世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)広大なロシアの日本語教育

モスクワ市立教育大学
黒岩 幸子

ロシアの日本語教育は18世紀に皇帝ピョートル一世の提案により開始され(1)、現在まで脈々と受け継がれています。長い伝統を持ち、日本の45倍(2)という広大な国土で行われているロシアの日本語教育へどのような支援ができるか壮大なテーマですが、現在行っている業務の一端をご紹介します。

私は、モスクワ市立教育大学での授業担当及びロシアへの日本語教育アドバイザー業務を行っています。

1)モスクワ市立教育大学での授業

モスクワ市立教育大学では2006年に日本語教育が開始され、2018年度は約150名の学生が日本語を専門的に学んでいます。アニメをはじめとするポップカルチャーの影響はロシアでも大きく、日本語学習の入り口になった学生も少なくありません。同大学での日本語教育は拡大傾向にあり、教員も比較的若い教員が多く、新しい試みが見られます。ロシアの日本語教育は伝統的に通訳・翻訳者養成の側面が強く、同大学も例外ではありません。私は2年生の口頭表現の授業の一部を担当していますが、新年度開始時には、知識は豊富にありながら、「話すのが怖い、コミュニケーションの恐怖を克服したい」とする学生が非常に目立ちました。『まるごと』を用いて授業を行ったところ、前期終了時の学生へのアンケートでは満足度が高いことが分かりました。2019年3月同大学で行われたロシアCIS日本語教師会のシンポジウムで発表をし、クラスの様子をロシアの先生方へ知っていただくことを行いました。授業を担当するだけではなく、学術発表で実践の結果を還元することも、昨今では日本語教育支援の一つの形であろうと考えます。

モスクワ市立教育大学の写真
モスクワ市立教育大学の様子

2)日本語教育アドバイザー業務

全体の業務の中ではアドバイザー業務が主となります。極東地方にも日本語教育アドバイザー業務を行う専門家が派遣されており、私は極東以外の地域を担当していますが、それでも広大な地域です。効率的な支援を常に考えていますが、手が回りきらないのが実情です。

(1)モスクワにてロシア全土へ(オンライン講座)

ロシアでも様々な都市で日本語教育が行われています。繰り返しになりますが、ロシアは広く、隣の都市と共同で日本語学習者へのイベントを行う、あるいは、先生方へセミナーを開くことを検討しても、近隣の都市まで列車や車で半日、あるいは飛行機移動ということも珍しくありません。こちらからできる出張も限られています。そこで、点のように散らばる先生方にできるだけ同じ条件でできる支援として、日本語教授法オンライン講座(全8回)をこれまでの専門家に続き実施しました。定員9名に対し、東はカムチャッカ、西はサンクトペテルブルグまで60名の応募者があり、急遽、クラスを増やし対応しました。受講生のSNSグループでは今後の情報交換へ向けての投稿が自発的に起こり、このつながりが長く続くことを願っています。

オンライン講座を実施したことにより、広大な地域でのインターネットを通じた支援の可能性を実感しました。

(2)ロシア各地へ足を運ぶ(地方出張)

上記のオンライン講座は非常に有効ではありますが、一方で、様々な機関へ足を運び、実際に先生方にお会いし、直接話を伺うのも非常に重要です。出張は先生方への講座・ワークショップ実施のために伺うことを基本としており、赴任以来これまで8つの都市を訪問しました。どの地域にも熱心な先生が待っていてくださり、こちらもいつも身が引き締まる思いです。

アストラハン国立大学の学生の写真
アストラハン国立大学の学生

先日訪れたアストラハンではアストラハン国立大学での学生へのデモ授業、デモ授業を観察していた先生方への勉強会実施のほか、市内の2つの日本語教育機関への訪問を行いました。近隣の町から片道3時間をかけて日本語を学びに来る学習者のエピソードを耳にしたり、退職後の年配者が楽しく日本語を学ぶクラスを見学することができました。モスクワでは知ることのできないロシアの日本語教育の一つの姿を目にし、新たな活力が湧いてくるのを感じます。

本稿では触れられませんでしたが、中等教育機関で学ぶ日本語学習者、子供向け講座及び日本関連イベントの盛況等、ロシアの人々の日本・日本語への関心を意識しています。

モスクワやサンクトペテルブルグなどでの伝統ある日本語教育、中都市や小都市にて新たな光を放つ日本語教育、次世代を担う年少者への日本語教育、そのどれもがロシアの日本語教育であり、オンラインを上手く活用しながら今後もできるだけ多くの日本語の先生方、学習者に接する機会を持ちたいと考えています。

※参照
1)国際交流基金「日本語教育 国・地域別情報ロシア2017」
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2017/russia.html
<2019年5月6日閲覧>
2)外務省「ロシア連邦(Russian Federation)基礎データ」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/russia/data.html#section1
<2019年5月6日閲覧>

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Moscow City University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
派遣先機関であるモスクワ市立教育大学(かつてはMoscow City Teachers’ Training Universityであった。現在でも当地では教育大学として認識されている)は、初等・中等教育の教員を専門に育成する教育機関である。
日本語学科では教員養成の他、広く日本語専門家育成のための日本語教育が行われている。
日本語専門家は同大学での授業を担当する他、ロシア全体の日本語教育状況の把握や、ネットワーク構築、教師支援といったアドバイザー業務を行っている。
所在地 Russia, 105064, M.Kazenny per., 5
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
通訳・翻訳学部日本語学科、東洋学部日本語学科
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 2007年
  国際交流基金からの派遣開始年 2012年
 
コース種別
  専攻
 
現地教授スタッフ
  29名(うち邦人4名)
学生の履修状況
  履修者の内訳 計200名(1年生:80名、2~4年生:約30名)
  学習の主な動機 日本、日本文化、日本語への興味
  卒業後の主な進路 日本語教員、就職、進学、留学など
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N1~N2
  日本への留学人数 年7~8名程度

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