世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)中等教育での日本語教育開始と日本文化を通した日本語学習者拡大を目指して

カザフスタン日本人材開発センター
瀬川綾子

カザフスタンは中央アジアに位置し、1991年にソビエト連邦より独立した共和国です。国土面積は世界第9位を誇っていますが、その大部分は乾燥したステップで、人口は現在の首都アスタナと旧都アルマティに集中しています。国民はカザフ人をはじめ、様々な民族による多民族国家です。町を歩いていると、日本人のような顔立ちの人、モンゴルのお相撲さんのような人、ロシア系の人など、本当にたくさんの民族でできた国だと実感します。だから、日本人でもすぐに町に溶け込むことができ、外国人だからと言って目立つことはありません。

そんな中、私が所属するカザフスタン日本人材開発センター(以下KJC)では、JF講座として日本語講座を開講し、様々な文化紹介イベントも行っています。現在アルマティでは約110名、アスタナでは約60名の受講生が日本語を学びに集まって来ています。

中等教育機関への訪問

カザフスタンの学校は「シュコーラ」と呼ばれ、1年生から11年生までの11年間の一貫教育です。シュコーラはカザフ語で授業を行うカザフ語学校と、ロシア語で授業を行うロシア語学校の2種類があり、子供たちはシュコーラに入学するときにどちらかを選ばなければなりません。(進学の都合などにより途中で変更することも可能)私たち日本人にとっては不思議な感覚ですが、子供のころからカザフ語とロシア語の環境で多言語が特別ではない環境だからか、外国語を学ぶことも特別なことではなく、吸収力がとても高いと感じています。現在中等教育機関では日本語の授業は行われていませんが、科目としての開講を目指し定期的に学校訪問を行っています。学校訪問では日本文化をクイズ形式で紹介したり、日本語のミニ講座などを行ったりしています。私の想像以上に日本に興味を持ってくれていて、驚くような言葉を聞くこともあります。一番驚いたのは15歳くらいの生徒たちが「鎖国」という言葉を知っていたことです。

漢字クイズを行っている写真 学生たちが手を挙げている様子
白熱の漢字クイズ(学校訪問)

学校訪問に行くと、本当に多くの子供たちが日本に興味を持ち日本語を学びたいと思ってくれていることを感じます。そして、学校の先生方も日本語を学校の科目として取り入れたいと考えてくれていることが伝わってきます。日本語学習者の拡大のためには中等教育での科目化はとても重要な要素です。地道な活動が実を結んだのか、2018年春より2つの学校で日本語のパイロットコースが始まり、この9月から科目として実施される可能性が高まっています。この2校からさらに日本語が広がってくれることを期待しながら、今後もできるだけ多くの学校を訪問したいと思っています。

七夕イベント

日本語と日本文化をより多くの人に知ってもらうため、アルマティ市の中心にあるショッピングモールのフードコートで、七夕のイベントを行いました。ステージ上では七夕をイメージしたダンスや歌の披露、茶道のデモンストレーションなどを行いました。また、特設ブースでは折り紙や切り絵、書道、浴衣など体験型の文化紹介も行いました。2時間ほどの間に数百人の見物客が集まり、体験型ブースも大盛況でした。笹と短冊も用意し、思い思いの願い事も書いてもらいました。このイベントを通して、KJCでの文化講座への勧誘なども行い、秋に書道コースと茶道コースを実施しました。そこからさらに日本語学習へと繋がっていくことを期待しています。

学生たちが切り絵を体験している写真 詳細は以下
七夕特設ブースでの切り絵体験

ビジターセッションと文化体験

JF講座では、1回のプログラムで32回の授業を行っています。中間テスト終了のタイミングでは日本人のボランティアゲストを招いてビジターセッションを、最終日は各レベルに応じた文化体験を実施します。ビジターセッションでは、授業で取り上げられたテーマに沿ってプレゼンを用意し、ゲストの皆さんとテーマに沿って楽しく会話をしています。

文化体験は入門クラスでは書道、初級クラスでは折り紙や切り絵など、そして少しずつ日本語でできることが増えてくる初中級以上のクラスでは、日本料理の体験などもあります。人気なのはたこ焼きやすき焼きなどです。最初はスタッフが材料などを用意していましたが、今年のコースからは材料や作り方のメモを作り、自分たちで材料を揃えることにも挑戦させるようにしました。材料が余ってしまったり足りなくなったりと小さなトラブルもありますが、日本語の授業を通し自分たちで考え、計画をして実行するという、カザフスタンの人たちが少し苦手としている部分も学んでもらえたらと思っています。

カザフスタンでは、日本語や日本文化への興味が年々高まっています。KJCでの活動や中等教育支援を通し、日本ファンが今後さらに増えていくことを願っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Japan-Kazakhstan Center for Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
JICAとカザフスタン政府との協定により設立された機関で、日本語コース、ビジネスコース、相互理解の事業を行っている。2011年10月から、日本語はJF講座となり、2012年の2月から、アルマティでJFスタンダード準拠の日本語教育が始まる。同年9月からは首都のアスタナ分室でもJF講座が始まる。日本語専門家は、JF講座をはじめカザフスタンの日本語教育支援を行う。大使館と共催で行っている日本文化デーは、年々来場者数も増加し、日本文化の普及に大きな影響を与えている。また、日本語専門家が派遣されていないタジキスタンへも教師セミナーのために赴くなど中央アジアの日本語教育のサポートも行っている。
所在地 55 Jandosov str. Almaty Rep. of Kazakhstan
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2002年
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