日本語専門家 派遣先情報・レポート
バンコク日本文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
バンコク日本文化センター
The Japan Foundation, Bangkok
派遣先機関の位置付け及び業務内容
タイ人専任講師と共に、タイ国全土の日本語教師・学習者支援のためのさまざまな日本語事業を実施している。教師支援事業では、中等教員向け各種研修、大学教員向けセミナー、日本語パートナーズ支援、一般日本語教育向けには『まるごと』セミナーを開講している。学習者支援では、日本語キャンプの開催やJF日本語教育スタンダード講座をはじめとする一般講座を開講している。また、教材開発にも力を入れており、中等教育向け日本語教材や「みなと」のコンテンツを開発した。その他、カンボジアやラオスなど周辺国の日本語教育支援を担っている。2019年度には特定技能チームも発足した。
所在地
10th Fl. Serm-Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21Rd., Bangkok 10110 Thailand
Tel: 66(2)260-8560~64 Fax: 66(2)260-8565
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:1名、専門家:3名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年
1994年

1.「コロナ」ニモマケズ/2.「特定技能制度を活用した来日就労のための総合セミナー」開催!

国際交流基金バンコク日本文化センター(JFBKK
飯尾幸司 / 小島佳子

1.「コロナ」ニモマケズ

2021年度のタイは、世界の多くの国と同様、年度初めにデルタ株の感染が拡大し、外食産業や観光業が大打撃を受け、やっと出口が見えて来たかと思った頃に、今度はオミクロン株の感染拡大が起こり、コロナに翻弄される1年となった。

コロナが教育機関にもたらした影響も甚大で、オンライン授業に対応するための負担が教師たちに重くのしかかり、時間内に扱いきれなかった項目を自習させたり、定着のための宿題が学習者に課せられ、その量の多さがタイの社会問題となっていた。しかし、本当に問題なのは、身体的な負担よりも、精神的な負担ではないかと私は感じている。

オンライン授業によって、余白時間のやり取りがなくなり、学習者と学習者、学習者と教師がつながる機会が奪われてしまった。その影響で、学習者たちは仲間とともに学ぶことの楽しさが味わえず、学習に対する興味も徐々に薄れていった。また、クラスメートはいつまでたってもよく知らない他人のままで、十分に打ち解けていないことから、これまで以上に素の自分をさらけ出すことが難しくなっている。その結果、カメラをオフにしたまま授業に参加する学習者が増加し、誰も見えない、何の反応もない画面に向かってひたすら話し続けるという教師も少なくないとのことである。中等教育機関においては、この2年の間ずっとオンラインだったわけではないが、それでもオンライン授業がもたらした弊害が徐々に教師たちの心に影を落としていると感じる。
以上のような問題を少しでもいい方向に導くために、2021年度に国際交流基金バンコク日本文化センター(以下JFBKK)はオンライン授業についてのセミナーをいくつか企画して実施した。

タイで実施された研修の写真
教授法研修「もっとよくなるオンライン授業」

そして、ただセミナーに参加して終わりとするのではなく、オンライン授業での課題の改善案をシェアすることで、タイの日本語教育関係者がお互いに学び合うことを目的に、オンライン授業に関するアイデアを3分以内の動画にして共有する「スースーアイデア広場」(「スースー」は「頑張ろう」という意味)という取り組みを行った。このアイデア広場には、タイ人教師と日本人教師、所属機関を問わず、27ものアイデアが寄せられ、それぞれの悩みと工夫を皆と共有するいい機会となった。また、我々が行った研修からヒントを得たであろうアイデアも数多くあり、そのことを非常にうれしく思った。

この「スースーアイデア広場」で最優秀賞に選ばれた教師の授賞式でのコメントがとても印象的だったので、ここで皆さんにも紹介したいと思う。

「オンライン授業は大変ですが、もう普通のことです。時代によって教育は変化するものです。私たちは教師として、学生のために、時代に合った教え方をするだけです。頑張りましょう。」

タイで実施されたイベントで最優秀賞に選ばれた教師の授賞式の写真
最優秀賞受賞者コメント

実は、私はこの先生を学生のころから知っているが、これほど前向きに、大きく成長した姿を見て、胸が熱くなった。そして、私も、できないことを嘆くのではなく、できることに目を向け、最善を尽くそうとする姿勢を絶対に忘れないと心に誓った。

(日本語上級専門家飯尾幸司)

2.「特定技能制度を活用した来日就労のための総合セミナー」開催!

特定技能制度が始まって3年が経ちます。この制度は、人手不足が深刻な特定産業分野に限り、一定の専門性がある外国人就労者を日本に受け入れるための在留資格で、海外から申請する場合、技能試験(2022年5月現在、タイは、介護、農業、外食業、製造業(素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野)のみ)と日本語試験「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」(JLPT-N4以上も可)に合格する必要があります。国際交流基金は、この日本語試験の作成及び実施を担っており、筆者はこのJFT-Basic広報及び来日就労する人の日本語教育支援のために、JFBKKに派遣されました。

タイは国内でも一定の仕事があるためか、近隣諸国に比べ特定技能制度等で日本へ働きに行きたいという人は多くないものの、北部や東北部の地方を中心に一定数います。しかし、これまで特定技能制度に関するまとまった情報を得る機会がありませんでした。そのため、JFBKKが在タイ日本大使館と共催し、2022年3月に「特定技能制度を活用した来日就労のための総合オンラインセミナー〜就労者に必要な日本語とは〜」を行い、275人の方が参加されました。

特定技能制度(そしてそれに関する日本語教育)は、タイ/日本両国から注目度が高いです。したがって、このセミナーは、日本の方もタイの方もご参加いただけるよう、登壇者の講演を事前録画しておき、タイ語または日本語の字幕をつけ、当日放映する形でセミナーを実施しました。セミナー当日には、登壇者にもオンラインで参加してもらい、質疑応答にライブで答える形を取りました。2部構成での実施とし、午前部は、特定技能制度やそのための試験について正確な情報提供を行うとともに、タイ人就労経験者のトークも組み込みました。午後部は、筆者より「コミュニケーションのための日本語教育~文法積み上げから課題遂行へ」、公益社団法人全日本病院協会/早稲田大学の村上まさみ先生より「介護で働く人に必要な日本語」と題した講演を行い、ライブでのトークセッションも行いました。参加者からも「全体像をかなり詳細に一日で知ることができた。」「とてもよかった。もう1度後から見たい。」というコメントがあり、非常に興味を持って聞いてもらえたようでした。

タイで実施された日本語教育セミナーの写真
午後部日本語教育セミナー トークセッション

このセミナー動画はすでにバンコク日本文化センターの公式Youtubeにて公開されていますが、今後、更に多くの方にご覧いただきたいと思っています。

現在の日本社会は、日本で働く外国人の方々のおかげで成り立っている側面があります。特定技能制度はわかりにくい点もありますが、きちんとした情報提供の下、正しく丁寧に制度を理解してもらえるようにすれば、よりよい将来のための第一ステップとして活用してもらうことも可能な制度です。その実現のためにも、日本側の受け入れ態勢の充実はもちろんですが、ともに暮らす私たち一人一人が仲間として温かく迎え入れる姿勢が大切だと思います。

(特定技能担当日本語専門家小島佳子)

What We Do事業内容を知る