世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ベトナム南部の日本語教育
国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ホーチミン担当)
佐藤直樹・藤島夕紀代
中等日本語教育支援
はじめての浴衣体験 (ビンズオン省)
国際交流基金日本語専門家(以下、専門家)は中等教育段階における日本語教育支援として教師対象の研修会の実施や授業及びイベントへの支援をしています。
ベトナム南部ではホーチミン市をはじめ、隣のビンズオン省やバリアブンタウ省においても中学校・高校で日本語を導入しており、約4000名の中学生・高校生が日本語を学んでいます。これまでの専門家による支援に加え、日本語パートナーズ(日本語パートナーズ派遣事業)の派遣も加わり地方都市においても日本人と触れ合う機会が増えています。また、ホーチミン市においては毎年多くの日本人修学旅行生が訪越しており、両国生徒よる学校紹介・文化紹介・スポーツ交流などを通し交流を深めています。
頼もしいベテラン教師の存在
日本語教育が導入され13年目を迎えるホーチミン市では教師経験7年以上のベテランと言える教師が多く活躍しています。一昨年から実施してきた現地教師主導型の文化紹介を皮切りに、ベテラン教師による報告会の実施、研修の一部のセッションを任せることもできるようになってきました。また、今後は新人教師の研修・教育についても専門家と共にベテラン教師をはじめ現地教師全員で支援していくこととしています。このように所属機関を超えた協力体制が教師間ネットワークの構築となり、のちに都市を超えたネットワークへと発展していくことを期待しています。
日本語コンテスト
ベトナム人中学生の日本語学習者を対象に「日本語の文字の美しさ」を競う日本語コンテストを毎年実施しています。第11回目を迎えた今年は、昨年日本語教育を導入した隣省(ビンズオン省)の中学生も加わり計1474名が参加しました。6年生(中学1年)は「ひらがな」、7年生(中学2年)は「カタカナ」、8年生(中学3年)「漢字」、9年生(中学4年)「作文」がメイン課題であり、それぞれの作品を表すイラストも審査対象となっています。
審査はホーチミン日本人学校の日本人中学生にお願いし、授賞式も日本人学校で開催しています。今年は日本人学校及びホーチミン市とビンズオン省のAEON MALLでも入賞作品の展示会を実施し多くの方々に作品を見て頂くことができ、参加生徒はもちろん関係者一同大変嬉しく思っています。
JF講座
続いて、JF日本語講座(以下、JF講座)についてご紹介します。2012年10月に開講したホーチミン市でのJF講座も3年目を迎え、2015年5月からは中級コースが始まりました。JF講座では『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)という新しい教科書を使っていますが、中級の『まるごと』は、これまで以上に新しい考え方が含まれていますので、教える側も日々学びながら、緊張感を持って授業に取り組んでいます。
JF講座はJF日本語教育スタンダード(以下、JFS)に準拠していますので、講座運営や評価などにJFSの考え方を取り入れています。JFSではポートフォリオという、学習者が自分の学習過程を記録し保存するファイルを作るのですが、ホーチミンでもこのファイルに様々な学習成果を入れています。2014年度は、ベトナム語や日本語で思ったことを「何でも書けるシート」を導入したところ、これが好評でした。このシートには日本語での質問も多く、学習者の日本語レベルが上がってくるにしたがって内容も複雑になってきました。シートを毎回確認してコメントを書くのはなかなか大変な作業ですが、日本文化や日本の社会に対する鋭い指摘や観察眼に感心させられることしきりです。
文化体験講座
茶道で学ぶ日本語
2014年度もいろいろな文化体験講座を実施しました。生け花、茶道、マンガ、和菓子作り、お正月、ひな祭りを題材に実施しましたが、今回は茶道についてご紹介します。講座では、茶道の歴史をクイズ形式で学んだ後、所作や作法を実際に畳の上に座って学んでもらいましたが、皆さん、すり足に興味津々という様子でした。その後、和菓子と薄茶、自分で点てる体験をしてもらったところ、和菓子の繊細な美しさに感激していました。和菓子を作ったのは、もちろん昨年のこのページで紹介したスタッフのChauさんで、今回の講座では亭主も務めてくれました。来年は、どんな講座で活躍してくれるか今から楽しみにしています。
まるごとセミナー
世界各国で外国語教育にスタンダードを取り入れる動きが活発になっています。ここベトナムでも、『まるごと』について知りたい、『まるごと』を使いたいという大学や日本語学校が出てきましたので、2015年2月に「まるごと出張セミナー」を実施しました。『まるごと』の特徴や他の教科書との違いについて説明し、模擬授業を行なったところ、皆さん大変興味を持ってくださいました。3時間という短い時間でしたが、『まるごと』の特徴や使い方について理解していただけたようです。
ベトナムでは、『まるごと』の2015年9月の出版を目指して、準備が進められています。今後は、JF講座で教えるだけではなく、『まるごと』を導入している機関への支援も必要になってくると考えています。
派遣先機関名称 | 国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ホーチミン担当) |
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The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Viet Nam | |
派遣先機関の位置付け 及び業務内容 |
国際交流基金の海外拠点の一つとしてハノイに設置された。 日本語事業のほか、文化芸術、日本知的交流事業を実施している。日本語教育支援事業の中心にベトナム教育訓練省が実施する「外国語教育プロジェクト2020」があり、中等日本語教師向け研修の実施、教科書制作、モデル中学・高校でのティームティーチング、巡回指導などを実施している。また、ホーチミン市でも2012年9月よりおもに一般成人を対象としたJF日本語教育スタンダード準拠日本語講座及び日本文化体験講座を開始した。 |
所在地 | 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Viet Nam |
国際交流基金からの派遣者数 | 専門家:2名、指導助手:3名 |
国際交流基金からの派遣開始年 | 2008年 |