世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)国際交流基金バンコク日本文化センター (タイ北部中等教育機関)

国際交流基金バンコク日本文化センター(タイ北部中等教育機関)
下村朱有美

タイというと、常夏のビーチをイメージされる方も多いと思いますが、ここタイ北部は、タイの最高峰ドイ・インタノンがある山がちな地形で乾季には霜もおりるようなところです。近年はコーヒーや苺の栽培も盛んになってきていています。観光の拠点となる場所も多く、外国人が多く訪れる地域でもあります。

50人程度の大人数の日本語クラスの画像
50人程度の大人数の日本語クラス

このタイ北部で、私は日本語専門家(以下、専門家)としてチェンマイのユパラート・ウィッタヤライ校を拠点にタイ北部の中等教育の日本語教育を担当しています。タイの中等教育は日本で言うと中学校・高校に相当し、タイの上北部と呼ばれる8県だけでも、約60の中等教育機関で日本語が教えられています。任期1年目である今期は、できるだけ多くの学校を訪問できるよう8県の30校以上の学校を訪問し、日本語のクラスを見せていただいたり、先生にお話をうかがったりしました。この1年で訪問できなかった学校も多くあるのですが、たくさんの学校を見せていただくことができ、一口に「タイ北部の中等教育の日本語教育」と言っても、たいへん多様であることに驚きました。教室いっぱいに生徒が机を並べる生徒数50人ぐらいのクラスもあれば 、山間部の比較的規模の小さい学校などでは生徒数10人以下の先生と生徒の距離が近いクラスもあります。人数の面だけではなく週に8時間ほど日本語のクラスがある日本語専門のコースから、週に一度の日本文化に親しむクラブ形式のクラスまで、学習時間や学習する内容なども様々です。授業の合間、先生方からは、生徒が日本語を使うチャンスがない、たくさんの文法や単語を覚えるのに苦労している、授業時間が足りない、学校の仕事が忙しくて準備の時間が作りにくい、先生ご自身も日本語のレベルをアップさせたい…など、いろいろな声をお聞かせいただきます。それぞれの課題に対し、実践につなげやすい解決策が提案できるよう、ともに考え、工夫し、少しでも学習環境が改善できるように努めています。

山岳民族の生徒が多く通う学校のアットホームな日本語クラスの画像
山岳民族の生徒が多く通う学校のアットホームな日本語クラス

タイ北部の中等教育での日本語教育が地域的な広がりを見せる一方、日本語を学ぶ高校生と接すると、日本語のレベルも高くなっていることが実感できます。そんな中で、日本語クラスの質をどう高めていくかも課題となっています。そのためには他機関との連携やネットワーク作りが欠かせません。そしてネットワークができたら、どんな情報をどのように共有するかも考えなければなりません。そこで活用しているのが、タイでも情報共有の手段としてよく使われているSNS(Social Networking Service)です。専門家として、SNSを用いて学校訪問で見た「これはいいな!」と思った授業例を紹介することもあります。先生方からもイベントのお知らせをはじめとした情報共有の場としてSNSが使われています。

一方で、依然として実際に会って交流するインパクトも大きいものがあります。日本語の教え方の研修などを行い、そこで教え方やインターネットのウェブサイトや、スマートフォンにダウンロードして使う日本語学習アプリなどの活用例を紹介することもあります。研修などで先生方が集まる場を設け、お互いの顔が見えるネットワークを作って、情報交換を活発にすることは、専門家という立場だからこそできる大切な業務のひとつだと考えています。

いろいろな学校で日本語を勉強している中学生・高校生が集まるイベントでは、生徒間のネットワークもできます。タイの中等教育機関の特色として、イベントが多いことが挙げられますが、中学生・高校生を対象とした日本語コンテストや日本語キャンプなど、年々イベントは増加傾向にあります。専門家としてこういったイベントをサポートすることも大切な仕事の一つです。各地で多くのイベントが行われていますが、イベントが多くて通常の授業になかなか集中しにくいという声もあります。既存のイベントも大切にしながら、中学生・高校生からの「日本語を勉強していてよかった」、「日本語の勉強って楽しい!」という声につなげられるように、これからも努力を続けます。

What We Do事業内容を知る