日本語教育通信
文法を楽しく「表現意図 -理由-」
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このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。
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表現意図 -理由-
「表現意図」シリーズ8回目の今回は、「理由表現」を取り上げます。
「理由表現」というと、「~から・~ので・~ために」などの表現が思い浮かびますが、今回は「~おかげで・~せいで」のような評価の入る表現、「~の(ん)だから」「~ものだから」のような言い訳や説明に使うもの、そして、その表現の中に「~から」を含む「~からか・~からこそ・~からには」を取り上げます。
1.話し手の「評価や気持ちの入る」表現、「言い訳や説明を表す」表現
- (1) <親しい知り合い同士の会話>
- A:
- お子さんの入試はどうでしたか。
- B:
-
- a.先生の指導がよかったおかげで、志望校に入れました。
- b.先生の指導が今一つだったおかげで、失敗しました。
- c.先生の指導が今一つだったせいで、失敗しました。
- d.あまり勉強しなかったものですから、失敗してしまいました。
- e.あまり勉強しなかったわけですから、失敗しても仕方ないですね。
- f.あまり勉強しなかったの(ん)ですから、失敗しても仕方ないですね。
会話(1)の、a~cでは話し手の評価や気持ちが入る理由表現、d~fでは言い訳や説明・解説を表す表現を取り上げています。
まず、a~cについて見ていきましょう。
「頭が痛いので、今日は仕事を休む」の「~ので」、「用事ができたから、パーティには行かない」の「~から」などは、中立的な見方から理由を述べることが多いですが、abの「~おかげで」やc「~せいで」には話し手の気持ちや評価判断が入ります。
aの「~おかげで」は後文の主語(ここでは話し手)が「利益」を受けたことを表します。
①あなたが手伝ってくれたおかげで、仕事がうまくいったよ。
②皆さんのおかげで、無事終了することができました。
aの「~おかげで」は利益を受けたことを表すと同時に、相手に、また行為をしてくれた人に対する感謝を含む場合が多いです。
「~おかげで」が利益ではなく、むしろ不利益を被ったことを表す場合もあります。bを見てください。bの「~おかげで」には話し手の、相手や被害を与えた人に対する非難や皮肉の気持ちが入ってきます。
③(あなたが)間違った道を教えてくれたおかげで、倍の時間がかかってしまったよ。
④君のおかげで、何もかも失敗してしまった。
c「~せいで」はaの「~おかげで」とは正反対で、「不利益」を表します。かなりはっきりと相手または行為者に対する批判・非難が入ります。
⑤あなたのせいで失敗してしまった。
⑥課長が口を出したせいで、仕事がムチャクチャになってしまった。
一方、⑦のように、自分に対する批判や反省を表すこともあります。
⑦寝る前にコーヒーを飲んだせいで、ゆうべは眠れなかった。
「~せいで」とbの「~おかげで」を比べると、「~おかげで」には冗談で言っているような含みが入るのに対し、「~せいで」は批判・非難の度合いが強くなります。
では、次にd~fに移りましょう。
d「~ものだから」の「もの」は、もともとは物体の「物」です。「物」は目に見える具体的、客観的なものです。話し手は、自分の理由の説明を「ものだ」を使って客観化させ、「客観的に見てそうなのだから、(わかってほしい)」という言い訳・弁解をしています。「~ものだから」の主語は話し手自身の場合も、第3者の場合もあります。⑧の「~ものだから」文の前文の主語は「子供」、⑨は「私」になります。
⑧<Aがあくびをしている>
- A:
- あーあ。
- B:
- 眠そうね。ゆうべ寝なかったの?
- A:
- うん、子供が夜泣きをするものだから、何度も起こされて……。
⑨A:あーあ。
- B:
- 眠そうね。ゆうべ寝なかったの?
- A:
- うん、寝る前にコーヒーを飲んだものだから、なかなか寝付けなくて……。
「~わけだ」は根拠に基づいて論理的に引き出される結論を述べます。ある事実を根拠にして、当然の成り行きとして後件が起こることを表します。e「~わけだから」は、「~わけだから、~する/なるのは当然だ」という形で使われることが多く、理論的に説明や解説、理由を述べるときに使われます。「~わけだから」の主語は多くの場合話し手以外の人や事柄になります。
⑩あなたは皆から選ばれたわけだから、頑張るのは当然だ。
「~わけだから」の主語が話し手自身(私)になる場合は、自分を少し突き放して客観的に、または他人事のように見ている言い方になります。
⑪私も皆から選ばれたわけだから、頑張らなければならない。
f「~の(ん)だから」は、「~ものだから」「~わけだから」より主観的な表現になります。やや感情的に理由を主張して、後文で「だからこのようにしてほしい/したほうがいい/してください」と働きかけることが多いです。「~の(ん)だから」の主語は話し手自身の場合も、第3者の場合もあります。
⑫私は知らないの(ん)だから、聞かないでください。
⑬彼が知っているの(ん)だから、彼に聞いてください。
以上、(1)で取り上げた文の形(表現文型)は次のようになります。
- a.~おかげで1
- b.~おかげで2
- c.~せいで
- d.~ものだから
- e.~わけだから
- e.~の(ん)だから
では、実際の会話の中で、(1)の「表現文型」の使い方を確かめてみましょう。
<地震のニュースを聞いてAが友達のBに電話をしている>
- A:
- 家は大丈夫だった?
- B:
- 地震のせいで、屋根が崩れ落ちて……。
- A:
- 大変だったね。
- B:
- うん、でも、ボランティアの人たちのおかげで、後片付けは終わったよ。
- A:
- そう、よかったね。
家にはいつ戻れるの? - B:
- まだ水と電気が来ないものだから、しばらくはだめだね。
- A:
- それは大変だね。
- B:
- 皆困っているんだから、どんどん復旧工事を進めてほしいよ。
- A:
- うん、でも、担当者も一生懸命やっているわけだから……。
(1)の表現文型を表にまとめると、次のようになります。
~おかげで1 | ~おかげで2 | ~せいで | ~ものだから | ~わけだから | ~の(ん)だから | |
---|---|---|---|---|---|---|
プラス評価 | ○ | |||||
マイナス評価 | ○ | ○ | ||||
皮肉の気持ち、 冗談っぽい |
○ | |||||
客観的 | ○ | ○ | ||||
主観的 | △ | ○ | ○ | △ | ○ | |
論理的帰結、 理屈っぽい |
△ | ○ | ||||
後文に働きかけの 強い表現がとれる |
△ | ○ |
表では、利益を受ける「~おかげで」を「~おかげで1」、不利益を受けるものを「~おかげで2」で示してあります。話し手の評価・気持ちが入る表現のうち、プラス評価は「~おかげで1」、マイナス評価は「~せいで」と「~おかげで2」です。
「~の(ん)だから」「~わけだから」「~ものだから」は、評価というより話し手の説明・理由付け・言い訳を表します。「~わけだから」→「~ものだから」→「~の(ん)だから」の順で主観的になります。
2.「から」を含む理由表現「~から・~からか・~からこそ・~からには」
「理由」を表す表現には、「から」という語を含むものがいくつかあります。
ここでは、それらの表現について考えましょう。次の(2)のABは知人同士で、ピアノコンクールについて話しています。
- (2) <ピアノコンクールの予選結果発表の会場で>
- A:
- Bさん、予選通過、おめでとう。
- B:
- ありがとうございます。
-
- a.皆さんが応援してくださったから、予選をパスできました。
- b.選んだ曲がよかったからか、予選をパスできました。
- c.先生のご指導が素晴らしかったからこそ、パスできたんですよ。
- d.選ばれたからには、本選も頑張ります。
a「~から」は話し言葉で、直接的な気持ちを表す「理由」表現です。
b「~からか」は、aの理由「~から」に不確かな気持ちを表す「か」が付いた形で、「はっきりわからないが、~からだろうか」と曖昧に理由を示しています。理由をぼかした言い方です。ここではBの謙虚な気持ちが出ています。
c「~からこそ」は、理由「~から」に取り立て助詞「こそ」が付いたものです。「唯一その理由のために」という意味で、話し手が主観的に、強調して理由を述べています。その強調した気持ちを受けて、後文の文末には「~の(ん)だ」が来やすくなります。
d「~からには」は、「ある状況になった以上は」の意味で、後文には「絶対やる」という決意の表現が来ることが多いです。後文には、また、働きかけを表す依頼・命令等の表現も来ます。「~からこそ」が前文を重視するのに対して、「~からには」は後文を重視し、「だから、こうしたい/こうすべきだ」という決意や対処方法を示すことが多いようです。
以上、(2)で取り上げた「から」を含む文の形(表現文型)は次のようになります。
- a.~から
- b.~からか
- c.~からこそ
- d.~からには
では、実際の会話の中で、「表現文型」の使い方を確かめてみましょう。
<ABは同じ団地に住んでいる>
- A:
- この団地はペットを飼っている人が多いですね。
- B:
- そうですね。
ペットを飼っているからか、皆さんお元気ですよ。 - A:
- ペットといっしょだから、元気なんでしょうね。
- B:
- そうですね。
- A:
- でも、ペットを飼うからには、ルールを守る必要がありますね。
- B:
- もちろんです。
ルールを守るからこそ、人もペットも幸せになるんです。
(2)の表現文型を表にまとめると、次のようになります。
~から | ~からか | ~からこそ | ~からには | |
---|---|---|---|---|
直接的 | ○ | ○ | ○ | |
曖昧な言い方 | ○ | |||
主観的 | ○ | ○ | ○ | |
強調的な言い方 | ○ | ○ | ||
その理由のために | ○ | ○ | ||
ある状況である以上は | ○ | ○ | ||
後文末に「の(ん)だ」が来やすい | ○ | |||
後文に決意・働きかけが来る | ○ | ○ |
話し言葉的表現の「~から」から派生しているので、すべて話し言葉的で、会話的な表現です。
「~から」「~からこそ」「~からには」は積極的、かつ肯定的な意味合いを持ちます。
「~からこそ」と「~からには」は両者とも主観的、強調的で、「その理由のために」という意識が強い点でよく似ています。両者の違いは、「からこそ」が前に来る事柄を重視するのに対し、「からには」は後ろ(後文)の事柄(多くは決意)を重視するという点です。
(市川保子/日本語国際センター客員講師)