世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)アゼルバイジャンは教育の過渡期

バクー国立大学
須藤展啓

アゼルバイジャンの教育制度には、アゼルバイジャン語で教育を受ける「アゼルバイジャン語セクター」とロシア語で教育を受ける「ロシア語セクター」という2つのセクションがあります。

学校ごとの制度や大学の学部にもよるようですが、全体的な趨勢として「ロシア語からアゼルバイジャン語へ」という教育環境作りが推し進められています。アゼルバイジャンですので、アゼルバイジャン語での教育が拡充されるのは素晴らしいことです。ですが、その過渡期にある教育現場では「教育リソースの不足」という問題が起こります。

一人の教師の立場で考えた場合「私はロシア語セクターを卒業して教師になり、去年までロシア語で国際関係の授業をしていたのですが、今年からアゼルバイジャン語で授業をしなければ…」ということが現場で起こっているわけです。ロシア語で習い、ロシア語でしていた授業をアゼルバイジャン語にする場合、教科書・配布資料・教師の指示言語など、様々な変化に対応しなければなりません。

そしてそれは、日本語の授業も例外ではありません。昔ロシア語セクターで日本語の授業を受けて日本語教師になった現地の先生が、今アゼルバイジャン語セクターの学生に日本語の授業をする場合、自分が習ってきた文法や語彙の説明では今の学生には伝わりません。となると、アゼルバイジャン語でどう説明すれば通じるのかということが問題になってきます。また、教材の語彙リストや文法翻訳、辞書などもロシア語版からアゼルバイジャン語版に作り替える必要が出てきます。

現在、アゼルバイジャンでは2つの大学で日本語教育が行われていますが、日本語学習者はアゼルバイジャン語セクターの学生たちになりました。一昔前はロシア語セクターの学生のみが勉強できたという時代もあったそうなので、かなり大きな変化が起きているといえます。

日本語の先生方は、ロシア語が強い先生、アゼルバイジャン語が強い先生、ロシア語のみわかる先生、アゼルバイジャン語のみわかる先生など、その言語的背景は様々です。そのような中で私は、先生や卒業生たちの力も借りつつ少しずつ協力して授業時間以外に日本語副教材の作成を行っています。先生方が夜遅くまで共有ファイルの教材がカタカタと編集されているのを見ていると、パソコンの前で思わず頭が下がります。

そんな中で嬉しく思うのは、「教材の翻訳改定だけではなく、他にこんな教材も作りましょう!」というような副教材のアイディアが先生たちから少しずつ出てくるようになったことです。そのような意見を活かして、役に立つ教材を今後も少しずつ作っていければと思います。

文化祭のケーキ。日本とアゼルバイジャンのシンボルがのっている、文化祭のケーキの画像
文化祭のケーキ。日本とアゼルバイジャンのシンボルがのっています

日本文化祭、日本語弁論大会、日本語教育セミナーなどの華やかなイベント運営もモチベーション維持・向上のために大事ですが、上記のような、日々の細かい仕事が大学のみならずアゼルバイジャン全体の日本語教育の底上げに繋がっていくと思います。

今後のアゼルバイジャン全体の日本語教育の課題としては、日本語専攻学生以外のサポートが挙げられます。前述の通り、現在はアゼルバイジャン語セクターの学生のみが日本語を勉強できる状況です。つまり「学校でロシア語セクターの教育を受けたけど、大学で日本語の勉強がしたい」という学生への門戸が開かれていない状況と言えます。また言語による分類だけではなく「日本語がない大学に入ったけど少し日本語の勉強をしている」「社会人だけど日本語をやってみたい」という声も少なからず聞きますが、具体的な目標がないため、いつの間にか辞めていく人が多いというのが現状です。

日本大使館の広報文化室をお借りして日本人と会話する「日本語会話クラブ」は日本語専攻学生のみならず個人学習者にも少しずつ門戸を開くようにしていますが、それはあくまで学習成果の発露の場であり、それ以外にも誰でも日本語が勉強できるようなチャンスや場所があったらと思いますし、少なくとも腕試しの機会が必要です。

今年から新たにバクーで実施する予定の「日本語能力試験」が彼らの目標の一つになっていき、大学生はもちろん、日本語専攻学生以外にもさらに日本語が普及していけばと思います。

文化祭イベントの立て看板の両脇に2人の学生が立っている画像
イベントを行わせることで学生の自主性を育てます

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