世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ICTと日本語教育の連携を進めるセンター

ブダペスト日本文化センター
村上吉文、三森優

漢字学習アプリの画面の写真
漢字学習アプリの画面。
点数とともに「将軍」までランクアップします

国際交流基金ブダペスト日本文化センター(以下、JFBP)には、日本語上級専門家(以下、上級専門家)が1名、日本語専門家(以下、専門家)が1名います。専門家はJFBPの日本語講座の運営と、ハンガリー国内の日本語教師の支援を行っています。上級専門家の仕事の中心はJFBPが管轄する中東欧の13か国の日本語の先生方の支援ですが、まだ赴任して半年しか経っていないこともあり、JFBPの日本語講座の授業も受け持っています。やはり地域ごとに教育という概念や教室文化などもずいぶん違いますので、これは非常にいい経験になっています。ハンガリー語話者のための日本語教科書『できる』(後述)に準拠した漢字学習アプリを開発してハンガリーの先生方と共有したりもしています。

ヨーロッパの教室に入ってみてひしひしと感じることは、情報通信技術、特にソーシャル・メディアを通して日本語学習者が日本人と直接コミュニケーションできるようになったことの効果です。各地のスピーチ・コンテストなどでも一斉授業で勉強をしている学習者を抑えて独学などで日本語を身につけた人が優勝する例が目立っており(ここ数か月でもハンガリー、チェコ、エジプトなど)、あらためてこれまでの教師の役割が問い直されています。上級専門家の役割としては管轄地域で日本語を教えていらっしゃる皆さんを対象に教授法などのセミナーを行うこともあるのですが、このところ情報通信技術に関連した内容にすることが要望されています。今後とも、あたらしい時代に即した日本語の教え方について、考え続けていきたいと思います。(村上)

現在のJFBP日本語講座(以下、講座)では、日本語を4技能全体的に学ぶ「総合コース」、少しだけ日本語を勉強して簡単なフレーズを使ってみる「短期コース」、「七夕」等日本文化を中心にそれに纏わる日本語をほんの少しだけ学ぶ「文化日本語コース」、中上級者を対象に日本文学や方言等、あるテーマで日本語のブラッシュアップを目指す「トピックコース」、総合コースで9月から学ぶために仮名を中心に練習する「総合コース準備コース」の、以上5コースを設置しています。

総合コースでは、2011年から『できる1』、2012年から『できる2』という新しい教科書を使い始めました。この教科書は「ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)」に準じて作成された教科書です。2013-14年度は、全6クラスのうち5クラスでこの教科書を使うようコースのカリキュラムを整備しました。しかし、新しい教科書のため、既存の教科書のように副教材が充実しているわけではありません。そのため、漢字教材は上級専門家に作成してもらったり、自作プリントを非常勤講師の先生方とDropboxで相互に共有したりしています。


iPadで日本語を学ぶ学生たちの写真
iPadで日本語を学ぶ学生たち

また、講座ではタブレット端末も授業で積極的に利用するようにしています。「準備コース」では、iPadアプリを利用しながら平仮名・片仮名を学習していますし、総合コースでも「Quizlet」というアプリを利用しながら授業を進める講師もいます。さらに現在は、タブレット端末の利用のみならず、上級専門家とJFBPのスタッフが「反転授業」のためのビデオを作成しており、ポートフォリオの整備とともに少しずつですが自律学習のための取り組みも進めているところです。  トピックコースでは、2013年11月、2012年に続き、落語家の柳家さん喬師匠、柳亭左龍師匠にお越しいただいて小噺を指導していただくなど、講座ならではの取り組みを実践しました。このように現在講座ではJF日本語教育スタンダードに掲げられている「課題遂行」、「異文化理解」、「自律学習」のためのコースを整備しつつ、多様な学習者のニーズに応えられるように取り組んでいます。

これからも内容の充実したコース運営ができるよう、講座運営に取り組もうと思っています。(三森)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Budapest
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブダペスト日本文化センターはハンガリー及び中東欧計13か国を活動範囲とする広域事務所として位置付けられており、日本語上級専門家と日本語専門家の2名が派遣されている。
業務内容は一般を対象とした日本語講座の運営のほか、ハンガリー国内外での勉強会・研修会などの企画・実施、日本語教育機関・教師への助言・支援、日本語教育関係者のネットワーキング、スピーチコンテスト等日本語関連行事への協力、日本語教育関連情報の収集と提供、機関訪問等。
所在地 1062 Budapest, Aradi u. 8-10. Hungary
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2000年
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