世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)進展する交流イベント

ヤギェロン大学
青沼國夫

国際交流基金(以下基金)の派遣でポーランドに赴任して2年目を迎えている。最近目立つことは日本の学生が冬休みや春休みを利用してポーランドを訪れていることだ。大学のサークル団体や東京や神戸の高校生などがポーランド人学生との交流を深めている。各種イベントを中心にポーランド日本語教育の現状をお伝えする。

(1) 日本語弁論大会

毎年恒例の日本語弁論大会が今年も3月に日本大使館広報文化センターで行われた。大会には高校の部3名、一般大学生の部18名の計21名の弁士が参加し、日頃の学習の成果を披露した。会場には聴視者も大勢集まり、日本から見学に来た大学生グループ数十人もポーランド人弁士の能力の高さ、その表現に魅了されていた。

日本語弁論大会2018入賞者の写真
日本語弁論大会2018入賞者

弁論大会にはポーランド国内に在住する日本人やポーランド人及び日本人の日本語教育専門家を招待して、審査員をお願いしている。また、日本などの国外からも来ていただく場合もある。基金の日本語専門家(以下専門家)は審査委員長として弁論の審査を統括するほか、ポーランド国外から招聘するために「審査員探し」を行うのである。今回は幸運にも日本の大学の先生とハンガリーのJF日本語教育アドバイザーにも加わってもらうことになった。審査員のメンバーがおよそ揃ったところで、プログラムを作成し、4ヶ月前の11月には各教育機関にお知らせしつつ、弁士の募集を行うのである。

当日は昼頃からスタートした。ポーランドは国の面積が広く、中央のワルシャワに集合するには3、4時間かかる地域もあるので、朝から始めるのは難しい。開会式で、主催者側や来賓の挨拶の後、専門家が弁論審査の方針や基準を紹介し、まずは高校の部から始まった。弁士は3名で、女性の生き方やポップカルチャーについての話をした。中には日本の美学についての話もあり、高校生のレベルを超えた内容でとても感心させられた。一般大学の部では18名の弁士が、文化に関するテーマや自己成長などに関するテーマが多い中で、自然保護に関する問題について話した学生が優勝した。

審査は内容(主張、独創性、構成)、日本語能力、発表態度(伝える工夫など)の面から評価される。スピーチのあとに話題についての質疑応答もある。一般大学の部は18名の中で順番をつけなければならず、審査の公平性さについても考えなければならない。およそ3分間の話と質疑応答から点数化して順位を出していくのは審査員にとっても負担が大きい。今回の審査においても接戦であった。スピーチのレベルが上がり拮抗している中で、審査のあり方が今後の課題でもある。

(2) ポーランド南部日本語教師の会

ポーランドには全域をカバーする「ポーランド日本語教師会」があり、毎年3月と12月に定例セミナーを行っている。一方、近年、短期(1年弱)に派遣されてくる日本語教師が全国に十数名おり、この教師会のメンバーとして活動するにはハードルが高くメンバーにはなりにくい。しかしながら、現場での教え方や仕事上の工夫に苦労されている方もいる。クラクフ周辺で活躍する教師たちがそのような悩みを話し合う場を提供することを目的として、これまで「クラクフ勉強会」があったが、広域をカバーする必要があり、専門家は今年の1月に「ポーランド南部日本語教師の会」と名称を改定し会員を募集した。

ポーランド南部日本語教師の会のセミナーの写真
ポーランド南部日本語教師の会のセミナー

第1回目は地元クラクフの教師も含めて10名の教師が集まり、現場の実践報告とともに、日頃の悩みを話し合った。また、授業の工夫、レア教材の紹介なども行われた。HPを立ち上げて、情報交換等を行っていくことにした。さらに、この教師会に対する提案なども書いてもらうことにしている。

第2回目の3月には京都大学から定延利之教授をお招きして講演会を開催した。定延先生は「ちょっと面白い話プロジェクト」を推進されている言語学者で、今回のテーマも「面白い話で何をやりたいのか」であった。「キャラ」の話や「ユーモア・センス」の話など、言葉に関する刺激的な内容で、参加者の皆さんも大変感銘する講演となった。

(3) その他の交流イベント

  1. (1)ヤギェロン大学「慶応大学学生との交流会」:3月半ばに慶応大学のサークルグループがトルンの大学を訪問の後、ヤギェロン大学に来た。自己紹介を含んだプレゼンテーションの後、学生同士の会話交流を行った。
  2. (2)ウッジ高校と千里国際高校との交流会:3月中旬に1週間の交流会が行われた。歓迎レクチャーとして日本語で「ポーランドの現在政治と社会」や、教会、博物館見学さらには日本語と英語による交流紹介授業、そして、千里国際高等部の高校生のプレゼン(「高校生活」「大阪の街と大阪弁」)もあった。
  3. (3)ザブジェ高校と国立音大中高の交流会:3月後半に2泊3日のスケジュールで市をあげての交流会が行われた。ザブジェ市の合唱団との合同演奏会や日本語を学んでいる中高生との交流会(「じゃんけんチャンピオン」「福笑い」「茶道の実演」「東京音頭」「ポーランドのダンス」など)を行った。

この他にも各地での交流会の様子が伝わってきており、日本とポーランドとのつながりが強まってきているという印象を受けている。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Jagiellonian University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
位置づけ:ポーランドにて日本学を主専攻とできる国立4機関の一つ。
業務内容:(1)学部生、大学院生に対する日本語教育。主に「実用日本語」の中の会話や作文の授業を担当。(2)カリキュラムや教材選択においてアドバイザー的な役割。(3)ポーランド日本語教師会の活動を支援。(4)ポーランド国内の日本語関連のイベントのサポート。
所在地 Aleja Adama Mickiewicza 3 Krakow Poland
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
文献学部東洋学研究所日本中国学科
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