の中心になりつつあるKKU_TJLの更なる発展をサポートすることです。

先生を敬う日の様子
先生を敬う日

日本語教育に関しては、赴任当初からすでにある程度軌道に乗っていましたが、中級以降の日本語教育をどうするかについてその方向性が定まっていませんでした。その方向性を決めるために、先ずは教員間でどのような教師を育てるのかについて考えました。そして、日本語の運用力を高めることを第一の目標に掲げつつ、中級以降では日本語能力試験N2合格を視野に入れ、ことばや文法を一つずつ丁寧に教えた上で精読していくという従来のやり方を改め、読解や聴解のストラテジーそのものを延ばす授業を目指すことにしました。この取り組みは1年目ということでいろいろと改善すべき点はあると思いますが、ある程度の成果を収めています。

ワークショップの様子
ワークショップ

そして、専門科目に関しては。これまでのやり方を踏襲しつつ、個々の授業において今後のシラバスデザインや授業の手助けとなる資料を多く残すこと、そして、学生を型にはめてしまうのではなく、学生個々の発想力や個性をうまく活かすことを目指しています。この後半部分は報告者の1年目の反省を踏まえてのことです。1年目は教えることに精一杯で、知らず知らずのうちに、学生を型にはめてしまっていました。そのため、悪くはないが面白みに欠ける、似たような教案を学生たちが書くようになってしまっていたのです。それを反省し、2年目は基礎となる理論はしっかり押さえた上で、できるだけ学生たちに自由に発想してもらうことを心掛けました。その結果、学生が作る教案等も、個性溢れる魅力的なものが多くなりました。

KKU_TJLはまだまだ発展途中であり、日本語の授業に関しても専門科目に関しても更なる改善が必要ですが、幸いにもKKU_TJLには学部長をはじめ、優れたスタッフが揃っています。報告者に残された時間は後1年程度ですが、今後もスタッフたちと力を合わせ、問題に一つずつ立ち向かっていこうと思っています。

[お問い合わせ]

国際交流基金(ジャパンファウンデーション)
文化事業部 欧州・中東・アフリカチーム 担当:中島、永田
電話:03-5369-6063
Eメールアドレス:Q_europe_mideast_africa@jpf.go.jp
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