日本語教育通信 文法を楽しく 「のだ/んだ」(1)
文法を楽しく
このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。
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「のだ/んだ」(1)
今回と次回は「んです/んだ」、「のです/のだ」について考えます。次の(1)の会話を見てください。
A:どうして遅れたんですか。
B:ごめんなさい。バスが来なかったんです。
(1)には「んです」が2つ出てきています。「んです」の代わりに「のです」、「んだ」の代わりに「のだ」を使うことができますが、「のです/のだ」のほうが「んです/んだ」よりフォーマルで、硬い感じがします。
「のだ/んだ」の基本的な意味は「事情説明」です。「事情」というのは、「理由」や「わけ」という意味で、「事情説明」というのは、ある事柄に対して「理由」や「わけ」を説明するということです。
「事情説明」は話し手が事情を説明する場合と、事情説明を求める(事情を聞く)場合があります。
(1)では、Aが「んです」を使ってBに説明を求めているのに対し、Bは遅れた理由を説明するために、「バスが来なかった」の後ろに「んです」を付けています。
「理由」や「わけ」を説明することは、場合によっては、弁解がましい(=責任逃れの言い訳をする)、主張が強すぎる、押し付けがましく(=一方的に自分の意見を押し付ける)聞こえることがあります。
もう一度(1)の会話を見てください。Aが遅れた事情を聞いているのに対して、Bは「ごめんなさい」と謝って、次に遅れた事情を説明しています。(1)では「ごめんなさい」と謝っているので、主張が強すぎるという感じはしませんが、次のように「んです」が重なると、弁解がましく、また、押し付けがましくなります。
A:どうして遅れたんですか。
B:バスが来なかったんです。あのバスはいつも遅れるんです。だから、仕方がないんです。
「のだ/んだ」を使った質問文も、状況によって、また、イントネーションを強くしたりすると、意味合いが変化していきます。次の(3)1は挨拶代わりのように、軽く聞いているだけですが、(3)2,3となるにしたがって、説明を求める度合いが強くなります。
1.A:こんにちは。いいお天気ですね。何をしているんですか。
B:いい天気だから、チューリップの球根を植えようと思って。
A:そうですか。いいですね。
2.A:Bさん、何をしているんですか。
B:いい天気だから、チューリップの球根を植えようと思って。
A:ああ、そうでしたか。何をしてらっしゃるのかと思っていましたが。
3.A:Bさん、何をしているんですか。
B:いい天気だから、チューリップの球根を植えようと思って。
A:今球根など植えなくてもいいですよ。ちょっと早すぎますよ。
(3)-2では(3)-1より答えを求める気持ちが強く、 (3)-3では、「問いただし」(=厳しく追及する)や「とがめ」(=注意する、非難する)の気持ちが強くなっています。
「のだ/んだ」を「いつ使うのか」は日本語を勉強する人には難しい問題ですが、同時に「いつ使わないか」も難しい問題です。というのは、日本語学習者が作る文を見ていますと、「のだ/んだ」の脱落(使えない、落ちてしまう)が多いと同時に、それ以上に、「のだ/んだ」の多用(使いすぎ)が多いからです。
では、少し練習をしてみましょう。次の「のだ/んだ」を使ったaと、使っていないbと、どちらかがより自然か考えてください。
1.<自己紹介で>
- ポン:
- ポンです。タイのバンコクから(a.来ました b.来たんです)。今、日本語学校で日本語を(a.勉強しています b.勉強しているんです)。
2.<日本語コースが終わって、修了式のスピーチで>
- ホセ:
- 最後に、私は先生方に感謝(a.したいです b.したいのです)。先生方はとても親切で、(a.やさしかったです b.やさしかったのです)。
3.<あなたはビルの8階にいます。窓から下を見ると、傘を差して歩いている人が見えます。それを見て>
- あなた:
- あ、雨が(a.降っている b.降っているんだ)。
4.<九州のお土産を持って先輩を訪ねました。>
- 私:
- これ九州のお土産です。
- 先輩:
- そうですか。九州に(a.行きました b.行ったのです)ね。
5.<キムさんが出かけるのを見て、リーさんは>
- リー:
- キムさん、こんな時間にどこへ(a.行きます b.行くんです)か。もう遅いですよ。
答えは1-aa、2-aa、3-b、4-b、5-bです。
1は自己紹介の場面ですが、相手にはじめて会うわけですから、「事情説明」はありません。紹介の場面では「のだ/んだ」が使われないのが普通です。2も「事情説明」というより、単に感謝を述べるわけですから、「のだ/んだ」は不要です。「のだ/んだ」を付けると、感情が入りすぎる言い方になります。3は傘を差している人を見ての発話ですから、「事情説明」になります。もし、窓の外を見て雨に気がついた場合は、事情はないわけですから、単に「あ、雨が降っている。」となります。4は、九州のお土産を目の前にしての会話ですから、九州へ行った根拠(事情)があるということで、「のだ/んだ」が必要です。5は「こんな時間に」という表現があることからもわかるように、「問いただし・とがめ」になるので、「のだ/んだ」が必要です。
「のだ/んだ」は「事情説明」を表すということから、「納得」の意味用法も持ちます。
(4)では道が込んでいる事情を推量して、理解し、納得していると考えられます。
次の(5)も「納得」を表しています。
(5)のような「納得」の文で「推量」の意味合いが強くなると、「のだ/んだ」ではなく「のだろう/んだろう」「のかもしれない」が用いられます。(「かもしれない」の前には通常、「ん」ではなく「の」が来ます。)
(7)山田さんがまだ来ない。きのう用事があると言っていたが、やっぱり来られないんだろう/来られないのかもしれない。
「だろう」「かもしれない」の前に「の/ん」が付くかどうかについて、少し練習をしてみましょう。次のaとbのどちらか、より自然なほうを選んでください。
1.この本を読んでください。いろいろなことが(a.わかるでしょう b.わかるんでしょう)。
2.もし敬語がわかれば、目上の人と話すのも簡単に(a.なるかもしれません b.なるのかもしれません)。
3.彼は失敗を経験したから、人の気持ちがわかるように(a.なったでしょう b.なったのでしょう)。
答えは1-a、2-a、3-bになります。
1は「本を読むと、いろいろなことがわかる」、2は「敬語がわかると、目上の人と話すのが簡単になる」という、単なる因果関係(原因と結果)を述べているので「の/ん」は不要です。一方、3は、「失敗を経験した」という事情があったから「人の気持ちがわかるようになった」、ということを推量し、理解し、納得しているので「の/ん」が必要になります。
「のだ/んだ」は、申し出たり、許可を求めるときに「~んですが、」「~のですが、」の形で前置きとして用いられます。
(9)テレビの音が大きいのですが、音を小さくしていただけませんか。
(10)午後銀行へ行きたいんですが、かまいませんか。
(8)~(10)は「のだ/んだ」を用いて丁寧に事情を説明し、後ろの文で許可を求めるという形をとっていますが、これも「のだ/んだ」が持つ「事情説明」ということから説明できます。
(市川保子/日本語国際センター客員講師)