世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)山とヒツジと日本語と

キルギス共和国日本人材開発センター
宗像みなみ

「キルギス」と聞いて、どこにある国でどんな人々が住んでいるかすぐに思い浮かべることができる日本人は、あまり多くはないかもしれません。キルギスは中央アジアに位置し、カザフスタン・ウズベキスタン・中国・タジキスタンと国境を接する、人口560万人ほどの山国です。首都ビシケクでは、緑がまぶしい街路樹の向こうに、険しい山並みが望めます。年間を通して湿度は低く、キルギスが「中央アジアのスイス」と称されるのも納得のさわやかさです。万年雪の山脈、たくさんのヒツジ・馬・牛などの家畜、そして美しい湖を有する、遊牧民の国。距離的には決して日本から近いとはいえないキルギスですが、多くの人が日本語に興味を持ち、学んでくれています。

キルギス共和国日本人材開発センター 日本語講座

キルギス日本センター(以下、センター)日本語講座室では、1年に2回コースが開講されます。2016年9月からは、センターのすべてのコースが『まるごと 日本のことばと文化』シリーズを用いた授業となる予定です。10代から60代まで、幅広い年齢層の学習者約160名(年間)が、日本語を学んでいます。受講生アンケートからは、学習動機として「日本や日本語そのものに興味を持ち、日本語を学ぶようになった」という学習者が多いことがわかっています。短期集中で定期的に開講しているジュニア対象のクラスもあり、10歳から14歳の子どもたちが楽しく日本語を身に付けています。

日本語講座の受講の様子の画像
日本語を知らない子どもたちに日本・日本文化の発信を

センターの活動

センターでは2か月に1回のペースで、「日本語でプレゼンテーション」というイベントを実施しています。この会では、日本語学習者3名と日本人ゲスト1名が、プレゼンテーション(テーマ自由)を行います。発表の後は各プレゼンに関する質疑応答、そしてお菓子をつまみながらの簡単な会話を通して親睦を深めます。学習者にとっては各機関の学生同士の、またビシケク在住の日本人との、貴重な交流の場となっています。

毎月、シュコーラ(小中高一貫制の学校)への出前授業も実施しています。対象者は、日本の小学校5年生にあたる学年のときもあれば、高校生くらいのときもあります。そして人数もあるときには20名程度、また別のときには100人近い子どもたちが狭い教室に集まるときもあります。このように、対象となるクラスの年齢も人数も、そして教室設備も直前までわからないことが多いですが、短い時間で学んだ「こんにちは」「ありがとう」といった簡単な表現を、参加した生徒たちは毎回嬉しそうに繰り返してくれます。発表後のアンケートでは、毎回8割から9割の子どもたちが「非常に満足」「満足」を選んでおり、「日本・日本語について知ることができた」「もっと興味を持った」と高い満足度を獲得しています。小さい活動ではありますが、少しでもキルギスの人びとに、日本に興味を持ってもらえるきっかけになればと思います。

日本語教育セミナーでの実践発表の様子の画像
日本語教育セミナーでの実践発表の様子。発表後はいつも質問が飛び交い活発な議論に

このほかに、一般に向けた活動として、2月に日本語カラオケ大会を実施しました。「日本語の歌」でさえあれば日本語学習者に限らず応募可能です。ソロ・グループ合わせて20組を超える応募がありました。有名映画「となりのトトロ」の主題歌である「さんぽ」からいまどきのJ-POPまで、幅広いジャンルの歌が披露され、非常に盛り上がりました。このように、「日本語学習者」ではない人たちが日本・日本語に触れることができるようなイベントも、引き続き重視していきたいと思います。

キルギス共和国日本語教師会

キルギス全域の日本語教師、約30名の会員が教師会に所属しています。首都であるビシケクを中心に、弁論大会や年2回の日本語能力試験、日本語教育セミナーなど、年間を通じて数々のイベントを運営しています。隔月で総会が行われ、ふりかえりや情報交換、次のイベントの実行委員はどうするかなど、熱心に議論を交わしています。

2016年3月に実施したキルギス日本語弁論大会では、従来の発表者枠20名に加えて、質疑応答のない「入門・初級部門」を新たに設置しました。「勉強し始めた日本語を使って何かにチャレンジしてみたいけど、日本語力にはまだまだ自信がない」、そう考えるすべての学習者にチャンスがあるようにと、教師会総会で出たアイディアです。結果として予想をうわまわる応募があり、実行委員は選抜に大いに苦労することとなりました。

各都市間の連携が教師会の主な課題のひとつです。今年は活動の中心となっている首都ビシケクから、教師会員による2都市(オシュ市、ナリン市)への出張出前授業が実現しました。両都市ともに、日本語・日本文化に興味を持つようになった、というたくさんの子どもたちからの声が聞かれました。微力ながら、これからもキルギスの先生方と協力し、よりよい日本語教育の現場を作っていきたいです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kyrgyz Republic-Japan Center for Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1995年に支援委員会により設立され、2003年JICAに移管された国際協力機構(JICA)日本センタープロジェクトによる現地法人。市場経済化に資する人材育成を目的としたビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業を活動の主眼としている。日本語講座は2013年8月より国際交流基金との共催事業となり、JFスタンダードを核としたカリキュラムによる日本語コースを提供している。日本語専門家は一般成人を対象とした日本語講座の運営とともに、キルギス全体の日本語教育に対する支援・協力を行う。
所在地 KNU, Building 7, Floor 2 720033 Kyrgyz Republic 109 Turusbekova Street, Bishkek.
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2003年
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