世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語教育の質の向上を目指した取り組み

バクー国立大学
村木佳子

「どうして大学で日本語を専攻しようと思ったんですか。」アゼルバイジャンで日本語を学び始めた学生たちに、よくこんな質問をする。その答えは、西洋言語とは違って学んでいる人が少ない珍しい言語への興味だとか、武道や折り紙など日本文化への興味がきっかけであったりする。その他によく聞かれるのが、高校時代の恩師からの勧めで興味を持ち始め、専攻することにしたという話である。これを聞くたび、日本に関心を持って教え子に勧めてくれた先生方に感謝するとともに、教師が学生に与える影響の強さを感じずにはいられない。

私が働いているバクー国立大学は日本語講座が開講されて15年、アゼルバイジャンの日本語教育の中心としてこれまで多くの卒業生を輩出しており、その多くがさまざまなところで活躍している。その中の1人に、私の同僚として教壇に立っている第一期生がいる。講座の歴史を知っており、いつも日本語教育の質の向上を考えている同僚とともに、この2年間、本講座のコース改善を行ってきた。ここでは、その中からから2つをご紹介する。

<漢字指導のカリキュラムと教材作成>

これまで担当教師によって進度にばらつきが出てきてしまっていた漢字指導に対して、教材と進度の見直しを行った。また、漢字指導の効果的な教授法について考えた結果、初級で学ぶ漢字語いのフラッシュカードを作り、それを使ってより活動的な授業を行うようにした。コンピュータとインターネットがあればもっと別の教材を作る選択肢もあるのにと思いながらの選択だったが、これが学生にも好評で、小テストの前などには学生から進んで楽しんで復習する様子が見られた。

<アゼルバイジャン語訳つきの語いリスト作成プロジェクト>

アゼルバイジャンの教育課程では、教授言語をアゼルバイジャン語とする「アゼリ語セクター」と、ロシア語とする「ロシア語セクター」の大きく2つに別れており、本学では各専攻に対して年ごとにセクターが指定される。2009年の新教育法によって教育言語はアゼルバイジャン語とすると規定された後、現在ではアゼリ語強化政策が進んでおり、ロシア語セクターよりもアゼリ語セクターが増加傾向にある。この流れや近年の学生の変化に対応するために、当講座でもアゼルバイジャン語訳つきの語いリスト作成プロジェクトを始めた。現在、1年生から3年生までに使用する教材分の作業がほぼ終わり、これから最後の中上級教材に取りかかるところである。今まで新出語いはロシア語訳や英語訳を参考に、教師が口頭でアゼルバイジャン語訳を教えていたが、この教材を使うことで学生がより学びやすく、教師がより教えやすくなってきている。

これらの取り組みについては、2014年3月に本学で行われた第3回コーカサス日本語教育セミナーにおいて実践報告も行った。教師、そして研究者として現場を支える同僚にとって、この発表の場と参加者との意見交換は大変貴重な機会になったようである。開講当時から今まで、教師の人材不足に悩む現場で、かつ学習者用のアゼルバイジャン語・日本語の辞書や文法書がない状況の中、現場に合わせた使いやすい教材をそろえていくことが求められている。現状毎日の授業や教務の合間に時間を捻出し、これらのプロジェクトに協力してくれている同僚たちとともに、これからもアゼルバイジャンにおける日本語教育の質の向上を目指した試行錯誤は続いていく。

バクー国立大学の授業風景の写真
バクー国立大学の授業風景

セミナーでの実践の写真
セミナーでの実践

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