世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「バルカンの小パリ」は今

ブカレスト大学
大谷 英樹

ブカレスト

かつて「バルカンの小パリ」と呼ばれたルーマニアの首都、ブカレストの美しい街並みは、革命を経て20数年、その面影を所々に残している。一方でEU加盟(2007年)後は国内のインフラ整備が急速に進められ、対外的には人々の移動が活発になり、近年では東欧から西欧諸国への移民の増加が社会問題になりつつある。

そんなルーマニアにとって、日本は遠い国で利害関係も薄いということもあり、人々はあまり先入観を持たずに日本の文学や歴史、文化に興味を持ってくれている。日本関連のイベントは定期的にあり、高校や大学の文化祭、アニメ・フェスティバル、オタク・フェスティバルなど、いずれも盛況である。こうした環境が日本語学習の動機の一端を担っていることは間違いないだろう。

日本語専門家と指導助手の役割

イオン・クレアンガ高校 文化祭(書道)の写真
イオン・クレアンガ高校 文化祭(書道)

そこで日本語専門家(以下、専門家)と日本語指導助手(以下、指導助手)の役割はこうしたニーズに対応し、初等教育から高等教育までを含めた日本語教育を支援することが中心となる。中でも、日本語専攻のあるイオン・クレアンガ高校とブカレスト大学はルーマニアの日本語教育の拠点であり、ここでの人材育成が今後の日本語教育の行方を左右すると言っても過言ではない。

EU加盟により2009年にJICAのボランティア日本語教師が全面撤退するまでは、日本人教師が中心となってルーマニアの日本語教育を支えてきたが、今後はルーマニア人教師達が共に協力し合い日本語教育を継続し発展させていく必要がある。そのためにも、専門家と指導助手が、派遣先のブカレスト大学はもちろん日本語教師会とも連携し、研修会やワークショップなどを通じてルーマニア人日本語教師達を支援することを期待されている。

日本語教育の今後

ブカレスト大学 日本語学科 クリスマスパーティーの写真
ブカレスト大学 日本語学科 クリスマスパーティー

ルーマニアには多くの日系企業が進出しているが、卒業生が日本語能力を活かせる機会は非常に限られているため、日本語教育の目的は「就職のための日本語」というよりも「学問としての日本語」の習得という捉え方の方が現実的であると言える。もちろん、機会があれば日本語を使った仕事に就きたいと考える学生は多いが、欧州言語とは違い学部3年間でそこまでの日本語レベルに到達するのには相当の努力が必要となる。というのも、ブカレスト大学では専攻の言語の他に副専攻としてもう一つの言語を同時に履修することになっており、学習時間が限られてしまうという現状があるからである。

肝心の日本語教師育成に関しては、残念ながら大学でも教師養成のための環境が十分に整っておらず、教師養成講座や研修などの機会を何らかの方法で増やしていくことも検討しなくてはならないだろう。

日々の授業で筆者が感じるのは、学生は「日本語」を学ぶだけでなく、言葉の背後にある日本文化、そして日本人の美意識や行動様式等に非常に興味を持っているということである。ルーマニアの将来を担う学生には、日本語教育を通じて様々なことを学び、感じ取って、それを卒業後の人生に活かしてもらいたいと切に願う。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
University of Bucharest
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ルーマニアには、日本語を主専攻、あるいは副専攻としている大学が4校ある。ブカレスト大学の日本語学科は、ルーマニア国内の日本語教育、日本文学研究の中心である。日本語だけでなく日本文学、日本文化について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。専門家は日本語学科での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う。
所在地 Bulevardul Mihai Kogalniceanu nr.36-46, Sector 5, Bucharest
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名   指導助手:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
ブカレスト大学外国語外国文学部日本語学科
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