世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ホーチミンだより

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ホーチミン)
中尾菜穂・新井潤

「参加者主体」の教師研修、継続中

ベトナム南部の中等教育機関における日本語教育支援も、今年で16年目を迎えます。現在、ホーチミン市・ビンズオン省・バリアブンタウ省において、22の中学校と高校の生徒たちが第一外国語または第二外国語として日本語科目を履修しています。そんな生徒たちに、より主体性を持って日本語を学んでもらうための「学習者中心」の授業を目指した教師研修も、もうじき2年目が終わろうとしています。

なぜ「学習者中心」なのか、「学習者中心」を通してどんな生徒を育てたいのか、生徒にどんな顔で授業に取り組んでもらいたいのかを考えるところから始まった全国研修、その後の研究授業、合同研修を通して、南部のベトナム人教師たちの様子も変わってきています。 例えば2018年度のホーチミン市では、教師同士のカリキュラム相談や、先輩教師からの教授法講座を中心とした教師主体の勉強会が約20回開かれました。南部全体の教師が集まる合同研修でも、今年は参加教師全員がそれぞれの授業で実践した活動を共有し、改善方法や応用方法について活発な意見交換を行いました。経験豊富な先輩教師からはもちろん、若手教師からも堂々と活動紹介ができ、またお互いの意見に耳を傾けられるようになったことは、教師全体の大きな成長だと感じています。

「ファシリテーター」への挑戦

ベトナムでは中等教育機関の学習者支援の一環として、2013年から「中学生日本語キャンプ」を実施しています。これは、全国の支援対象校から生徒と教師が参加し、日本語を使った活動を通して生徒同士の交流をはかり、日本語学習へのモチベーションを高めることを目的とした2泊3日のイベントです。

6回目となった今年は、その「中学生日本語キャンプ」においても、ベトナム人教師には大きな挑戦がありました。今回はじめて、生徒の活動を担当する教師は「先生」ではなく、「ファシリテーター」として参加したことです。

中学生日本語キャンプで生徒たちが考えている様子
生徒と一緒にたくさん考えました

キャンプの活動中、ファシリテーターの教師たちは、生徒自身が考え、協力しながら課題を達成するために、正しい方法や答えを教えるのではなく、生徒を見守り、手伝うことを目指して奮闘しました。「学習者中心」の実現のためには、生徒だけでなく教師も、たとえうまくいかなくてもまずは自ら挑戦すること、そこから自分なりの学びを得て次の挑戦へつなげることが大切です。生徒の挑戦を支援するために、教師たちの挑戦も続いていきます。

そして、これまでの15年、代々の専門家から受け取ってきた知識や技能を、これからは教師同士でも共有し、発展させていけるようになるために、専門家自身も「教える」存在から、教師自身による学びを引き出すファシリテーターとしての存在へと変化していくことーーーこれが私たちの今後の課題であり、求められる挑戦ではないかと思います。

JF講座

JF講座は『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)のクラスです。入門(A1)から中級2(B1)までのクラスがあります。各クラス10名前後で、社会人中心のクラスです。各トピックの内容を練習して、実際に外で使ってみるということを目標に学習を進めています。

2018年から2019年にかけて入門(A1)と初級1(A2-1)のベトナム語版が出版されたので、ベトナム人学習者にとって、もっと身近な教材になりました。しかし、まだ『まるごと』を手に取ったことがない、使ったことがないという先生たちもたくさんいます。JF講座では、そういった先生たちを対象に、説明会や勉強会も実施しています。模擬授業や授業見学を通して、今まで使ってきた教材との違いを確認していきます。そして、実際に自分たちの現場でどのように活用できるか話し合います。

少しずつですが、ホーチミンでも『まるごと』の輪がひろがっています。

『まるごと』入門クラスの生徒の写真
『まるごと』入門(A1)クラス

文化講座

日本に興味があるという地域の人々を対象に日本文化講座も実施しています。2018年度は、「けん玉」と「ひな祭り(ひな人形)」をテーマに実施しました。少しでも日本のことを知ってもらえればと思い、対象を日本語学習者に限定しないで、日本に興味がある人すべてを対象にしています。

けん玉もひな人形も見るだけでなく、実際に手に取ってもらえるようにしました。けん玉の参加者は、1時間ほどみっちり練習して、それぞれ2つ、3つの技を習得しました。ひな人形は、まず各段の配置をグループごとに予測して完成予想図を作成しました。それから、各人形の役割を説明し、実際にグループで担当した段の飾り付けしていきました。

ふだん、なかなか手にすることができなかったものを手に取ることができて、楽しかったという感想が多く聞かれました。

さて、次はなにを手に取ってもらおうかな。広くアイデアを募集しようと思います!

ずらりと並んだけん玉の写真
ずらりと並んだけん玉

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。
ベトナム政府が推進する「国家外国語プロジェクト」のもとで、初等・中等教育の日本語教育の整備・発展に関する日越政府間の協力が合意されており、当センターは初等・中等教育のカリキュラム・教科書作成、教師研修等に協力している。
また、専門家派遣地を中心に中等日本語教師向け研修、巡回指導等を実施するとともに、新規日本語教師希望者、民間や高等も含む現職教師を対象とした新規日本語教師育成特別強化事業を展開している。
加えて、国際交流基金アジアセンターが実施している“日本語パートナーズ”派遣事業によって、全国の日本語教育を導入している初等・中等学校の大半において、様々な世代の日本人がベトナム人教師のアシスタントとして活動し、生徒に直接に日本人と話す機会、日本文化に触れる機会を作っている。
ハノイ、ホーチミンでは、一般人対象のJFスタンダード準拠日本語講座を開講し、『まるごと』各レベルのベトナム語版を順次出版している。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:7名、指導助手:1名(うちホーチミン市:専門家2名、ダナン市:専門家1名派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
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