世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)専門家の活動とブルガリアにおける日本文化の広がり

ソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学
山口覚

2018年3月にブルガリアに赴任した。豊かな自然に包まれた美しい国である。ブルガリアと聞いて日本人が思い浮かべるのは、まずヨーグルト、次にバラであろうか。その他には、日本国内ではあまり知られていないかもしれないが、この国には長年にわたる両国の交流の成果としての日本語や日本の文化の根付きがある。

ソフィア大学玄関口の写真
ソフィア大学の学生が日本語を教えている学校の玄関口

ブルガリアには日本マニアがいる

私の配属先はブルガリアの首都ソフィアにあるソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学(以下、ソフィア大学)である。ブルガリアの日本語教育は1968年にこの大学で始まった。それからほぼ50年の歳月を経た現在、ブルガリアには日本に関心を寄せる人が多く存在する。日本語は5つの高等教育機関、6つの初中等教育機関、その他プライベートスクールで教えられている。柔道、空手、剣道などの武術の道場も数多く存在する。相撲の琴欧洲と碧山はブルガリアの出身である。茶道、生け花、俳句などのスクールやクラブもある。文化祭などのイベントでは日本のアニメや音楽などのポップカルチャーも広く楽しまれている。

ヴェルシェッツ学会の発表風景の写真
ヴェルシェッツ学会“Promoting Japan2018” 発表風景

赴任してまもなく、私は国際交流基金(以下、JF)の支援でソフィア大学が企画開催した学会“Promoting Japan2018”に参加する機会を得た。学会ではブルガリア国内外の日本研究者らが文学、翻訳、教育法、温泉文化など、ブルガリアに広がる日本文化の紹介など幅広い分野の発表が行われた。学会ではヴェリコタルノヴォ大学の先生の一人はブルガリア全土に広がる日本に関連する活動について紹介され、ソフィア大学の先生の一人は日本の温泉文化について発表し、それぞれ博学を披露された。遠方の地で目の当たりにする日本マニアの情熱の結実は目にまぶしい。ちなみに学会はブルガリアの温泉地のひとつであるヴェルシェッツで行われた。ブルガリアは温泉大国であり、映画「テルマエロマエ」のロケ地にもなっている。

JF派遣者の仕事

JFのブルガリアの日本語専門家派遣は1981年に始まった。現在ブルガリアへはJFから日本語専門家(以下、JF専門家)1名と日本語指導助手(以下、JF指導助手)1名が派遣されている。(残念ながらJF指導助手の派遣は2019年2月を以て終了している。)

2018年現在のJF専門家とJF指導助手の仕事は、ソフィア大学の1年生から4年生までの日本語の授業を行うこと、ブルガリア日本語弁論大会のソフィア大学からの出場者への弁論指導と大会の運営の補助、各種文化イベントへの協力などである。

春は弁論大会

春は花見、弁論大会、文化祭などのイベントがもりだくさんである。現地で日本語教育に取り組んでいるブルガリア人、「友の会」、日本大使館などの多くの人の協力で運営が行われている。JF専門家とJF指導助手もそれに含まれる。

2018年4月に行われた弁論大会は、高等教育から2校、初中等教育から3校、その他独学者の参加で行われた。中級の部で優勝したヴェリコタルノヴォ大学の学生さんは「日本が私を救ってくれた」と自身の体験に基づく日本への愛を語り、初級の部で優勝したソフィア大学の学生さんは「人間は不完全なものであるがお互いに補い合うことで完全になれるのかもしれない」と多様性を認め合うことの重要さを訴えた。高校生や独学者の弁論も考えさせられる言葉に溢れていた。専門家や指導助手がその他のイベントに参加した際に、来場の人に「あの学校の発表者が言った言葉が今でも印象に残っている」などと言われることがある。文化交流イベントや言語教育を行うのは、人と人のつながりを作ることなのだ。JFの業務を通じて、そのような取り組みの一端に関わることができるのは非常な光栄であると感じる瞬間である。

夏は日本語キャンプ

夏はキャンプ。ブルガリアで毎年行われている日本語教育関連の大きなイベントの一つが「バルカン半島日本語サマーキャンプ」だ。キャンプはJFの支援で、ソフィア大学が運営の主体となり2012年から毎年続いている。参加者はブルガリアだけでなく近隣国からも集まる。2018年のキャンプのテーマは「ユーモア」。参加の学生たちはブルガリア人教師らの指導のもと落語の実演を行った。ブルガリア人の参観客らは「く」の字に折れて笑っていた。

キャンプでは文化体験として剣道の師範であるソフィア大学の先生による剣道の演武と指導が行われた。ホテルの支配人には日本人の友人がおられ、御子息も日本武術を習っているとのこと。親子で熱心に見学されていた。キャンプが行われた施設はなかなかの山奥にある。日本文化はこのようなところにまで伝播しているのかと驚く。

秋はセミナー

秋には「ブルガリア日本語・日本文化教育セミナー」が行われている。こちらも支援はJFで、運営のほうはヴェリコタルノヴォ大学による。2018年度のテーマは「ブルガリアで行われる日本文化・日本語イベントと学習者の動機付け」。JF専門家は基調講演者として、文化活動を行う意義について話をさせていただいた。セミナーに参加したブルガリア人教師たちはどの人も日本語教育への情熱に溢れ、学習者たちが自身と同じように日本語に関わる喜びを感じられるよう願っている人たちばかりである。ヴァルナから参加された先生はセミナー当日は少し風邪気味だとおっしゃっていた。自身の教室には200人くらいの学習者がいて一人で日本語を教えていらっしゃるとのことだった。遠路はるばるセミナー参加されたことに頭が下がる。

ブルガリアには多くの日本ファンが存在する。そのような人たちの情熱で日本語教育が成り立っている。この国の日本への愛が日本国内でもっと広く知られてほしい。そして両国の交流がいつまでも続くことを願う。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Sofia University "St. Kliment Ohridski"
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学日本学専攻はブルガリアにおける日本語教育の最高峰の機関である。日本語専門家は週計6コマの授業を担当し、学習者の更なる成長を目指すとともに、チームティーチングや勉強会により、ネイティブ教師の日本語力や教授力の向上を目指す。そのほか、カリキュラム・教材に関する助言、日本語教育ネットワーク構築のための支援も行う。
所在地 CIEK, 79 Todor Alexandrov Blvd, Sofia 1303, Bulgaria
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名、指導助手:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
古典及び現代言語学部、日本学科
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 一般講座:1968年 専攻:1990年
  国際交流基金からの派遣開始年 1981年
 
コース種別
  専攻
 
現地(日本語)教授スタッフ
  常勤7名(内、邦人0名)、非常勤8名(内、邦人2名)、基金派遣専門家1名
学生の履修状況
  履修者の内訳 1年生から4年生まで各15名から40名程度(留学者除く)
  学習の主な動機 日本語や日本文化に対する好奇心、日本への留学
  卒業後の主な進路 日本・ブルガリア両大使館、ブルガリア外務省、一般企業、進学
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2~N1程度
  日本への留学人数 10名前後

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