日本語教育通信 新聞・雑誌から見る現代日本 第33回
新聞・雑誌から見る現代日本
このコーナーでは、新聞・雑誌の記事を通して現代日本事情を紹介するとともに、日本語を教える先生方が新聞・雑誌の記事などの生教材をどうやって教材化し、中・上級の日本語の授業にどう活用できるかを提案していきます。
どうする? 環境問題――温室効果ガス25%削減
読む前に
現在の日本社会でもっとも広く使われているキーワードの一つが「エコ」ではないでしょうか。「エコ」とは、もともとは人間と自然環境の関係などを研究するエコロジー(ecology)の略語でしたが、様々なことばと結びつくことによって、たくさんの新語を生み出しています。「環境にやさしい」と言い換えることもできるでしょう。
世界同時不況の影響による厳しい状況の日本社会では、2009年に入ってから、「エコカー減税」や「エコポイント制度」(動画サイト)など、環境にやさしい製品を購入するときに税金の減額や購入特典をえられるようにすることで、経済を活性化しようという政策が打ち出されました。どんなことばにも「エコ」がつくようになってくると、「エコ」ということばを、厳密には定義しにくくなるのですが、そこに未来を明るくするイメージが含まれていることは確かです。
日本国内に限らず、「エコ」の背景にある環境問題は世界的な課題です。地球温暖化による海面上昇の影響で、国がなくなってしまうのではないかといわれている地域もあります。「グリーン・ニューディール」(Green New Deal)ということで、2008年後半から世界各国が地球温暖化、世界金融危機、石油資源枯渇の問題に真剣に取り組むようになってきました。
2009年8月末の日本の総選挙で民主党が圧勝し、9月に民主党を中心とする連立政権が誕生してから、鳩山首相が世界に向けて発した最初のメッセージは、「日本政府は、温室効果ガスの削減目標として、1990年比で言えば2020年までに25%削減を目指す」という非常に高い目標でした。この鳩山首相の国連演説でのメッセージは、国際的にも日本国内でも驚きをもって迎えられました。そして、これが実行可能な数字なのかという点で、様々な論議を呼んでいます。
今回取り上げる記事は、このメッセージに対して、環境問題の研究者と大手コンビニエンスストアのCEOがどのように考えているかという内容です。みなさんの国では、地球的なレベルの環境問題についてどのように考えていますか。今回、日本から発せられたメッセージをどう受け止めればいいのか、いっしょに考えてみましょう。
参考ウェブサイトA
- The Japan Times Online
“Impetus for a low-carbon world” (2009年9月19日)(英語)
http://www.japantimes.co.jp/weekly/ed/ed20090919a2.htm - 毎日小学生新聞 「科学 温室効果ガス 「25%削減」表明に世界が拍手」(2009年10月3日)
http://mainichi.jp/life/edu/maishou/mado/archive/news/2009/
20091003kei00s00s003000c.html
質問1: | みなさんの国でも議員の世襲がありますか。そのような世襲は、どのように思われていますか。周囲の人に聞いたりして、調べてみましょう。 |
質問2: | 記事(1)と記事(2)のグラフからどんなことがわかりますか。本文を読む前にグラフを見てわかったことをお互いに話し合ってみてください。例えば、世襲の割合が一番大きいのは、現職衆議院議員、次期衆院選(衆議院議員選挙)立候補予定者、閣僚、の3つのグループの中でどのグループでしょうか。また、与党の自民党と野党の民主党では、どちらのほうが世襲の割合が大きいでしょうか。 |
『日本語教育通信』2009年12月「新聞・雑誌から見る現代日本」第33回に掲載している記事は、著作権の関係で掲載ができません。
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読もう
質問3: | 温室効果ガス25%削減について、記事(1)の筆者と記事(2)の筆者はどのような立場をとっていますか。ア~エの中から正しいものを選んでください。 ア.記事(1)の筆者も記事(2)の筆者も、ともに明確にしていない。 イ.記事(1)の筆者も記事(2)の筆者も、ともに批判的である。 ウ.記事(1)の筆者も記事(2)の筆者も、ともに賛同している。 エ.記事(1)の筆者は批判的であるが、記事(2)の筆者は賛同している。 |
質問4: | 今後、温室効果ガスを削減していく方法として、記事(1)と記事(2)のもっとも異なる点は何ですか。次の文の空欄に当てはまることばとして、最も適当なものはア~エのどれですか。 記事(1)では A:
によらない国内努力で25%削減の自力達成が可能としているが、記事(2)では国内努力だけでなく、途上国に
B:
を持ちこんで支援するような
C:
をつくらなければ無理だとしている点。ア.A:環境技術 B:文明 C:ライフスタイル イ.A:具体策 B:ライフスタイル C:しくみ ウ.A:省エネ B:具体策 C:ライフスタイル エ.A:排出量購入 B:環境技術 C:しくみ |
質問5: | 記事(1)の筆者が提唱している「プラチナシティ・ネットワーク構想」では、どのような街づくりを目指していますか。 |
質問6: | 記事(2)で、温室効果ガス25%削減という目標の問題点はどこにあると筆者は考えていますか。 |
質問7: | 記事(2)の「地球環境型経済」というのはどのようなものですか。 |
読んだ後で
質問8: | みなさんは、「温室効果ガス25%削減」という目標を世界に向けて発表した日本についてどう思いますか。(鳩山首相の演説全文について知りたい人は、参考ウェブサイトBを見ましょう。)まず、自分の意見とその理由を書き出したあと発表し、その後でみんなで話し合ってみましょう。 |
質問9: | 今回取り上げた2つの記事では、温室効果ガス削減と経済発展をともに実現する方法を提案していますが、みなさん自身はこの点についてどう思いますか。自分の国の状況を考えて話し合ってみましょう。また、みなさんの「日々のくらし」では、温室効果ガス削減のためにどのようなことができますか。記事を参考にして考えてみましょう。 |
参考ウェブサイトB
- 首相官邸ホームページ「国連気候変動首脳会合における鳩山総理大臣演説」(2009年9月22日)
http://www.kantei.go.jp/jp/hatoyama/statement/200909/ehat_0922.html(日本語)
http://www.kantei.go.jp/foreign/hatoyama/statement/200909/ehat_0922_e.html(英語) - 新産業創造「プラチナシティ」(2009年10月1日)
http://platinum.mri.co.jp/node/118 - 青森県県土整備部都市計画課「青い森セントラルパーク 低炭素型モデルタウン構想への期待」パワーポイント(ppt)資料(2009年9月29日)
http://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kendo/toshikei/files/2009-1008-2207.pdf【PDF:外部サイト】 - 毎日jp「時代を駆ける:新浪剛史/6止 「ローソンイズム」造りたい」(2009年9月16日)
http://mainichi.jp/select/opinion/kakeru/news/20090916ddm004070175000c.html
<解説>
今回は、地球規模の問題である温室効果ガス削減に関する論説文とQ&A風の記事を選び、実際の教室活動の流れも意識して質問と記事を提示しました。
「読む前に」で記事本文の内容を理解できるように、テーマに対する問題意識を喚起し、キーワードについて考えることができるような練習を取り入れてみました。また、今回も背景知識として役立ちそうな参考ウェブサイトをここで紹介しました。なお、本文中のキーワードのリンク先として動画サイトも利用できるようにしました。
「読もう」では、論説文とQ&A風というスタイルの異なる2つの文章を比較しながら筆者の立場を問う問題、筆者の主張を理解する問題などを練習に含めました。
「読んだ後で」では、この記事に対する意見を述べる練習、環境問題についてより深く考えることを促す質問も含めました。参考ウェブサイトBはさらに詳しく調べたい人のためのものです。図やグラフが豊富なパワーポイント資料(pdf版)にもリンクしています。
(林敏夫・浜田盛男/関西国際センター日本語教育専門員)