日本語教育通信 文法を楽しく「表現意図 -逆接-」
文法を楽しく
このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。
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表現意図 -逆接-
「表現意図」シリーズ9回目の今回は、「逆接」を取り上げます。「逆接」というのは、前文と後文が反対の関係にあったり、前文の内容から予想される結果が後文に現れなかったりするような接続の関係を言います。
「逆接」表現というと、「~が・~けれども/けれど/けど・~ても・~のに」などがよく使われますが、今回は書き言葉的な「~ながら(も)・~にもかかわらず・~ものの・~にかかわらず」と、話し手が前文の内容を部分的に言い直す表現、「~といっても」「~とはいえ」「~からといって」などを取り上げます。
1.書き言葉的逆接表現
書き言葉的な逆接表現の中から、「~ながら(も)」「~にもかかわらず」「~ものの」「~にかかわらず」を見ていきましょう。次の(1)では、近所同士のAさんとBさんが、「友子さん」のことを噂しています。会話の中で書き言葉的表現が使われると、やや硬い、改まった言い方になります。
- (1)
- A:
- 友子さんは若いですね。
- B:
-
- a.彼女は若いながら(も)、しっかりした女性です。
- b.彼女は若いにもかかわらず、自分の力で家を建てました。
- c.彼女は若く見えるものの、やはり体力的には弱いところがあります。
- d.彼女は外見にかかわらず、しっかりした女性です。
a~dでは、後文には意志や働きかけ表現は来ません。
- ①?私は疲れているにもかかわらず、頑張ろうと思います。
- ②?あなたは疲れているかもしれないものの、もう少し仕事してください。
a「ながら(も)」は、状態性の表現に接続して、逆接的な意味を表します。「も」の入った「~ながらも」は逆接の意味合いがより強くなります。「若いながら(も)」「子供ながら(も)」「貧しいながら(も)」「知りながら(も)」など、慣用表現として使われることが多いです。
b「~にもかかわらず」は、「~のに」(例:彼女は若いのに、自分の家を建てた)と同じく、前文からの予測と食い違った事態を、後文で表します。しかし、「~のに」と異なり、非難や批判の気持ちは入りません。通常は、単に逆接的関係を示す客観的な言い方になりますが、「~にもかかわらず」のように、取り立て助詞「も」が入っていることもあって、話し手の気持ちが入ることがあります。例えば、「忙しいにもかかわらず、友達が見舞いに来てくれた」では、友達に対する感謝の気持ちが表れています。
「~にもかかわらず」は多くの場合、すでに起こったか起こっている事柄について使われます。③は過去の事柄なので適切な文になっていますが、④は将来のことについて話しているので、不自然な文になっています。
- ③彼は、私が反対しているにもかかわらず、会社を辞めてしまった。
- ④?彼は、私が反対しているにもかかわらず、会社を辞めてしまうだろう。
c「~ものの」は前文で述べた事柄に対して、それを一応認めながら、それに対立する、または、そぐわない事柄や状態に言及する場合に用います。その場合、前文の内容に対して、後文で、それを認めながら反省や残念な気持ちを表すことが多いです。
- ⑤手紙を書いたものの、1週間出せないでいる。
- ⑥子供に出ていけとは言ったものの、今では後悔している。
d「~にかかわらず」は形の上で「~にもかかわらず」と似ていますが、両者は意味用法が異なります。「~にかかわらず」は「それとは関係なく」の意味を表します。「この会社には、年齢・性別・経験にかかわらず、応募できる」「父は晴雨にかかわらず毎日散歩に出かける」とういうような使い方をします。「にかかわらず」の前に来る語は「晴雨」「大小」「あるなし」「良し悪し」「成功するかしないか」のような対立的な意味合いを持つ語や表現が来ることが多いです。
以上、(1)で今回取り上げた文の形(表現文型)は次のようになります
- a.~ながら(も)
- b.~にもかかわらず
- c.~ものの
- d.~にかかわらず
では、次のストーリーの中で、(1)の「表現文型」の使い方を確かめてみましょう。
次のストーリーは大学4年の息子を持つ父親が、息子の就職活動(就活)について書いたものです。
息子の健太は大学の4年生で、今就活の真っ只中である。4年生は卒論の準備に時間をとられながらも、就職試験に挑戦しなければならない。
健太も何度か就職試験を受けたようだ。前回は最終選考まで残ったものの、最後の面接で落ちてしまったらしい。
健太は理工系にもかかわらず、理工系とは関係ない会社ばかり受けている。
私は、通る通らないにかかわらず、○○研究所を受けてみたらと勧めてみた。
彼が最終的にどうするか分からないが、彼に合った就職先が見つかればいいと思う。
(1)の表現文型を表にまとめると、次のようになります。
~ながら(も) | ~にもかかわらず | ~ものの | 名詞+にかかわらず | |
---|---|---|---|---|
硬い言い方 | ○ | ○ | ○ | ○ |
強調的 | ○ | |||
客観的 | ○ | ○ | ||
主観的 | ○ | △ | ○ | |
予測と食い違う | ○ | ○ | ||
前文の事柄を一部 認める |
○ | |||
「名詞」の内容に 関係なく |
○ |
取り上げた4つのうち、話し手の気持ちが入るのは、「~ながら(も)」「~ものの」で、「~にもかかわらず」は基本的には客観的表現ですが、「私があれだけ言ったにもかかわらず、彼は非行に走ってしまった……。」のように話し手の気持ちが入ることもあります。
「~にもかかわらず」と「~にかかわらず」は、形は似ていますが、前に来る語の性質や意味用法は異なります。
2.部分的に言い直す表現
次の(2)は会社の中での、社員同士の会話です。Aに対しBは、いろいろな形で「言い直し」を表現することができます。a~eのうち、b「~とはいえ」とd「~といえども」は書き言葉的で、会話の中ではやや硬い言い方印象を与えます。
- (2)
- A:
- あの問題、解決したんですね。
- B:
- いやあ、
- a.解決したといっても、まだ不安があります。
- b.解決したとはいえ、まだ不安があります。
- c.解決したからといって/からって、安心してはいられません。
- d.解決したといえども、安心してはいられません。
- e.解決する/したことはしたんですが、まだ不安があります。
a「~といっても」は、前文で述べた事柄について、「それはそうなんだが、実はそれで十分なのではない」と後文で付け加え、部分的な言い直しをする表現です。後文には「~ない」をはじめ、否定的な意味合いの表現が来ることが多いです。
「いっても」は「言う/言った」から派生していますが、必ずしも「言う」という言動とは関係なく、慣用的な言い方として使われます。説明的・解説的な、やや硬い表現です。話し手の判断を強める場合は、「は」を入れて「~とはいっても」となることもあります。
b「~とはいえ」は、「~といっても」をさらに硬くした言い方です。意味は「~といっても」とほぼ同じですが、書き言葉的な表現です。
cでは、「といって」の前に理由「から」が来ています。後文に「~ない」などの否定表現を伴って、「そういう理由・要因はあるが、しかし~」という意味を表します。「そういう理由は認めるが、しかし、その理由だけで(結論付けてはいけない)」ことを示唆する表現です。(例:彼女が泣いて謝ったからといって、すぐには信じてはいけない。)
「からって」は「からといって」の短縮形です。短縮形は丁寧度が落ちるため、目上の人に使うと主張が強く響きます。
d「~といえども」は書き言葉で、話し言葉では「~けれども」に置き換えられます。「といえども」の前に「社会通念として認められる事柄や人、もの」が来て、後文で「そうした事柄・人・ものから期待される予想とは異なって、実際はそうではない、不十分だ」ということを表します。(例:父親といえども子供に暴力を振るうことはできない。)
dでは、「一応(社会通念として)解決した」という形にはなったが、まだ安心できないという意味になります。
eは話し言葉で、「一応は~したが/けれども、完全ではない」という部分否定を表します。同じ動詞が繰り返されますが、最初の動詞を非過去(辞書形)にする場合もあります。繰り返しの形をとっているため、柔らかく丁寧な言い方になります。
- ①就職先は決まる/決まったことは決まったんですけど、あまりいい会社ではありません。
- ②課長に文句を言う/言ったことは言ったんだけど、聞いてくれなかった。
以上、(2)で今回取り上げた文の形(表現文型)は次のようになります。
- a.~といっても
- b.~とはいえ
- c.~からといって/からって
- d.~といえども
- e.~ことは~が、~
では、実際の会話の中で、(2)の「表現文型」の使い方を確かめてみましょう。
<Aは女性、Bは男性で友人同士。Aは100円ショップでコーヒーカップを買った>
- A:
- このコーヒーカップ、100円ショップで買ったのよ。
- B:
- へー、これ100円?
- A:
- そうよ。安いとはいえ、十分使えるのよ。
- B:
- そうだね。安いからといって馬鹿にできないね。
- A:
- そうよ。大手食器メーカーといえども、これには負けるよね。
- B:
- そうだね。
100円ショップといっても、最近は何でもあるんだね。 - A:
- ほんとそうね。
(2)の表現文型を表にまとめると、次のようになります。
~といっても | ~とはいえ | ~からといって/からって | ~といえど(も) | ~する/したことはする/した | |
---|---|---|---|---|---|
話し言葉 | ○ | ○ | ○ | ||
書き言葉的 | ○ | ||||
客観的 | ○ | ||||
説明的・解説的 | ○ | ○ | ○ | ○ | |
硬い言い方 | ○ | ○ | |||
そういう理由・要因はあるが、しかし | ○ | ||||
一応は~したが、完全ではない | ○ |
取り上げた5つは、前文の事柄を後文で部分修正したり、言い直したりする表現です。
「~といっても」は前文で部分的に認めながら、後文で部分的に修正する意味用法を持ちます。
「~といえども」は書き言葉的、「~とはいえ」は硬い言い方です。その他の表現は話し言葉的ですが、説明的・解説的な側面を持ちます。
ほとんどの表現に「いう」が含まれていますが、「言う」本来の意味はなく、「人や世間はそう言うが……」と一応認めて、後文で自分なりに言い直したり、主張したりする表現だと言えるでしょう。
- ※ 今回で「表現意図」シリーズは終わります。お役に立ちましたか。
また、今回で私の担当の「文法を楽しく」も終了させていただきます。長い間ご愛読、有り難うございました。
(市川保子/日本語国際センター客員講師)