世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)コンケン大学教育学部日本語教育課程の軌跡

コンケン大学
飯尾幸司

皆さん、こんにちは。2013年4月から国際交流基金よりコンケン大学に派遣されている飯尾幸司と申します。

早いもので、私がコンケン大学に派遣されて丸3年が過ぎ、コンケンを離れる時期が少しずつ近づいてきています。これまでに3回ここでご報告をさせていただきましたが、今回はコンケン大学教育学部日本語教育課程(以下、KKU_TJL)の歴史を振り返ると同時に、私のコンケン大学での3年間を振り返ってみたいと思います。

KKU_TJL設立の背景と概要

1981年にタイの中等教育機関で日本語が第二外国語として採用され、1998年には大学入試の科目に採用されました。その後も日本語人気は徐々に高まっていましたが、中等教育機関の教員免許を持った日本語教師が降って湧くわけもなく、日本語教師の育成がタイにおける日本語教育の長年の課題となっていました。

そういった状況の中、2004年にタイで初めての中等教育機関の日本語教師養成機関としてKKU_TJLが設立されました。

そして、設立以来、200名弱の卒業生を送り出し、100名程度の卒業生が現在タイ東北部を中心に日本語教師として活躍しています。

国際交流基金からの専門家の派遣は設立2年目に始まり、私で5代目です。

黎明期

黎明期にKKU_TJLで仕事をしていた教師は、カリキュラムの作成、実習先や教員の確保など、いろいろご苦労されたと聞いています。中でも、設立当初人文社会学部で行われていた日本語の基礎科目をKKU_TJLで引き取り、それを軌道に乗せるためには相当のご苦労があったことが想像できます。

2009年に、まずは1年生の基礎科目だけを引き取り、その後毎年1学年ずつKKU_TJLで行う基礎科目を増やしていきました。

この黎明期に、計画を立ててそれを実践し、そしてそれを改善していくというシステムが確立されました。

発展期

そして、設立9年目の2013年に私が赴任しました。当時の日本語教員は、タイ人教師2名、日本人教師3名の計5名で、私を含めた2名は全くの新任、2名が在任期間半年程度、もっとも古い教師でも在任期間が1年でした。そういった教師たちだけでこれまでに築き上げられてきたシステムを継承するということがどういうことかは説明するまでもないでしょう。

送別会の集合写真
教員2名の送別会 3年生との写真

その後、2015年(2014年度の後期)にバンコクで修士課程を修了した非常に頼もしいタイ人教師1名が加わり、本来の6名体制に戻りましたが、2015年度をもって2名の教師が退任することとなりました。右の写真はその2名の送別会のときの写真です。

私の任期中に教師が退任するのは初めてで、一緒に闘った同志を失うのはとても寂しく、KKU_TJLの一つの時代が終わったような気がしています。

今振り返ってみると、この3年間のKKU_TJLは発展期にあったと思います。これまでKKU_TJLに関わった全ての方の努力が実を結び、それが結果として現れ始めています。

どのように実を結んだかは、下の4年生終了時のJLPT(日本語能力試験)の合格率を見ていただければ一目瞭然だと思います。

  2013年度末
(7期生)
2014年度末
(8期生)
2015年度末
(9期生)
N3合格率 54.5% 58.3% 76.0%
N2合格率 0% 8.3% 20.0%

学生の日本語能力に比例して、公務員として採用される卒業生も増えてきましたし、5年時の教育実習の際の授業の質も向上しています。実習評価の際に、学生たちが楽しそうにしっかりと授業を行っているのを見るのが我々教員にとって何よりの喜びです。

いい学生や同僚や上司に恵まれ、そして、このような時期にKKU_TJLにいられた私はとてもラッキーだったなあと感じています。

先生を敬う日の集合写真
先生を敬う日

これからのKKU_TJL

私の在任期間中は常に仕事に追われ、周りの人に助けてもらってばかりでしたが、教員たち全員で目標を共有し、それに向かって進むことはできていたと思います。

KKU_TJLが掲げる目標とは以下の通りです。

学生の日本語能力に関する目標

  • 日本語能力試験N2合格を視野に入れつつ、日本語の運用力を高めることを目指す

    運用力の一例

    「話す・聞く」:
    学校で一緒に働く日本人の先生に、学校のシステムや行事について説明できる
    「書く」:
    SNSを使って日本語で情報が発信でき、また、他者の記事にコメントができる

学生の日本語教授力に関する目標

  • タイにおける日本語教育の現状、日本語教師の役割、コースデザイン、第二言語習得等に関することを理解した上で、日本語教師としての自分のビリーフスを自覚し、醸成していく
  • 自分のビリーフスや学習者のニーズ、機関の方針等のバランスを考えながらコースをデザインすることができる
  • 自分で授業を実践し、内省し、それを次の授業に活かすことができる

タイの少子化、中国語の拡大、公務員特別採用枠の終了など、KKU_TJLの学生の将来は決して順風満帆というわけではありませんが、その時の状況に合わせてKKU_TJLを再構築していき、これからも多くの学生に入学してよかったと思ってもらえるような組織であり続けてもらいたいと思います。

私の報告は今回が最後となります。

この場をお借りして、コンケンでお世話になった全ての方にお礼を言わせていただきたいと思います。

この3年間、本当にありがとうございました。皆さまのご健康と益々のご活躍を世界のどこかからお祈りしております。

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