世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 繋がる日本語教育

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ホーチミン担当)
小松原 奈保

 新しい道が整備され、高層ビルの建設ラッシュが続くベトナム南部の町、ホーチミン市。このホーチミン市を中心としたベトナム南部地域では、70を超える日本語教育機関で約1万9千人が日本語を学習しています。(国際交流基金2009年度 海外日本語教育機関調査)

高校から大学への繋がり

3年間着た制服にみんなで寄せ書きの写真
3年間着た制服にみんなで寄せ書き

 今年、ホーチミン市の高校で第一外国語として日本語を学習した生徒が、始めて卒業を迎えました。中学生から日本語の学習を始め、今年で7年。さよならパーティーでは、生徒たちが日本語で感謝の気持ちを伝えてくれました。

 彼らをここまで育ててきたのは、ベトナム人の日本語教師たちです。授業のない日は私たち国際交流基金の実施する教師研修に参加し、教壇に立てば、時にやさしく時に厳しい先生として日本語を教え、休憩時間は何でも打ち明けられる家族のように生徒たちに寄り添い、共に歩んできました。こうした教師たちのたゆまぬ努力があったからこそ、生徒たちは卒業を迎えられたのだと思います。生徒も先生も、7年間本当によくがんばりました。

 でも実は、ベトナムの高校生は、卒業してから大学入学試験を受けるので、まだ進路が決まっていません。みんな、7月の入学試験まであと一息、がんばれ!

 そして、ほとんどの生徒が、引き続き大学でも日本語を学習する予定です。中学校から高校へ、そして高校から大学へと、日本語の学習はこれからも繋がっていきます。

若い教師間の繋がり

 経験の浅いベトナム人の先生を支援するため、昨年からホーチミン市でも、教授法講座をスタートさせました。ここには大学や民間日本語教育機関から若い先生たちが集まり、一緒に勉強しています。

 初めは知らない人ばかりの集まりでしたが、講義で活動したり、お互いの意見を出し合ううちに参加者同士が親しくなり、最終的には授業や教え方で困ったときには連絡を取り合える仲になりました。この教授法講座を通して、参加者は教授技術だけでなく、若い教師間の新しい繋がりも手にいれているようです。

ホーチミン市師範大学から各教育機関への繋がり

 また、昨年はホーチミン市師範大学にも出講して、教師の卵たちを対象に日本語教授法の講義を担当しました。ホーチミン市師範大学日本語学科は2008年に設立され、今年初めて卒業生が出ます。卒業生の中には将来日本語教師を志す人もいると聞き、今後、大学や、中学校、高校の先生として活躍してくれることを期待しています。

スピーチコンテストを通した教師の繋がり

第18回ホーチミン市日本語スピーチコンテストの写真
第18回ホーチミン市日本語スピーチコンテスト

 最後にホーチミン市日本語スピーチコンテストを紹介したいと思います。このコンテストはホーチミン市の大学、民間日本語教育機関の教師たちが、ベトナム南部地域の日本語学習者の日本語能力向上のためにボランティアで運営しています。スピーチコンテストの運営を通じて、ここでも所属機関の垣根を越えた繋がりができています。コンテストの準備は本当に大変なのですが、今年は、今まで以上にボランティアの先生たちが協力し合い、クラブ活動のように楽しく活動している姿が印象的でした。

 このように、ホーチミン市では日本語教育機関の垣根を越え、日本語教育に関わる人と人とが目に見えない糸でどんどん繋がっています。この繋がりがもっと広く深く強くなっていくよう、これからも陰ながら支援していきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Viet Nam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つとしてハノイに設置された。 日本語教育支援事業を中心に、様々な文化交流事業を実施している。日本語教育支援事業の中心に、ベトナム教育訓練省と在ベトナム日本国大使館が実施する「ベトナムの中等学校におけるモデル的な日本語教育プロジェクト」がある。具体的には、中等学校教師向け教師研修の実施、教科書制作、モデル中学・高校でのティームティーチング、巡回指導などが挙げられる。また、ベトナム全土の日本語教育実施状況について情報収集を行っている
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Viet Nam
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名、指導助手:1 名
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
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