世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)学びと友好の祝祭的空間 ―四大学合同合宿ポロニン2019―

ヤギェロン大学
青沼國夫

ポーランドでは日本学科生が中心となって毎年1回4つの大学が合同で合宿を行い、親交を深めている。日本学科生の日本学科生による日本学科生のためのワークショップである。今回はこの合宿を中心として、日本語弁論大会や日本語教師研修の最新の動向を紹介する。

1「第11回学生国際日本語研究ワークショップ“ポロニン2019”」

このワークショップの目的は日本研究分野で教師と学生、学生と学生が共同で面と向かい、日本語、日本文化、日本社会の知識を明らかにすることだ。ワークショップは2つの会場で4月8日から13日まで開かれた。4月8日の午前中にマンガ日本美術技術博物館で、午後から13日まではクラクフから南方70キロメートルにあるタトゥラ山の近隣の小さな村ポロニンで合宿をした。

毎年恒例のこの合宿の発端は10年前の2009年にさかのぼる。ヤギェロン大学の講師がスロヴァキア、チェコの先生方との協働で日本学科の学生合同キャンプを立ち上げ、3カ国5つの大学の学生が参加したことからスタートした。

ここ数年はポーランドの国立大学で日本学科主専攻を持つ四大学(ワルシャワ大学、ヤギェロン大学、アダム・ミツキヴィッチ大学、ニコラス・コペルニクス大学)の学生が持ち回りで企画運営している。今年はヤギェロン大学の学生グループ「カッパ」が中心となって「国際合宿ポロニアン2019」を担当した。

プレナリーセッションに集う日本学科生の写真
プレナリーセッションに集う日本学科生

ワークショップは3つの主要部分に分けられ、日本文学、言語、歴史文化の講義と日本語授業での交流セミナーやプレナリーセッションである。文学・言語・歴史文化の分野では、「夢野久作の世界」、「役割語」、「変体仮名」、「お守りワークショップ」、「着付け」などがあった。日本語授業では「昔話」、「言葉遊び」、「スラング」、「“気”の慣用」の講義がなされた。プレナリーセッションでは各大学が自主作成の映画を上映した。また、最終日にはモルスキエオコなどへの合同ハイキングや近隣の町ザコパネ散策など希望のコースを選んでアウトドアを楽しんだ。

当初は、専門家が日本語授業をアレンジしていた時もあった。今では学生の自立化が進み、自主的にプログラム企画運営がなされている。合宿の終わりには、来年のために次の大学の学生との協議なども行われており、来年も期待できるワークショプとなるだろう。

2(日本教師養成講座)

ワルシャワ日本語学校が日本語教師養成講座を主催した。1月から3月まで3回、全て3時間、計9時間の講義である。

ワルシャワ日本語学校の日本語教師養成講座の様子
ワルシャワ日本語学校の日本語教師養成講座

第1回目は同校の副校長が1月の養成講座を担当し「言語教育と文化教育」という内容で、言語教育に関しては板書方法、クラス運営で考えられる問題への対応、宿題のやらせ方など、文化教育に関しては日本語の特徴と日本の歴史との関係を扱った。

第2回目は同校校長が2月を担当し「授業で使える簡単ゲーム」というテーマに沿って、準備がいらない日本語学習ゲームを多数紹介した。

第3回目は専門家が3月に「会話の授業」というテーマで、会話の要素である目的、情報差、選択権、反応の重要性を示し、社会言語能力、談話能力、ストラテジー能力など会話に必要な能力の育成方法を伝えた。

受講生はポーランド人教師5名、日本人教師5名で、多くはワルシャワから集まったがウッジやヴロツワフなどの遠方からの参加者もいた。

ポーランドで養成講座を開催している機関はほとんどない。今回のワルシャワ日本語学校による養成講座も定期的な講座ではない。しかし、今後養成講座が必要なものとして注目されていく契機になるかもしれない。大学では日本学主体の授業が行われている中、日本語教授に精通している教師はそう多くはない。今後のポーランド日本語教育発展のためにも、多くの機関で養成講座に関心を持ち、日本語教師としての心構えをはじめ、最新の教育技術を習得する機会を作り研鑽に励んでほしいものである。

3(その他)

3−1 ウッジ日本語弁論フェスティバル(2018年6月)

6月10日の日曜日に国立ウッジ考古学民族博物館多目的ホールにて第四回目の日本語弁論大会が開催された。専門家は指導助手とともに審査員として参加した。弁士はウッジ大学、市民講座、高校などで日本語を学ぶ学生たちである。“フェスティバル”と名付けてあるのには意味がある。この弁論大会は優勝者を選ぶのではなく、スピーチ表現そのものをすることに主眼がある。表彰される人は十数名いて、発音賞、文法賞、努力賞などユニークな賞が準備されている。発表者の参加条件にも「自分の気持ちを伝えられる者」と記されており、競い合う「大会」ではなく、楽しみを分かち合う「フェスティバル」なのである。

3−2 アイセア日本語教師研修会(2018年9月)

アイセアからポーランドに派遣されている日本語教師のための研修プログラムが9月に行われた。「ウッジ研修」は6日から14日までウッジ大学の教室で、ポーランド語の学習とポーランド事情を中心に開催された。また、15日から20日まではオポーレに移動し合宿をした。ここでは小中高での交流実習、日本語授業相談会、市内観光、村人との交流集会などが実施された。専門家はウッジ研修時に「読解の授業」について講義した。

3−3 ポーランド日本語教師会「日本語教育セミナー」(2018年12月、2019年3月)

ポーランド日本語教師会は毎年二回、日本語教育セミナーを実施しており、専門家は企画運営を行っている。今回は12月に「「孤立環境における日本語教育を考える」(含:多読授業の実践報告)というテーマでウクライナ日本センターの藤崎泰典氏(国際交流基金日本語専門家)が基調講演を行った。3月には「日本語の音声」林敏夫アドバイザー(国際交流基金ブダペスト日本文化センター日本語上級専門家)と「多文化社会日本におけるやさしい日本語」三原龍志教授(龍谷大学)の講演があった。

3−4 ポーランド南部日本語教師の会「勉強会」(2019年1月、4月)

クラクフを中心としたポーランド南部地域の日本語教師を対象とした勉強会が1月と4月に開催された。1月は「ひらがな・カタカナの教え方」、4月は「漢字語彙の教え方」というテーマで文字語彙の教え方について講義をし、参加者と議論もした。また、各教育現場での報告会も行われ、より良い教え方について考える機会を持った。

3−5 第40回ポーランド日本語弁論大会(2019年3月) 

毎年行われている日本語弁論大会が、今回40回目を迎えた。スピーチの内容も、表現力も年々拮抗しており、今年も審査員を悩ますほどの甲乙つけがたい“熱い”大会となった。高校の部では、マンガ日本語学校で学ぶベレニカさん、一般大学の部ではヤギェロン大学のアガタさんが優勝し、日本行きのチケットを手にした。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Jagiellonian University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
位置づけ:ポーランドにて日本学を主専攻とできる国立4機関の一つ。 業務内容:(1)学部生、大学院生に対する日本語教育。主に「実用日本語」の中の会話や作文の授業を担当。(2)カリキュラムや教材選択においてアドバイザー的な役割。(3)ポーランド日本語教師会の活動を支援。(4)ポーランド国内の日本語関連のイベントのサポート。
所在地 Aleja Adama Mickiewicza 3 Krakow Poland
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
文献学部東洋学研究所日本中国学科
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 選択:1978年から
専攻:1987年から
  国際交流基金からの派遣開始年 1987年
 
コース種別
  主専攻
 
現地教授スタッフ
  常勤16名(邦人3名)、非常勤5名(邦人1名)
学生の履修状況
  履修者の内訳 学士:各学年20名前後、修士:約10名
  学習の主な動機 日本研究、サブカルチャー
  卒業後の主な進路 進学、日系企業就職、通訳翻訳
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
学士:N2 修士:N1
  日本への留学人数 10名程度

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