世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)チェコでの日本語専門家業務とは −その1、カレル大学での日本語教育支援について−

カレル大学
川島眞紀子

国際交流基金(以下、基金)からチェコのカレル大学へ日本語専門家(以下、専門家)の派遣が始まったのは1991年ですから、もうかれこれ28年になります。

その間、ビロード革命によるスロバキアとの分離、EU加盟やボローニャ宣言による学制の改編など、学生の学習に影響を与える歴史的なできごとも経てきました。現在、私の専門家としての業務は大きく分けて3つあります。まず今回は、最も大切な業務であるカレル大学の日本語教育支援についてご紹介したいと思います。

持続可能な活動を模索して

カレル大学の日本語教育は、チェコ人の教員が主にチェコ語で文法やことばを説明します。そして、会話と作文で日本語の運用や創出能力を高めるのが、私の担当です。このような連携によって学生の能力向上を効率化したのは、カレル大学の教授陣とこれまでの専門家との協働があったからこそでした。

日本人観光客向けにウォーキングツアーを検証する様子
ウォーキングツアー検証中

日本学科では日本語だけを勉強しているわけではありません。日本史学と日本文学に社会学や日本思想、言語学などが加わります。これらは専門科目ですから、チェコ人の教員がチェコ語で講義を行っています。

カレル大学哲学部にはキャンパスがなく、市内には専攻によって校舎が点在しています。私が勤務している建物はちょうど観光地にあり、構内から一歩外に出れば、観光客の波に揉まれることになります。私はこの環境を目にして、かつて学生の学習成果を学外に向けて発信していた専門家を思い出しました。ブログを立ち上げ、チェコの文化を日本語で紹介していたのです。ところが、残念なことに、そのブログは2016年の更新を最後に、あまり機能していないように見えました。

今学期、修士課程の学生たちは、日本人観光客向けにウォーキングツアーの作成に取り組み始めました。学生たちはガイドブックには載っていないプラハの魅力を伝えようとしています。自分だけのとっておきの場所であったり、チェコの人々にはよく知られていても、日本にはあまり紹介されていない場所です。ちょうどこれからクラスの学生たちと各自が作成したウォーキングルートの検証を行う予定ですが、私はいち日本人観光客という視点からもこの活動が完成し、ブログが復活できたらいいなと考えています。

活動をアップデートしたい

先に述べた通り、チェコへの専門家派遣、それ自体は28年も続いています。しかし、専門家の人材はほぼ定期的に交代するため、案外、活動の持続が容易ではありません。一方で、時代の流れに対応する工夫と柔軟さも求められるのです。

カレル大最古の建築、カロリヌム内部の写真
カレル大最古の建築(カロリヌム)内部

カレル大学には、年に1度プラハ日本人学校との交流会があります。日本人学校というのは、日本国内と同等の教育を実施している全日制学校で、チェコ国内には小・中学校があります。

この交流会は、2018年10月カレル大に着任して初めての大きな活動でしたから、私は張り切りました。実は、カレル大学の学生には、交流会に際しPTAの皆さんとのやり取りを通じて敬語の運用を学ぶ、という目標があるのですが、自分が主導的に振る舞った結果、それを変容してしまったことに気づきました。日本語教育の一環なのですから、指導する側の私はあくまでも縁の下の力持ちであるべきだったのです。

もし、仮に私が来年の交流会を中止しますと言えば、簡単に途絶えてしまうでしょう。学生にしてみれば、先生にやらされているだけだからです。楽しみにしてくださる日本人学校の皆さんには本当に申し訳ありません。私は非常に反省しました。そこで、学生たちが自主的に活動できるよう、次回は第一回目の打ち合わせから学生にも同席してもらおうと思っています。日頃の日本語学習を実践する場になるのですから、自らが能動的に活躍し、やり遂げてこそ、活動の醍醐味がわかるのです。そのあと彼らが日本に留学することになったとしても、プラハで今、チャレンジできることはあるのです。こうした多様な経験は学生の学習動機の維持につながるだけではありません。私自身にとっても、先輩専門家の活動をアップデートすることは非常に有意義であると考えています。何かを中断せずに長続きさせること、それが「持続」ということばの定義ですが、実は、同じ事を続けているだけでは意味がなく、変化に適応しながらの活動の継承が必要であるはずです。それが可能になるよう、日々私も楽しみながら学生とともに学び、成長していきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Charles University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
チェコにおいて日本語・日本研究専攻の学科を持つ3大学のうちの一つであり、同国の日本研究・日本語教育の中心的な役割を担っている。研究者養成を目標とし、日本語学・社会・経済・歴史・文学・思想史等についての授業が行われており、学生は卒業論文のテーマもこれらから選択する。日本語専門家は、日本語教授、カリキュラム・教材作成への助言を行うほか、日本語教師会を始め、他の教育機関の日本語教育支援や日本語弁論大会等日本語教育関連行事への協力、また日本語教育関係者のネットワーク作りを業務とする。
所在地 Nám. Jana Palacha 2, 116 38 Praha 1, Czech Republic
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
カレル大学哲学部東アジア研究学科日本学専攻(通称 日本研究学科)
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 1947年
  国際交流基金からの派遣開始年 1991年
 
コース種別
  専攻
 
現地(日本語)教授スタッフ
  常勤5名(内、邦人0名)、非常勤0名(内、邦人0名)、基金派遣専門家1名
学生の履修状況
  履修者の内訳 学士(1年18、2年11、3年13)、修士(6)、博士(4)
  学習の主な動機 日本語、文学・歴史・日本社会など日本文化への関心、留学・就職のため
  卒業後の主な進路 日系企業就職、通訳・翻訳、研究留学、日本語教師など
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2からN1程度
  日本への留学人数 10名弱

ページトップへ戻る