日本語専門家 派遣先情報・レポート
ウクライナ日本センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
ウクライナ日本センター
Ukraine-Japan Center "UAJC"
派遣先機関の位置付け及び業務内容
ウクライナ日本センター(UAJC)は、キエフ工科大学(KPI)内に事務所が設置されており、主に日本語教育事業、さらに文化交流事業を行っている。図書館も併設されており、1万2千冊ほどの蔵書がある。日本語専門家は、当センターの日本語講座の企画・会計業務を含めた運営、センターの授業を担当する他、現地教師指導や研修などコンサルトタント業務も実施する。適宜、必要に応じてウクライナ日本語教師会に対して側面的支援も行う。また、ウクライナの地方都市に点在する日本語教育機関に対しても、要請があれば教育支援と学習者奨励活動を行っている。
所在地
37, Peremohy Ave. NTUU "KPI", 4th fl., Kyiv, 03056 Ukraine
国際交流基金からの派遣者数
専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年
2006年

日本語教育を通して何ができるか

ウクライナ日本センター
福井 朋之

「日本語クラスに出席して、日本語を学ぶことは私の習慣の1つです」
このような言葉を画面越しに学生からちらほらと耳にします。

2022年2月の有事以降、全てが一変した現地に私はまだ赴任ができず、遠く離れた日本からリモートにて勤務にあたり、オンラインでの授業にて学生と接しています。

1.ウクライナ日本センターにおける日本語教育

私の派遣先であるウクライナ日本センター(以下、UAJC)は首都キーウにあるキーウ工科大学内に設置されている機関です。こちらでは、主に初級コース、中級コース、子どもコースや定期的にオンライン会話コースや日本語能力試験対策コースを提供しています。週2回の授業で、4~5年ここで日本語を勉強している学生も珍しくありません。一般的にウクライナでは日本語学習に関し、就職するためなどの外発的、道具的動機ではなく趣味や興味といった内発的、統合的動機の学生が大半を占めます。

UAJCでは、2022年2月の有事により、1ヵ月半ほどの休講期間があったものの、4月中旬にはオンラインにてコースを再開しました。学期開講時と比較しおよそ6割程度の学習者が授業を受けられる状況、環境になく、離脱をしてしまいましたが、ウクライナ西部や近隣諸国に避難をしながら授業に出席する学生も多くいました。非常事態と呼べるさなかにおいても日本語教育を提供する事ができた事はとても意味があると思っています。2022年10月より新学期が始まりましたが、有事以前と同程度のクラス数を維持する事ができています。

11月頃より、ウクライナ全土の電力不足及び計画停電により、授業を欠席せざるを得ない学生が増えました。UAJCでは全クラス授業を録画しオンデマンド対応、または別曜日に同レベルクラスへの振替出席の許可により対応をしています。また、録画によるオンデマンド対応に対し、学生のほうよりそれを見るだけでは物足りないという声がいくつかあがり、そこで宿題とはまた異なる副教材を作成し、個々に通信環境が整う時間帯に取り組んでもらえるようにするなど、適宜対応をしています。応急的な側面もありますが、このような状況においても日本語を学びたいという学生の意欲に少しでも応える事、またインフラなどの問題により受講ができない学生を取り残さないようフォローしていく事がコースの維持に繋がると考えています。

2.「日常」としての日本語学習

UAJCでは、どのような状況下においても日本語教育を提供するために、現地では講師、スタッフが尽力されています。私自身、現在の情勢下において、最も重要なのはコースの維持だと考えています。それは単に日本語教育を提供するだけではなく、日本語クラスに参加するという「日常」や「一時の平穏」が変わらずにそこにあるという意義があるからです。それに気付いたのは、冒頭で述べたような学生からの声でした。「非日常」の中で「日常」を感じる事ができるのはとても意味があると思います。授業中は和気あいあいと和やかでもあり、賑やかでもあります。一方、オンライン授業時間の開始前から集まり、学生同士、日本語学習とは関係なく雑談などをしている光景もよく見られます。そのような場を提供するために助力していきたいと思っています。

また、UAJC内には図書施設があり、およそ12,000冊の日本に関する蔵書があります。コース同様に2022年4月の再開後、徐々に来館者数も回復し、2022年9月頃からは1ヵ月でおよそ300人ほどが訪れています。こちらでも日本語や日本に触れられる、また交流を図れる場となっています。

「UAJC」の図書施設の写真
UAJCの図書施設

3.リモートにおける日本語教育

リモートでの勤務上、人間関係の構築も容易ではありません、また、できる事も限られもどかしく感じる事もあります。一度も現地に行った事がなく、遠く離れた日本から勤務する意義は何なのか、意味はあるのかと考えもしました。そんなさなか、先日、現地の関係者から「不安を抱えている現地の学生に外の空気を吸わせてくれているのは有難い」という言葉を頂き、自分が日本から何ができるか見えてきた気がしました。日本からだからこそできる事は何かを念頭に、リアルタイムで少しでも日本とのつながりを学生が感じる事ができるよう、授業以外でもさまざまな仕掛けを考えていきたいと思っています。

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