世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)極寒のシベリアの大地で行われている日本語教育

ノボシビルスク国立大学
三森 優

私が2018年10月にここ、ロシア連邦のノボシビルスク国立大学に赴任してから半年強が過ぎました。この間、関わってきた仕事内容など、簡単ですがお話しします。

西シベリア地域と日本語教育

まずは、ノボシビルスク市について紹介します。地理的にノボシビルスク市はロシア、というよりもむしろユーラシア大陸のど真ん中に位置しています。日本からの時差は2時間ですが、距離は4,600km程度離れ、一番近い隣国はカザフスタン、モンゴルです。

私は赴任前、「シベリアとはいえ西シベリアに位置するらしいから、きっと寒さで有名な東シベリアの街よりはいいだろう。寒さにも耐えられるのではないか」と、少し楽観的に考えていましたが、今思えばなぜそのようなことを考えたのだろうと思ってしまいます。ノボシビルスクは日本語で言えば「新シベリア市」。赴任も10月で、どんどん冬に向かっていく時期でした。赴任間もない時期に同僚の先生方に言われた言葉は「ここは半年間冬ですから」という言葉。「いやいや、半年冬って」とイメージすらできない私を襲った冬はまさに「極寒」の一言でした。一冬を越した感想は、「やはりシベリアはシベリアだった」です。-30℃から-40℃にも達する冬は、これまで-25℃程度になる地域に赴任したこともある私でも、まさに「未体験ゾーン」の寒さでした。日本との時差もなぜか2時間ということで、冬は午前11時頃に朝日が昇ります。しかし、そんな「極寒」の地域でも、寒さに負けず元気に日本語を学んでいる人々がいます。

ノボシビルスク市内では、4つの高等教育機関、さらに日本文化発信の中心となっているノボシビルスク市シベリア北海道文化センターでも日本語が学ばれています。他にも2つの初中等教育機関があり、さらに、ノボシビルスク国立大学があるここアカデムゴロドクでも大学の他に第130番リツェイという初中等教育機関で日本語が学ばれています。私はこれまで数か所の機関を訪問しましたが、どこも明るい顔で日本語を学んでいる様子が印象的でした。また、ノボシビルスクから比較的近い都市では(近いといっても、一番近い都市で220km離れており、車で飛ばしても4時間半かかる)、トムスク、オムスク、クラスナヤルスクでも日本語が学ばれています。

ノボシビルスク国立大学の日本語教育

私の赴任先であるノボシビルスク国立大学は、ノボシビルスク市から車で1時間ほど離れた郊外の、筑波研究学園都市のモデルになったともいわれるアカデムゴロドクという町にあります。大学では、東洋学学科と大学の「日本センター」開講の一般向け日本語コースで日本語が学ばれています。東洋学学科では1年生から4年生まで50名弱の学生達が、日本語を第一外国語としながら歴史、言語、芸術文化を専攻しています。日本語専門家(以下、専門家)が担当するのは全クラスの日本語会話授業で、特に4年生の授業では、卒業国家試験に向けて卒業論文の口頭発表の指導をすることが期待されています。

口頭発表卒業試験の準備をする4年生の写真
口頭発表卒業試験の準備をする4年生

これら通常授業の他にも、大学で行われる学術会議をはじめとする様々なイベントに参加・協力することも大学側からは期待されており、最近では、4月に「インターウィーク」という大学国際週間イベントでの日本文化紹介にも協力しました。このイベントでは、東洋学学科と日本センターで日本語を学ぶ学生有志に季節外れですが盆踊りを教え、観客を巻き込んで踊ってもらいました。観客もあっという間に一緒に踊れるようになっていて、見ていてとても嬉しく思いました。

ノボシビルスク市内の日本語教育関連

「手作り人形コンクール」で製作されたひな壇の写真
「手作り人形コンクール」での力作のひな壇!

私のいるアカデムゴロドクからは少し離れていますが、ノボシビルスク市内での日本語教育関連事業にも専門家は協力しています。特にシベリア北海道文化センターは、日本語能力試験の実施運営をはじめ、日本語教育や日本関連の活動を精力的に行っており、クリスマスやひな祭り等の季節感のあるイベントも企画運営しています。3月のひな祭りイベントでは、手作りの人形を作って応募してもらう人形コンクールを実施し、専門家はその評価を行いましたが、いずれも力作で、ひな壇を一から作り上げた日本語教育機関の一つである第4番ギムナジウムの作品には圧倒されました。このイベントでは市内の人形劇場の協力も得て子供向け人形劇レクチャーも行われましたが、その技術の高さに子供にまぎれ私も引き込まれてしまいました。私にとってもロシアの文化レベルの高さに思わず唸らされたひと時となりました。

また、やはり3月にノボシビルスク工科大学主催の「シベリア万華鏡」という東洋語弁論大会にも審査員として参加しました。ここでは、ノボシビルスク市内の日本語教育機関の学生達が立派に日本語でスピーチしているのを見ることができました。同日に日本語教育セミナーも開催し、赴任後初めて日本語教育のお話をすることができました。できれば、今後このような日本語教育について学び合う機会を増やしたいと思っています。

ロシア国内での活動と今後の課題

以上、主にノボシビルスクの日本語教育関連についてお話ししましたが、専門家にとっては近隣地域の日本語教育への支援も大切な業務です。4月にはイルクーツク国立大学で日本語弁論大会、日本語教育セミナー、日本語カラオケコンテストが開催されたため、私も審査員、発表者として参加してきました。イルクーツク国立大学でのこのイベントも実によくオーガナイズされており、学生が運営にも一生懸命携わった日本語カラオケコンテストなどは、とても楽しく拝見しました。しかし、残念ながら、未だトムスク、オムスク、クラスナヤルスクの近隣地域にはお伺いすることができていません。今後の課題は、これらの地域や日本語教育が行われているという他の地域にも足を延ばし、それぞれの機関の支援を行うことです。シベリアでは短い「雪のない期間」ですが、出来る限りノボシビルスクをはじめとした諸地域の日本語教育への支援に携わりたいと、今考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Novosibirsk State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ノボシビルスク国立大学の日本語講座は、西シベリア地域の日本文化研究・日本語教育において中心的役割を果たしている。多くの卒業生が日本語教師、翻訳・通訳家、東洋学研究者として活躍している。専門家は、人文学研究科東洋学学科での日本語授業の他、イベント運営協力、留学相談、また現地教師への教材や授業についてのコンサルティングなどの業務を行う。
所在地 Pirogova str.1, Novosibirsk, 630090, Russia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
人文学研究科東洋学学科(以下、東洋学科)、日本研究センター(以下、日本センター)
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 1970年
  国際交流基金からの派遣開始年 2000年
 
コース種別
  東洋学科:選択第一外国語
 
現地教授スタッフ
  東洋学科:5(うち専門家1名)、日本センター:2
学生の履修状況
  履修者の内訳 東洋学科:約50、
日本センター:約10
  学習の主な動機 日本語や日本文化への関心、日本への留学
  卒業後の主な進路 一般企業、翻訳・通訳者、教師(家庭教師含)、大学院、留学
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2合格程度
  日本への留学人数 5名程度

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