世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) キルギスの日本語教育のために「深く、そして、広く」

キルギス日本人材開発センター
黒岩 幸子

 中央アジアのスイスと呼ばれるキルギス。筆者のいるビシュケクは、首都といえども緑豊かで時折リスが駆け回る姿が見られます。総人口550万人に対し、日本語学習者は713名(国際交流基金 2009年度海外日本語教育機関調査)。人口比では中央アジアの日本語大国であり、一度は日本語を学習したことがあるというキルギス人はかなりの数に上ると思われます。 日本語教師会会員は40名(2011年度)、規模は大きくありませんが、皆が顔見知りで気軽に意見を述べ合っています。一言で表すならば、「小粒ながらまとまりがいい教師会」と言えるでしょう。

日本語専門家の業務

 筆者は、アドバイザー業務を中心に行っています。配属先であるキルギス日本人材開発センター(以下、KRJC)では、KRJC日本語コースの運営、講師育成を主に行い、専門家がいなくなった後も現地講師だけでコース運営、質の高い授業が提供できることを目標にしています。また、唯一のネイティブ教師であるため、授業も担当し、学習者の「日本人の先生に教えてもらいたい」という声にもできるだけ応えるようにしています。

 さらに、キルギス全体の日本語教育への支援も期待されています。各機関の訪問、依頼に応えるほか、主に教師会活動を支援しています。セミナー等の実施、教師会と協力しながらの日本語関連イベントの企画・実施、日本語能力試験の実施等、業務は多岐にわたっています。「必要とされること、できることは何でも行う!」これが筆者の業務ですが、派遣国の日本語教育界のあちこちに顔を出せるというのは、大変有難いことだと思っています。

心がけていること 

 様々な業務に携わるということは、ともすれば流されてしまうおそれもあります。そこで、「深く、そして、広く」を念頭に置いて、業務を進めています。

深く

 現在日本語を学んでいる学習者、日本語を教えている先生方のレベル向上につながる支援です。学習者への支援としては、教師会と協力して行う日本語弁論大会、作文・朗読コンクール、日本語能力試験が挙げられます。先生方へは勉強する機会の提供であり、今年度は、9月初旬に2日間にわたる「夏季集中セミナー」を会員自らの発案で新たに行うことができました。また、毎月の勉強会でも、始めは日本人が講師を務めていましたが、徐々に若手の現地講師が発表を行うように変わってきており、意識の変化が見られます。先生方それぞれが関心を持つテーマを一つ持つと、自分の授業が違って見え、教師の仕事がより楽しくなるのではないでしょうか。

広く

 より多くのキルギスの人々に日本語に親しんでもらいたいと思い、新たな層へのアプローチを行っています。最近、目立ってきた学習者層が2つあります。

①年少者

 これまで日本語教育を行ってきた中等教育機関に加え、新たに5機関が年少者へ日本語教育を始めました。これまで支援が手薄でしたが、学校訪問のほか、年少者に教えている教師を対象とした初めての「キルギス日本語研修会」を4月1日に実施したところ、13名が参加しました。いずれも青年海外協力隊日本語隊員の協力を得て行いました。

 中等教育機関では、待遇の悪さからか教師の定着が悪く、教師がいなくなれば、日本語の授業もなくなってしまうといった不安定さを抱えています。研修会で顔を合わせた教師が少しずつ繋がっていくことを願っています。

②社会人

 配属先KRJCにて、今年度より社会人のみを対象としたクラスを開講したところ、予想を超える30名の受講申込みがあり、講師を驚かせました。「学ぶことが楽しい」、「日本語学習を始めて、新しい人生が始まった」といったうれしい感想が聞かれ、仕事で忙しい中、自分の楽しみのために、熱心に学習を続ける受講生に講師一同、頭が下がる思いです。

 「日本に留学したい」、「日本語を使って働きたい」という学習者が目立ったキルギスにも、新たなタイプの学習者が増えてきたようです。キルギスの日本語教育のために「深く、そして、広く」、両者のバランスをとりながら、業務を行っていきたいと思います。

学びとは何かを教えてくれるKRJC社会人クラスの授業風景の写真
学びとは何かを教えてくれる
KRJC社会人クラスの授業風景

39番学校のかわいい日本語学習者の写真
39番学校のかわいい日本語学習者

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 キルギス共和国日本人材開発センター
Kyrgyz Republic-Japan Center for Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1995年に支援委員会により設立され、2003年JICAに移管された国際協力機構(JICA)日本センタープロジェクトによる現地法人。市場経済化に資する人材育成を目的としたビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業を活動の主眼としている。上級専門家は一般成人を対象とした日本語講座の運営とともに、キルギス国内の日本語教育機関、日本語教育関係者、日本語学習者に対する支援・協力を行い、キルギス全体の日本語教育の発展に努めている。
所在地 KNU, 2nd Floor, Building7, Turusbekov St.109, Bishkek 720033, Kyrgyz Republic
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2003年
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