世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)10~20年後を見据え、いまを支援する

ドゥーレットマーメットアザディ名称世界言語大学/トルクメニスタン国民教育大学
佐藤五郎

トルクメニスタンに派遣されている日本語上級専門家(以下、上級専門家)と日本語指導助手は、ドゥーレットマーメットアザディ名称世界言語大学(以下、アザディ大学)とトルクメニスタン国民教育大学という2つの機関を兼任しています。今回は、アザディ大学での業務を中心に報告します。

アザディ大学本館の写真
アザディ大学本館

1.アザディ大学日本語学科の概要と課題

アザディ大学は、英語をはじめとする12の言語専攻を置く外国語大学で、日本語学科が開設されたのは2007年のことです。それ以来、2016年に他の6大学で日本語教育が開始されるまでの10年間、国内唯一の日本語教育機関でした。今もなお、日本語を専攻できるのはここだけであり、卒業生の多くが初等・中等教育機関や大学で日本語教師として働いています。従って、同大学は将来の日本語教師を育成するという重要な役割も担っているわけです。

しかし、学科としての基盤は未だに脆弱と言わざるを得ません。卒業時の到達目標が定められておらず、科目内容も使用教科書も、毎年のように変わっていました。そのため、卒業時の到達レベルは年度によってばらつきがありました。先述のように、卒業生の多くが教壇に立つのですから、年度によって日本語レベルに差があっていいわけがありません。また、トルクメン人講師たちも、自分の授業のことだけを考え、他科目との連関や学年間のつながりなどに目が向かない傾向にありました。つまり、同じ学科に所属していながら、それぞれがバラバラのことをしている状態だったのです。

そこで、これらの課題を解決し学生たちが必ず一定水準に達するように、次のような取り組みを始めました。

(1)みんなで教える

大学が作成する時間割では、基本的に1科目を1人の講師が教えることになっています。しかし、そうすると、コマ数の多い科目では特に、講師の力量が学生の理解度や定着度に直結してしまいます。また、人間同士相性もありますから、1人の講師だけで教えることにはデメリットの方が大きいと考えられます。

そこで、1科目を2~3人で教えるようにするとともに、学生たちがネイティブの日本語に触れられるよう、どの学年にも日本人が入るよう配置換えを行いました。さらに、教科書の進度計画を作成し、全員がこれに沿って授業を行うことにしました。これまで1人で教えてきたトルクメン人講師たちは、計画に沿って進めていくことに慣れておらず、はじめの頃は、2~3回分の授業をいっぺんにやってしまったり、次の講師への引継ぎを忘れたりしていましたが、1か月も過ぎる頃にはやり方に慣れ、引継ぎも日常業務の一つとして行われるようになりました。

(2)みんなで決める

1科目を1人で教えていた頃は、内容も教科書も授業担当講師が決めていました。しかし、その決め方は「学生が習いたいと言ったから」とか「使ったことのある教科書だから」という理由で、その科目を通じてどのような力が付くのかといったことは考慮されていないようでした。また、教科書を使い始めてみたものの、思ったほど使いやすくなかったり学生のレベルに合っていなかったりして、途中で変えてしまうことも度々でした。

日本語講師室の様子
日本語講師室

そこで、学期開始前に講師ミーティングを開き、各科目の内容と教科書を全員で相談しながら決めることにしました。その際は、まず学年全体を見渡し、4技能(聞・話・読・書)がバランスよく学べるように、或いは日本語学系科目と日本語教育系科目が過不足なく学べるように、内容を決定しました。そして、学生たちのレベルを考慮し、適当な教科書を選んでいきました。このように、はじめにしっかり考えて決めておけば、学期途中で迷ったり挫けたりすることはなく、最後までやり遂げることができます。学生たちも相応の力を付けているように見受けられます。

学期終了後にもミーティングを開き、各科目の進度と学生たちの到達度を全員で共有しています。

この他にも、教科書に沿った課テストを実施したり、週1回作文授業を取り入れたりと、新たな取り組みを通じて学習項目の定着と学生たちのレベルアップを図っています。また、卒業時の到達度と、各学年の到達度を、CEFR(ヨーロッパ共通参照枠)を用いて設定する準備も進めているところです。

2.10~20年後を見据えて

これらの実践は、華やかさも目新しさもなく、地味で多くの教師にとっては「当たり前」のことにすぎません。しかし、学科としての基盤を作る上で、今のアザディ大学に必要なことです。現在の取り組みがトルクメン人講師たちに定着するにはまだ数年かかるでしょう。そして、学科体制が整うまでにはさらに長い年月が必要となります。

思うようにいかないことも少なくはないですが、結果を急がず、将来を見据えて今必要な支援を続けていきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Dovletmammet Azadi Turkmen National Institute of World Languages/National Institute of Education of Turkmenistan
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
アザディ名称世界言語大学は、国内初の日本語専攻開設大学(2007年)であると同時に、国内唯一の日本語教師養成機関でもある。同大学での専門家の業務は、カリキュラム改善支援、トルクメン人教師支援(日本語・日本語教授の両面)、授業実施などである。トルクメニスタン国民教育大学は、教育省管轄の調査・研究機関で、いわゆる「大学」とは異なる。各分野の専門家たちが、教育に関する基礎調査の計画と実施、カリキュラムや教科書等の作成・改善、現職教師トレーニング等を行っている。専門家の執務室は同大学内にあり、初中等向け日本語教科書制作や現職教師研修、国内の日本語教育支援策の立案と提言などを行っている。
所在地 Bld.47, 2060 street, Ashgabat, Turkmenistan/Magtymguly sayoli str. 136, Ashgabat, Turkmenistan
国際交流基金からの派遣者数 日本語上級専門家:1名
日本語指導助手:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
東洋言語・文学部日本語専攻
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 2007年9月
  国際交流基金からの派遣開始年 2016年
 
コース種別
  主専攻(アザディ名称世界言語大学)
 
現地教授スタッフ
  アザディ名称世界言語大学:常勤4人非常勤1人
トルクメニスタン国民教育大学:なし
学生の履修状況
  履修者の内訳 1年:30、2年:20、3年:14、4年:9、5年:10
  学習の主な動機 日本語そのものへの興味、留学、観光旅行、将来の就職
  卒業後の主な進路 初中等・高等教育機関の日本語教師
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
JF日本語教育スタンダードA2/B1程度
  日本への留学人数 毎年2人

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