日本語教育通信 文法を楽しく よう(1)
文法を楽しく
このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。
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よう(1)
今回から「ようだ」「ように」「ような」として使われる「よう」について勉強します。まず、次の詩を読んで「よう」がいくつあるか見つけてください。(これは私が小学生の時に書いた詩に、手を入れたものです。)
うしろから誰かがつけてくるような気がする。
ピタピタピタ・・・。
私が速く歩くと、後ろの人も速く歩く。
ゆっくり歩くと、後ろもゆっくり歩く。
誰だろう。
男の人のようだ。こわい・・・。
後ろを振り返って、ついてこないように言おうか。
それもできない。
こんなことにならないように、もう少し早く帰宅すればよかった。
母が言ったように、早く帰ればよかった。
・・・もう少しで家だ。何も起こらないように祈る。
あ、家に着いた。
家が天国のように見える。ここまで来れば安心だ。
後ろを振り返ってみる。
誰もいない・・・。
なあんだ、自分の足音だったのだ。
(蛇足ですが、この詩は「こわい気持ちがよく出ている」と言って、先生にほめられました。)
さて、この詩の中には「よう」が7つ出てきます。意味用法の似ているものを出てきた順に並べると、次のようになります。
- a.うしろから誰かがつけてくるような気がする。(推量)
- b.男の人のようだ。(推量)
- c.ついてこないように言おうか。(指示・命令)
- d.何も起こらないように祈る。(祈願・願望)
- e.こんなことにならないように、もう少し早く帰宅すればよかった。(目的(結果))
- f.母が言ったように、早く帰ればよかった。(例示)
- g.家が天国のように見える。(たとえ(比喩・比況)*1)
意味用法としては、abは頭の中でそうじゃないかと考える推量、cは「~ように言う」の形での指示や命令、dは願望・祈りを表しています。eは「~ように」が目的(結果)を表し、「こんなこわいことにならないために」という意味を、fは母が言ったことを例として示しています。最後のgは、家を天国にたとえている比喩・比況の「よう」になります。
以上にいくつか他の重要な意味用法ものを加え、まとめると、次のようになります。
意味用法 | 主な形 | 「よう」の前に来る語 | |
---|---|---|---|
1 | 推量 | ようだ ように思う/ように感じる ような気がする/ような感じがする |
動詞*2の普通形 イ形容詞(い/かった/くない/くなかった) ナ形容詞(な/だった/じゃない/じゃなかった) 名詞+の/だった/じゃない/じゃなかった |
2 | たとえ (比喩・比況) |
ようだ ように思う/ように感じる ような気がする/ような感じがする |
動詞の普通形 名詞+の/だった/じゃない/じゃなかった |
3 | 指示・命令 | ように言う/ように言ってください | 動詞の普通形 |
4 | 祈願・願望 | ように祈る/ように願う | 動詞の普通形 |
5 | 変化 | ようになる | 動詞の普通形 |
6 | 努力・勧告 | ようにする/ようにしてください | 動詞の普通形 |
7 | 目的(結果) | ように~ | 動詞の普通形 |
8 | 例示 | ように~ ような名詞2に/を/は~etc. |
動詞の普通形*3 名詞1+の*3 |
9 | 前置き | ように~ | 動詞の普通形 ~の*4 |
(動詞の普通形は「~る/~た/~ない/~なかった」を指す。また、「じゃない/じゃなかった」は「ではない/ではなかった」にも置き換えられる。)
表の順序に従って、今回「よう」(1)では「推量」と「たとえ(比喩・比況)」の「ようだ」について考えます。
1.「推量」の「ようだ」について
1本の木にピンクの花が咲いています。それを見てあなたは、はっきり自信はないが、形や色、そして季節が春であることなどを考えて、「たぶん桜の花だろう」と想像します。この想像が「推量」と呼ばれるもので、日本語にはいろいろな言い方があります。
(1) | これは桜の花だと思う。 |
(2) | これは桜の花だろう。 |
(3) | これは桜の花にちがいない。 |
(4) | これは桜の花かもしれない。 |
(5) | これは桜の花のようだ。 |
(1)~(5)は、「これは桜の花だ。」という断定的な言い方をしないで、相手に婉曲にやわらかく伝える場合にも使われます。(1)~(4)が話し手の主観に頼っているのに対して、(5)の「ようだ」は、もう少し客観的な情報(花の形、色、匂い、自分の過去の記憶など)に頼って、判断しています。
「桜の花のようだ」は「ようだ」が名詞につながった例ですが、動詞の場合は、「ようだ」の前に普通形が来ます。
(6) | 桜の花が咲いたようですね。 |
(7) | 桜の花がまだ咲かないようだ。 |
(8) | 桜の花はもう散ってしまったようだ。 |
動詞の例をもう一つ挙げましょう。あなたは朝起きた時、頭痛がしました。少し寒気もします。そんな時、あなたはどう言うでしょう。
(9) | 風邪を引いたかもしれない。 |
(10) | 風邪を引いたのかな。 |
(11) | 風邪を引いたにちがいない。 |
(12) | 風邪を引いたようだ。 |
(13) | 風邪を引いたらしい。 |
(13)の「らしい」は、「彼は今日は仕事を休むらしい」のような伝聞的な推量を表しますが、「ようだ」と同じように、自分の体の症状に対する推量にも使うことができます。
「ようだ」は多くの場合、「ように思う/ように感じる/ような気がする/ような感じがする」と言うこともできます。
(14) | 風邪を引いたように思う/感じる。 |
(15) | 風邪を引いたような気/感じがする。 |
これらは「ようだ」とほぼ同じ意味を表しますが、「ように感じる」「ような気/感じがする」は「ように思う」よりは漠然とした感覚が伴います。
2.「たとえ(比喩・比況)」の「ようだ」について
日本で桜を見たあなたが、自分の国でピンクの花が咲いているのを見たとします。花の名前は分かりませんが、次のように言いました。
「きれいだな。日本の桜の花のようだ。」
この「(日本の)桜の花のようだ」は、本当は桜の花じゃないけれど、「桜の花に似ている」という意味になります。
このように実際はそうではないけれど、何かにたとえて言う時に「ようだ」が使われます。
(16) | これは日本の桜の花のようだ。 |
(17) | これは日本の桜の花に似ている。 |
(18) | これは日本の桜の花そっくりです。 |
(19) | これは日本の桜の花みたいだ。 |
(19)の「みたいだ」は「ようだ」より話しことば的な言い方で、推量の意味としても使われますが、ここでは「たとえ(比喩・比況)」を表しています。カジュアルな会話で用いられ、特に女性は「だ」を省略することが多いようです。
(20) | このプラスチックのハンバーグは本物みたい。 |
(21) | オーディションに受かるなんて夢みたい。 |
次の(22)~(23)は「ようだ」「みたいだ」に動詞がつながった例ですが、「たとえ(比喩・比況)」を表す「ようだ」も、(24)(25)のように、「ように思う/感じる」「ような気/感じがする」と言うこともできます。
(22) | 夢を見ているようです。 |
(23) | 夢を見ているみたいです。 |
(24) | 夢を見ているように思う/感じる。 |
(25) | 夢を見ているような気/感じがします。 |
注
- *1:比喩・比況とも「一つの事物を他の事物にたとえること」を指します。「~ようだ」「~みたいだ」を用いる「たとえ」を特に比況と呼びますが、本文では比喩=比況ととらえています。
- *2:ここでは「動詞」の中に補助動詞「ている・てある・てしまうetc.」などを含めます。
- *3:参考のために、「例示」の例文を挙げます。
(26)私が言うようにやってください。
(27)あなたのような人には会ったことがない。
名詞1+の
名詞2
- *4:参考のために、「前置き」の例文を挙げます。
(28)皆さんご存じのように、富士山は世界文化遺産に登録されました。
(市川保子/日本語国際センター客員講師)