日本語教育通信 文法を楽しく 「そうだ/ようだ/らしい」(2)
文法を楽しく
このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。
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「そうだ/ようだ/らしい」(2)
前回に続いて、今回は「そうだ/ようだ/らしい」の(2)に入ります。
(1)では「そうだ/ようだ/らしい」の違いを、主に「情報取得時の状況」と「関心の度合い」から説明しました。今回はそれらを、「情報」に関することと、「話し手の判断」に関することとしてまとめ、説明を続けます。
話し手が何らかの「情報」を得て、自分なりの「判断」をして想像したり、関心を抱いたり、評価したりするわけですが、そのようなプロセスを経て表現するものは、「そうだ/ようだ/らしい」以外にも多くあります。
(2)このケーキはおいしいだろう。
(3)このケーキはおいしいだろうと思う。
(4)このケーキはおいしいかもしれない。
(5)このケーキはおいしいにちがいない。
これらの「と思う/だろう/だろうと思う/かもしれない/にちがいない」のグループを①としておきます。
次に、前回説明した(6)~(9)の「そうだ/ようだ/らしい」のグループを②としておきます。
(7)このケーキはおいしいようだ。
(8)このケーキはおいしいらしい。
(9)このケーキはおいしいそうだ。
そして、次の「はずだ」「わけだ」グループを③とします。
(11)このケーキはおいしいわけだ。
①②③のグループは、いずれも話し手が「情報を得て判断」をするものですが、①②③の違いは、話し手の情報への依存度(情報をどれだけ知り、それに頼って判断するか)の違いによります。①から③へ行くほど、話し手は情報に依存して判断をします。逆にいえば、③から①へいくほど、情報よりも話し手の判断(ここでは主観と言ったほうがいいでしょう)のほうが強くなると言えます。情報への依存が大きいほど判断は客観的になり、逆に情報より判断のほうが強いと主観的になります。
そのことを図で表すと、次のようになります。
では、具体的な例で考えましょう。
例1:
あなたが外出から戻ってみると、家の中が少し変です。引き出しが開けられ、中のものが外に出ています。テーブルに置いておいた花瓶も倒れています。
この時、あなたはどう言うでしょう。
(13)泥棒に入られたにちがいない。
これらは①グループの表現ですが、あなたは泥棒に入られたとは思うが、はっきりとした自信はありません。あくまでもあなたの想像でしかありません。
(15)泥棒に入られたらしい。
(14)(15)のように②のグループになると、あなたの確信もやや強くなっています。引き出しの中のジュエリーもお金もなくなっていることがわかって、想像が確信に近くなっています。
あなたはふと庭に面した窓を見ました。窓ガラスが割られているではありませんか。そこで、あなたは③グループを用いて、次のように言うことができるでしょう。
あなたは家の中が荒らされていることに加えて、窓ガラスが割られていることを知って、泥棒に入られたことを100%確信したわけです。
例2:
○○国が金星にロケットを打ち上げようとしています。それを聞いて、あなたならどう思いますか。まず、打ち上げが成功するか否かを判断するための情報として次のようなものが考えられるでしょう。
- ○○国のロケットの製造技術
- ○○国の今までのロケット打ち上げの成功率
- 金星到着の困難度
- 打ち上げ予定日の気象・天候、など
これらの情報を得て、また、情報の依存度によって、ある人は①の「と思う」を使って「金星ロケットは成功すると思う」と言い、ある人は②の様態「そうだ」を用いて「金星ロケットは成功しそうだ」、ある人は③の「はずだ」を用いて、「金星ロケットは成功するはずだ」と言うでしょう。「成功すると思う」より「成功しそうだ」のほうが、「成功しそうだ」より「成功するはずだ」のほうが、話し手は情報を頼りにして、つまり、より客観的に表現していると言えます。
では、問題です。次のような場合、あなたは①~③のどの表現を使うでしょうか。( )の中にabcのいずれかを入れてください。
- 1.○○国のロケット開発力はよくわからないが、熱心に計画を進めているとニュースでも言っていたから、()。
- 2.○○国は何年もかけて研究をし、実験をしてきている。ロケットも最新式のもので、当日の気象も問題ないので、()。
- 3.○○国の意気込みがすごい。前回の反省に立って改良してきているので、今度は大丈夫だろう。期待したい。()。
- a.成功しそうだ
- b.たぶん成功するだろう
- c.きっと成功するはずだ
皆さん、どうですか。難しかったですか。
答えは、1-b 2-c 3-aです。
1は「開発力はわからない」と推量で判断しており、3は情報に基づきながらも期待による判断が強いです。一番客観的に判断しているのは2と考えられます。
では、ここで皆さんが混乱しやすい、③の「はずだ」と「わけだ」について見ておきましょう。両者の基本的な違いは次のようです。
わけだ:他のすでに起こった事実・事柄に基づく判断
「よい物は売れる」ということについて考えましょう。日本は今景気があまりよくないので、値段を下げないと物がなかなか売れません。消費者は安い物を手に入れようとするからです。でも、一方で、高い物でも本当によい物は売れています。高くても本当においしい料理を出すレストランは流行っているし、品質のよいバッグや洋服は、高くても売れています。
[会話]
<洋品店で>
店員:店長、このバッグは高すぎるから、値段を下げませんか。
店長:いや、よい物は必ず売れるはずだ。もう少し待ってみよう。
<1週間ほどして、バッグが2つ売れた。>
店長:ほら、売れただろう。
店員:そうですね。あのバッグは本当によい物だから、売れたわけですね。
お客さんはよく知っていますね。
店長は長年の経験や知識から「よい物は売れる」という判断(確信)をしています。その判断(確信)は特に何かが起こったためではありません。一方、店員は、売れないだろうと思っていたバッグが2つも売れたという、すでに起こった事実・出来事を見て、納得して「売れたわけですね」と「わけだ」を使っています。
「はずだ」と「わけだ」のどちらを使ってもよい場合があります。
A:ヨンさんって歌が上手ですね。
B:ああ、彼は国ではプロの歌手だったらしいですよ。
A:ああ、それで上手な(はずです/わけです)ね。
この会話で「はずだ」を選んだ場合は、話し手は自分の経験や知識・常識に基づいて、「プロの歌手なら上手なのは当然だ」と判断していると考えられます。一方、「わけだ」を選んだ場合は、ヨンさんが歌手であるという事実を知って、「ああ、そうだったのだ」と、事実に基づいて、納得して判断していると考えられます。
(市川保子/日本語国際センター客員講師)