日本語教育通信 文法を楽しく つもり(2)

文法を楽しく
このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。

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つもり(2)

 「つもり(1)」では、「意志」を表す「~(る)つもりだ」(例:私は事実を書くつもりだ。)と「信念・その気」を表す「~(た)つもりだ」(例:私は事実を書いたつもりだ。)を勉強しました。今回は、「意志」「信念・その気」の過去の表現「~(る)つもりだった」「~(た)つもりだった」と、「~つもりだ」の否定について勉強します。

1.「意志」を表す「~(る)つもりだ」の過去


 (1)で夫は、午後出かけるという「意志」を妻に伝えています。しかし、3時間後になっても夫が家にいるので妻が尋ねると、雨のため出かけるのを取りやめたと答えました。その時夫は「出かけるつもりだった」と言っています。これは夫が3時間前を思い出して、その時の意志を過去のこととして伝えています。
 (2)も、テレビを見る前は早く寝ようと思っていたことを、「早く寝るつもりだった」と過去のこととして述べています。
 このように「意志」を過去のものとして伝える場合は、「~(る)つもりだ」が「~(る)つもりだった」になります。
 次の図は、(1)(2)を図式化したものです。

(1)(2)を図式化した画像1

(1)(2)を図式化した画像2

(4)

ATMから取り忘れの15万円盗んだ男の画像 15万円

 (3)(4)は、前回の宿題ですが、(3)でコンビニ店員の男は、その時(中学3年の女子を誘拐した時)のことを振り返って、その時は「その女の子と結婚したかった」と言っています。また、(4)でも、逮捕された男は、その時(ATMで誰かが取り忘れた15万円を持ち帰ろうとした時)を振り返って、その時は「警察に届けようと思っていた」と言っています。

2.「信念・その気」を表す「~(た)つもりだ」の過去

 (5)は、私はその時はプロポーズを断ったつもりなので、一件落着したと思っていたら、実は相手はそうは思っていなかったということを示しています。(6)もその時は自分としては分かったと思った、しかし、今当時のことを思い出すと、そうではなかったということを表しています。(5)(6)を図式化すると、次のようになります。

(5)(6)を図式化した画像1

(5)(6)を図式化した画像2

 宿題の残りの2題は次のようでした。

(7)

検査をしているが不良品が混じっているのを示した画像

 (7)でこの人(話し手)は、その当時(検査した時)を思い出し、自分としては「慎重に検査した」と思ったのに、結果的には「不良品が混じっていた」ことを知ったことになります。また、(8)では、この人(話し手)は試験当日を思い出し、自分としては「試験の前の日に完全に覚えた」と思ったのに、結果として試験場では思い出すことができなかったということになります。

 では、次に、「~(る)つもりだ」「~(た)つもりだ」の否定について考えます。

3.「意志」を表す「~(る)つもりだ」の否定

 「意志」を表す「~(る)つもりだ」の否定には、「~ないつもりだ」、「~(る)つもりはない」、そして「~(る)つもりじゃ/ではない」の3つがあります。

1)「~ないつもりだ」VS「~(る)つもりはない」

 (9)で最初Bは、「行かない」という自分の意志を表明しています。「行く」に対して、単に「行かない」を選んだということになります。Bが「行かないつもりだ」と言ったのに対して、Aがさらに「行かないの?」と念を押してきたので、強く、明確に「行くつもりはない」と自分の意志を告げました。このように「~(る)つもりはない」は「~ないつもりだ」より、より強く否定の意志を表します。
 「誰に何と言われても」のように逆接を表す「ても」や、「絶対」「決して」などの副詞とともに使われることが多いです。

2)「~(る)つもりじゃ/ではない」

 「~(る)つもりじゃ/ではない」は、「(そう見えるかもしれないが、)そうではない、そういう意図はない」という意味を持ちます。

 「~(る)つもりじゃ/ではない」は、後ろに「が」や「けど」が付いて、一度言ったこと(「急いでくれる」と頼んだこと)に「それは急かす気持ちからじゃない」と注釈を付けたり((10))、前置き的に断りを入れたり((11))する時に用いられることが多いです。

4.「信念・その気」を表す「~(た)つもりだ」の否定

 「信念・その気」を表す「~(た)つもりだ」の否定にも、「~なかったつもりだ」、「~(た)つもりはない」、そして「~(た)つもりじゃ/ではない」3つの形があります。

 (12)でBは「言わなかったと思う」と主張し、Aのさらなる追及に「そういう意図はない」と否定しています。「(言わ)なかったつもりだ」と「(言っ)たつもりはない」の否定の強さはほとんど同じですが、後者は相手から言われたことに対して弁明する意味で用いられることが多いです。

 「~(た)つもりじゃ/ではない」は、これは、「(そう見えるかもしれないが、)そんな気はなかった」という意味を持ちます。

 最後に「意志」「信念・その気」を表す「~つもりだ」の過去の否定についてですが、紙面の関係で、例文のみ紹介します。いずれも基本的には、話し手がその時のことを思い出し、過去のこととして述べているということになります。逆接を表す「が・けれども・のに」などに続くことが多いです。

(市川保子/日本語国際センター客員講師)

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