世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日越の心をつなぐベトナムの日本語教育

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
栗原幸則・古閑紘子・佐藤修

小3日本語授業開始

2015年度の当欄にてお伝えしたとおり、2016年9月の新学期から、小学3年生を対象とした日本語教育が開始されます。ベトナム国内での小学校からの外国語教育は、英語に次いで日本語が2言語目となります。ベトナム、日本双方からの教科書作成メンバーが検討を重ねてきた教科書は現在、教育訓練省の審査を受けるための確認作業を進めているところです。

初等教育段階における第一外国語としての日本語教育の導入は、東南アジアでは初めてとなりますし、最終的にはベトナム全土に実施校を広げていく計画なので、各方面からの期待も高いプロジェクトとなっています。しかし、教育現場ではまず、小さくとも確実に成果を上げること、そしてなにより、「教師が笑顔をたたえつつ、小学生が楽しく学ぶことができるような授業」を目指していきたいと考えています。

もちろん今後も、教員をどう確保していくかなど解決しなければならない問題があって、気はまったく抜けません。しかし、計画どおり日本語授業が開講できるよう尽力してくださった、ベトナム教育訓練省の刷新プロジェクト委員の方々や、在ベトナム日本大使館広報文化班の皆様はじめ関係各位の思いにも応えられるよう、ベトナム日本文化交流センター派遣専門家も引き続き、ベトナム側のメンバーとともに全力で取り組んでいこうと思います。

日越の心をつなぐ“日本語パートナーズ”の活躍

ベトナムでは2014年から派遣が始まった“日本語パートナーズ”(以下、NP)事業ですが、今年で2期目が終了しました。1期は10名、2期は12名のNPがベトナム各地に派遣されていました。現在ベトナムには中学校、高校合わせて約50の学校で日本語が学ばれています。ですので、NP一人当たり平均3-4校の学校を掛け持ち、巡回していました。2016年8月着任の3期からは同一の学校における活動時間を増やし、中高生とより交流を深めてもらおうと27名のNP派遣を予定しています。今後もNP活動が円滑に行えるよう教授法面を中心に様々なサポートを続けていきます。

では、ここで日越の心をつなぐNP活動を1つ紹介します。

「日本の歌」練習風景の画像
「日本の歌」練習風景

この活動は、中高で行われた文化活動で、テーマは「日本の歌」です。

中学の低学年には「ドラえもん」、中学の高学年から高校生には「四季の歌」を紹介しました。「ドラえもん」は子供たちがメロディーを知っているので、すぐ覚えて歌い出しました。「四季の歌」は春夏などの言葉で日本の季節の風景を、そして父母など家族の言葉で日本人の家族への想いなどを伝えるいい機会となったようです。またメロディーが繰り返されるため、覚えやすかったようです。歌の内容については、ベトナム人日本語教師が説明をする形で進められました。

活動後、NPにどんな点に魅力を感じるか聞いたところ「とても歓迎されることです。例えば歌手のようにサインを求められることがあるんです。」「日本に対して強い関心があり、私がする文化紹介を食い入るように見てくれるんです。」「外国人である自分が廊下などを歩いるだけで、集まってきます。日本にいるとなかなか若者と交流する機会はないので、私自身おおいに若返ります。」などの声が上がりました。

※“日本語パートナーズ”事業とは、幅広い世代の人材を ASEAN 諸国の主として中等教育機関に派遣し、現地日本語教師と 学習者の日本語学習の「パートナー」として、授業のアシスタントや会話の相手役と いった活動をするとともに、教室内外での日本語・日本文化紹介活動等を行い、ASEAN 諸国の日本語教育を支援する事業です。同時に、“日本語パートナーズ”自身も現地の言語や文化についての学びを深め、ASEAN諸国と日本の架け橋となることを目標とします。

受講生の心に響く授業を…(ハノイJF講座)

JF日本語教育スタンダード」の考え方を具体化するため、ハノイのJF講座では、『まるごと―日本のことばと文化―』を使用した日本語講座が通年で開かれており、日本文化をテーマとした文化体験型日本語講座(以下、文化講座)も年に5回程度開かれています。日本への関心が高まるベトナムでは、どちらの講座も非常に人気が高く、「もっとたくさん日本語講座/文化講座を開いてほしい!」という声も多く聞かれます。

ハノイの日本語講座は4年前に始まりましたが、最近は新しいコースへの参加希望者から「JFの日本語の授業はとてもいいと聞いた」「他とは違うテキスト/方法での授業をぜひ体験したい」と聞くことも多くなりました。そのような声を聞くたびに、JF講座の存在や特徴を知る人が広がっていることを実感しつつ、今後も多くの方の心を動かせるような講座を目指して、日本語学習への気持ちがより高まるような刺激と活気に溢れた学習の場を提供したいという想いを強くしています。

2016年5月に開かれた「いけばな」をテーマにした文化講座の様子の画像
2016年5月に開かれた「いけばな」をテーマにした文化講座

一方、文化講座の方は通常1回が2.5時間程度という単発の講座のため、限られた時間の中でいかにテーマとなる文化を深く感じてもらえるかがカギとなります。例えば、日本から講師を招聘して行った「いけばな」の講座では、基礎を学び、体験するということだけでなく、講師を通していけばなの心を感じたり、全体の流れの中で「花はいけた人の心を映し出す」ということを感じてもらえるようなプログラム作りを意識しました。このように文化講座ではいつも受講生に伝えたい/感じてほしいメッセージを設定していますが、今後もそのようなメッセージをしっかりと受講生の心に届けられるよう、ベトナムの皆さんの心に響く講座を企画していきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。
日本語教育支援事業で力を入れているのが、日本とベトナム両政府の協力による「ベトナム外国語教育刷新プロジェクト2020」であり、小中高のカリキュラム・教科書作成、教師研修を行っている。また「中等学校日本語導入プロジェクト」では、教師向け研修の実施、巡回指導などを行っている。
さらに、高等教育機関や民間日本語学校に対する日本語教育支援も積極的に展開しており、その一環として現職教師対象の講座を開講している。
また一般人対象のJFスタンダード準拠日本語講座も開講している。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:5名、指導助手:3名
(うちホーチミン市:専門家2名、フエ市:専門家1名、ダナン市:指導助手1名派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
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