世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)トルクメニスタンの日本語教育

ドゥーレットマーメットアザディ名称世界言語大学/トルクメニスタン国民教育大学
佐藤五郎

皆さんは、トルクメニスタンという国がどこにあるかご存知ですか。そもそも「トルクメニスタン」という名前をご存知でしたか。私がトルクメニスタンへの派遣決定を周囲の人に話した時も、十中八九「え?トルコ?」と聞かれました。日本での認知度はまだまだ低いと言わざるを得ません。

しかし、ユーラシア大陸のほぼ中央に位置し、日本から30時間以上もかかるこの国にも、日本語を学ぶ人々がいます。しかも、その数は3000人を超え、中央アジア随一です。

日本語教育の開始と拡大

トルクメニスタンで日本語教育が始まったのは、2007年のことです。同年、第2代大統領に就任したベルディムハメドフ大統領(現職)の命を受け、ドゥーレットマーメットアザディ名称世界言語大学(以下、アザディ大学)東洋言語・文学部に日本語専攻が開設されました。それ以降、約10年にわたり同大学が国内唯一の日本語教育機関でした。

しかし、2015年10月に大きな転機が訪れます。安倍晋三首相のトルクメニスタン訪問が契機となり、ベルディムハメドフ大統領が、アザディ大学以外の高等教育機関と、一部の初等・中等教育機関で日本語教育を開始することを決定したのです。

こうして、翌2016年9月より、トルクメニスタンの日本語教育は急拡大することとなりました。2018年現在、6つの大学、10の中等教育機関、1つの初等教育機関で日本語教育が行われています。学習者数は約3400人、教師数は約30人です。2015年以前は、機関数1、学習者数約50人、教師数4~5人でしたから、その急拡大ぶりには目を見張るものがあります。

なお、学習者数を教育段階別に見ると、最多を占めるのは中等教育段階(日本の小学5年生~高校3年生に相当)で、約2000人。続いて、高等教育段階の約1000人、そして初等教育段階(日本の小学1年生~4年生に相当)の約360人です。初等・中等教育機関では、毎年1学年ずつ学習者が増えていくため、学習者総数は毎年約1000人ずつ増加していくと予想されます。

日本語教育をめぐる問題と専門家の仕事

さて、学習者増加は喜ばしい反面、悩ましい問題も生んでいます。

最も深刻なのは、教師不足です。アザディ大学卒業生は、現在までに60人ほどいますが、居住している地域に日本語教育機関がない場合、英語教師や他の職に就かざるを得ません。そのため、現在日本語教師として働いているのは、30人にも満たないのが現状です。教師不足が特に深刻なのは初等・中等教育段階で、学校によっては1人で400人以上の生徒を教えている場合もあります。

また、教師たちの多くが日本語教授法について学んだ経験がないため、自分が学生だった頃のことを思い出しながら、手探りで授業を行っています。トルクメニスタンでは、知識注入型の授業が依然として多く、日本語授業も、教師が文法説明を行い、教科書の例文をトルクメン語に翻訳させて「わかった/できた」とすることが多いように見受けられます。

「日本語2」と「日本語6」の教科書の写真
初等・中等向け日本語教科書

国際交流基金は、2016年9月より日本語上級専門家(以下、上級専門家)と日本語指導助手を1人ずつ派遣していますが、上級専門家に求められる業務は、各教育段階に対する様々な支援です。具体的には、次のような業務を行っています。初等・中等向け日本語教科書の制作、現職教師に対する研修、学校訪問・授業見学を通したアドバイジング、アザディ大学のカリキュラムや授業に対する助言、アザディ大学トルクメン人講師との「勉強会」を通した日本語・日本語教授両面での知識拡充と技能向上支援、アザディ大学での授業(主に教授法科目)などです。

5年生に授業している写真 学生たちが何人が手を挙げている様子
5年生の授業風景

どれも重要で優先順位をつけるのは難しいですが、教科書は授業の要となるものなので、自ずと力が入ります。児童・生徒の発達段階や他科目との連関を考慮しつつ、思考力・想像力・創造力をフル活用できるような活動を取り入れたい、そんな思いで制作にあたっています。また、授業に追われ、なかなか教材研究に時間をとれない先生たちにとって、使いやすい教科書であることも目指しています。究極的には、教科書通りに教えれば、アクティブでインタラクティブ、コミュニカティブな授業になるような教科書が理想です。アシガバット市内の学校で何度か試用させてもらう機会がありましたが、その時の子どもたちの笑顔を思い出しながら、どうすればあの笑顔を引き出せるかと知恵を絞る毎日です。一人でも多くの児童・生徒が、「日本語の授業って楽しい!」と思ってくれたら、これに勝る喜びはありません。

トルクメニスタンは、建国27年の若い国です。そして、この国の日本語教育も、まだ歩き始めたばかりで大きな可能性を秘めています。そんなトルクメニスタンの日本語教育に関わることができる幸運と責任を感じながら、今後も業務に邁進していきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Dovletmammet Azadi Turkmen National Institute of World Languages/National Institute of Education of Turkmenistan
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
アザディ名称世界言語大学は、国内初の日本語専攻開設大学(2007年)であると同時に、国内唯一の日本語教師養成機関でもある。同大学での専門家の業務は、カリキュラム改善支援、トルクメン人教師支援(日本語・日本語教授の両面)、授業実施などである。トルクメニスタン国民教育大学は、教育省管轄の調査・研究機関で、いわゆる「大学」ではない。各分野の専門家たちが、教育に関する基礎調査の計画と実施、カリキュラムや教科書等の作成・改善、現職教師トレーニング等を行っている。専門家の執務室は同大学内にあり、初中等向け日本語教科書制作や現職教師研修、国内の日本語教育支援策の立案と提言などを行っている。
所在地 Bld.47, 2060 street, Ashgabat, Turkmenistan/Magtymguly sayoli str. 136, Ashgabat, Turkmenistan
国際交流基金からの派遣者数 日本語上級専門家:1名
日本語指導助手:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
東洋言語・文学部日本語専攻
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