日本語教育通信 文法を楽しく 「授受表現」(2)
文法を楽しく
このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。
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授受表現(2)
前回の「授受表現(1)」では、「(て)あげる」と「(て)くれる」の使い分けについて、応用的な部分を見てきました。今回も応用的な部分をもう少し考えます。
2.恩恵・利益の授受から感謝・尊敬の表現へ
次の会話の状況を想像してください。
ある日あなたは、友達の林さんが持っているCDを貸してほしいと思ったので、林さんにお願いしました。そして、そのことを他の友達(森さん)に話しました。
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ここで用いられる「貸してくれる」「貸してもらう」は、実際にCDの貸し借りですね。では、次はどうでしょう。
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(2)の「教えてくれる」「教えてもらう」は、物ではなく「教える」という抽象的な事柄のやり取りになっています。抽象的な事柄ではあるけれど、そこには「教えること」のやりもらい、恩恵・利益の授受が存在しています。
では、次の(3)の会話はどうでしょうか。
ある日、あなたと林さんは口喧嘩をしました。林さんはあなたの気持ちを誤解したようです。それで、後日、あなたは林さんに自分の本当の気持ちを説明しました。(3)は、自分の気持ちを説明したあとの会話です。
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会話(3)に出てくる「分かってくれる」「分かってもらう」は、物のやり取りや具体的な事柄のやりもらいではありません。あなたは林さんがあなたの気持ちを理解したことに対して、恩恵・利益というより、むしろ感謝やありがたい気持ちを感じて、「林さんに私の気持ちを分かってもらった」または、「林さんは私の気持ちを分かってくれた」と表現しています。
このように「~てくれる」「~てもらう」などの授受表現は、具体的な恩恵・利益のほかに感謝やありがたい気持ち、さらには相手に対する尊敬・尊重の気持ちを表すこともあります。
次は、医者と患者の会話です。会話を注意して読んでください。
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難しいところは「病気の原因や治療法をよく分かってもらってから」の部分ですね。これは構造的には、「医者が [患者に 病気の原因や治療法を 分かって]もらう」なので、原因や治療法を分かるのは患者で、医者はそれによって感謝やありがたい気持ちを感じ、また、患者に対する尊敬・尊重を表しているということになります。
3.「(て)くださいvs(て)あげて/やってください」
授受表現においては「誰が、誰のためにするのか」という「人の関係」が重要ですが、では、(5)の依頼表現(太字部分)は何人の人が関わっているかを考えてください。
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状況としては、図のように、(5)は 2人、(6) は3人と考えられます*1。 (5)は、話し手が相手に手伝ってほしいと頼んでいる、したがって関わっているのが「2人」に対し、(6)は「Cさんが忙しいから、Cさんを手伝ってほしい」とAさんが頼んでいる、したがって関わっているのは「3人」になります。(6)で、Aさん(話し手)が自分のこととして頼む場合は「手伝ってください」、Cさんのことを中心に考えている場合は「手伝ってあげてください」になります。もし、CさんがAさんの家族などの場合は、「手伝ってやってください」となります。
もう一つ大切なことは、「くれる」は依頼や命令、意志、願望などの働きかけの表現はとることができません。
- ×手伝ってくれてください。
- ×手伝ってくれたい。
- ×手伝ってくれろ*2。
したがって、「Cさんが忙しいので、手伝ってくれてください」などとは言えません。
では問題です。会話が少しややこしくなっているので、気をつけてください。
【問題】次の会話を読んで、( )の中から適切なものを選んでください。 | |
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答え:やって
この会話のやりもらい関係には、何人の人が関わっていますか。そうですね。Aさん、Bさん、そして、Bさんの弟の3人ですね。
では、誰が誰にギターをあげたいと思っていますか。そうですね。BさんがAさんに弟のギターをあげたいと思っているのですね。
もし、関係がAさんBさん2人だけなら、「もしよかったら、(私のギターを)もらってくれませんか」となりますが、弟が関係しているので、「もしよかったら、もらってやってくれませんか」になります*3。Bさんには、「弟のためにもらってくれたら、うれしい/ありがたい」という気持ちが入ります。
注
- *1:ABCが複数の場合も考えられるが、ここでは単純化してABC一人ずつとして考える。
- *2:一部の方言では、「(て)くれろ」という形式をとることがある。
- *3:弟が関係している場合でも、Aさんが弟のことを自分のこととして頼む場合は、「もしよかったら、(弟のギターを)もらってくれませんか」も可能。
(市川保子/日本語国際センター客員講師)