世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本とキルギスの懸け橋を育てる現場

キルギス共和国日本人材開発センター
坂本美知

キルギス共和国(以下、キルギス)と聞いてすぐに正確な地理と国のイメージを思い浮かべることのできる日本人はそう多くないと思いますが、キルギスでは「大昔、キルギス人と日本人は兄弟で、肉が好きな者はキルギス人となり、魚を好きな者は東に渡って日本人となった」と言われているほど、キルギス人と日本人の顔はよく似ています。顔が似ているという点では確かにそうなのですが、実際には経済的な交流もあまりなく、キルギス人にとっても日本は簡単に訪れることのできない遠い国でした。しかし、昨年、キルギスのサッカーチームが日本で親善試合を行ったり、キルギスに初めて日本企業が進出したりと、今、驚くほどの速さで日本とキルギスの距離が縮まっているのを感じます。もはや、キルギス人にとって日本は顔が似ているという伝説のシルクロードの先にある遠い国ではなくなってきているのです。ここ数年、日本の文化や日本語を教育に取り入れたシュコーラ(小中一貫校)が開校するなど、これまでも高等教育機関を中心に高い水準を誇っていたキルギスの日本語教育はここにきて爆発的に学習者を増やしながら更に先へ進もうとしています。

そんなキルギスで日本の経営を学ぶビジネスマンや日本語学習者、またキルギスに興味を持った日本人や日本企業が自然と集まってくるのが、日本人材開発センター(以下、センター)通称「日本センター」です。日本語専門家はこのセンターでJF日本語教育スタンダードに基づいた一般向けの日本語講座を運営しながら、拡大する日本語教育の現地化を目指してキルギス日本語教育全体へのサポートを行っています。

日本を目指して!

センターでは数年前から在キルギス日本国大使館と協力し、日本語教育の裾野拡大を目指して現地のシュコーラで日本語巡回講座を行っていますが、その成果もあってか、夜間の日本語コースにも10代後半の若者の姿が目立ちます。若い学習者の多くは日本の大学で勉強するという夢を持って勉強に励んでいますが、まだまだ経済的に差のある日本で勉強するには政府や大学の奨学金獲得が必須のため、狭き門となります。それでも、学習者は授業のない日もセンターの自習室に通って勉強するなど、日々日本を目指して頑張っています。

一方、社会人の学習者に対しては、優秀な人材を求めてキルギスで事業を展開する国際協力プロジェクトや企業からの問い合わせが多く寄せられます。社会人学習者の多くは日本語とは別のスキルを既に身につけているため、専門分野を生かして日本とつながることも可能です。センターではビジネスコースとも連携し、キルギス初となった日系企業のキルギス人社員への日本語研修も行いました。日本への留学を夢見る若者はもちろん、現地でキルギスと日本をつなぐ懸け橋になりたいと願う日本語学習者をセンターは応援しています。

学習中の生徒の写真
日本を目指して!

『まるごと』セミナーで新しい体験を!

教育現場が急成長すれば、問題になってくるのが教師不足です。歴史ある高等教育機関には経験豊富でレベルの高い先生もいらっしゃるのですが、社会的背景もあって若い教師がなかなか育ちません。

また、日本から遠く離れた国では若い教師ほど「知っているのは自分が使った教科書、モデルは教えてくれた先生」というのが現状です。そういった先生方からの「新しい教科書『まるごと 日本のことばと文化』について知りたい!」「使い方を教えて欲しい!」という声にこたえて、センターではキルギスの首都ビシュケクと、第二の都市であるオシュで『まるごと』セミナーを行いました。

セミナーには若手の先生を中心に新しい知識と体験を希望する先生方が集まり、アットホームな雰囲気の中、参加者は学生気分で和気あいあいと新しい授業を体験したり、時には教師としてセミナーを担当した講師と議論を深めたりと『まるごと』のモットーである「生きたコミュニケーションを学ぶ」を体現するようなセミナーになりました。今回はセンターのキルギス人教師がメイン講師としてセミナーを担当することで、キルギス人教師が、キルギスの若手教師を育てるという日本語教育現地化へ一歩を踏み出す狙いもあったのですが、セミナーを担当した講師、セミナー受講者の双方にとって『まるごと』を使った新しい体験になったのではないかと思います。

しかし、残念ながら、数日のセミナーで経験豊富な教師は育ちません。今後、キルギスの日本語教育の発展とともに深刻化が予測される教師不足をどのようにサポート、解決していけるのかが、キルギス日本語教育と日本語専門家の大きな課題です。

『まるごと』セミナー受講者たちの写真
『まるごと』セミナーで新しい体験を!

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kyrgyz Republic-Japan Center for Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1995年に支援委員会により設立され、2003年国際協力機構(JICA)に移管された国際協力機構日本センタープロジェクトによる現地法人。市場経済化に資する人材育成を目的としたビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業を活動の主眼としている。日本語講座は2013年8月より国際交流基金との共催事業となり、JF日本語教育スタンダードを核としたカリキュラムによる日本語コースを提供している。日本語専門家は一般成人を対象とした日本語講座の運営とともに、キルギス全体の日本語教育に対する支援・協力を行う。
所在地 KNU, Building 7, Floor 2 720033 Kyrgyz Republic 109 Turusbekova Street, Bishkek.
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2003年

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