世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)拡大が続く日本語教育事業

ベトナム日本文化交流センター
小川京子、大塚武司、遠藤かおり、雄谷進、武田素子

今、日本の報道で「ベトナム」という名前を見聞きしない日はないのではないでしょうか。それほどベトナムは日本にとって重要なパートナー国となっています。

ベトナムの日本語教育は多様化しており、それに伴いベトナム日本文化交流センター(以下、JFVN)の日本語教育支援も年々広がっています。今回は2018年度より始まった二つの大きな事業についてご紹介します。

1.新規日本語教師育成特別強化事業

2018年度から始まった新規日本語教師育成特別強化事業では、ベトナムの日本語教師不足という「数」の問題、教授法レベルの向上という「質」の問題に取り組むことを目的としています。「数」の問題への対応として、昨年12月から今年4月にかけて週末の土日、5か月間の新規日本語教師育成講座を実施しました。日本語教授法の基礎知識(120時間)と教育実習(80時間)合計200時間の講座で、書類選考、口頭試験を経て19名を選抜しました。

強調したのは「常に成長を続けること(情報収集と自己研鑽)」です。教育は常に変化を続けるので、教師自らが学び続ける必要があります。内容は日本語を教える基本的な考え方、『まるごと―日本のことばと文化―』(以下『まるごと』)『みんなの日本語』を使った体験授業、4技能の指導法、教材分析、ICT活用、国際交流基金(以下JF)日本語教育スタンダードの理解などです。教材にはJF『日本語教授法シリーズ』を使用し、より理解を深められように考えました。講師はJFVNの日本語専門家のほか、共催・協力機関であるハノイ国家大学外国語大学とハノイ大学のベトナム人講師が担当しました。さらに、受講生への情報提供として、各日本語教育機関の方に機関の概要や教師募集状況について話していただきました。

ベトナム版『まるごと入門(A1)(かつどう、りかい)』を使った「教育実習」には学習者役のボランティアとして日本語未習者を公募し、わずか20時間の学習でしたが、最終日には簡単な日本語でやり取りできるようになり、本講座受講生にとってそれがとてもうれしかったようです。修了式では受講生から「次はもっと上のレベルの講座に参加したい」「日本語教師とは単に日本語を教えるだけではないことがよくわかった」「日本語教師であることに誇りを持てるようになった」というような声がありました。今後第2回、3回と続けていきますが、一人でも多くのベトナム人日本語教師を輩出できるように尽力していきたいと思います。

教育実習の写真
新規日本語教師育成講座「教育実習」の様子

2.『まるごと』(ベトナム版)出版事業 -JF講座ハノイ

ベトナムではコミュニケーションよりも言語形式に重きが置かれた授業が、まだまだ多いように感じます。このような状況を少しでも変えるには、相互理解につながる日本語教育の実現を理念とした『まるごと』の現地出版が必要だと考え、私たちJF講座チームが中心となり、2018年8月に「入門(A1)」を、続く2019年4月に「初級1(A2)」をベトナムで出版しました。そして、2019年秋頃には「初級2(A2)」を出版する予定で準備を進めています。

しかし、出版と同時に必要なのは、『まるごと』の理念や特徴、使い方を、日本語教師を始めとする関係者にしっかり伝えることです。『まるごと』を使っていても、教え方が今までと同じような言語形式を中心とした授業では意味がありません。そこで、私たちはベトナム各地で『まるごと』説明会を実施してきました。

説明会は、『まるごと』の概要説明、模擬授業、質疑応答といった内容で行っており、特にJF講座常勤講師が担当する模擬授業は評価が高く、毎回盛り上がります。参加者からは「『まるごと』の授業の流れがイメージできた」「コミュニケーションを中心とした授業の様子がよくわかった」「自分の授業でも応用できそうな活動のヒントがたくさんあった」などの声が挙がります。

このような活動を通し、ベトナムにおける『まるごと』の認知度もだいぶ向上してきたようです。また、日本語教育機関から個別に「『まるごと』を導入したいので相談にのってほしい」といった連絡を受けるようにもなり、個々の教育現場に合わせたご提案をしています。

今後も、『まるごと』の出版・普及活動を続けていきますが、私たちJF講座チームが大切にしたいのは、『まるごと』を押し付けるのではなく、日本語教師や関係者のみなさまが、『まるごと』の特徴を理解した上で、最終的には自分たちにとってベストな教材を選択できるようになることだと思っています。

このほかにもJFVNでは多岐にわたる日本語教育事業を展開しています。他地域の専門家や過去の報告、JFVNのニューズレター『にほんご人お~い!』などをご参照ください。

『まるごと』説明会の写真
『まるごと』説明会の様子

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。
ベトナム政府が推進する「国家外国語プロジェクト」のもとで、初等・中等教育の日本語教育の整備・発展に関する日越政府間の協力が合意されており、当センターは初等・中等教育のカリキュラム・教科書作成、教師研修等に協力している。
また、専門家派遣地を中心に中等日本語教師向け研修、巡回指導等を実施するとともに、新規日本語教師希望者、民間や高等も含む現職教師を対象とした新規日本語教師育成特別強化事業を展開している。
加えて、国際交流基金アジアセンターが実施している“日本語パートナーズ”派遣事業によって、全国の日本語教育を導入している初等・中等学校の大半において、様々な世代の日本人がベトナム人教師のアシスタントとして活動し、生徒に直接に日本人と話す機会、日本文化に触れる機会を作っている。
ハノイ、ホーチミンでは、一般人対象のJFスタンダード準拠日本語講座を開講し、『まるごと』各レベルのベトナム語版を順次出版している。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:7名、指導助手:1名(うちホーチミン市:専門家2名、ダナン市:専門家1名派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年

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